ニュージャージー医科歯科大学(UMDNJ)とニュージャージー工科大学(NJIT)の共同研究チームは、没入型(immersive)の仮想現実(VR)環境とロボットを組み合わせて、発作後のリハビリテーションの壁を打ち破ろうとしています。この研究は、アメリカ国立衛生研究所がNJITのSergei Adamovich博士とUMDNJのAlma Merians博士に支給する助成金によって進められています。UMDNJの准教授であるGerard Fluet博士は、「当チームの研究は、脳卒中の発症後数年が経過した患者にも大幅な機能改善をもたらしています」と説明しています。
予備調査の段階で、患者が理学療法から最大の成果を得るためには、高強度のリハビリを行う必要があることが示されていました。そのため、患者が自力で行うよりも高強度のリハビリに長時間取り組むことができるように、仮想現実(VR)環境とロボットが組み合わせられました。1日3時間のリハビリを週4回、2週間続ける厳しいプログラムです。 VR環境が、患者の退屈を防ぐようリハビリに多様性をもたせ、ロボットは、自力では難しい動きを完了できるよう患者をして疲労を防ぎます。この2つの組み合わせが、患者により強い達成感を抱かせ、2週間がんばり通す意欲をかき立てるのです。
動きを大きくして治療効果を向上
患者はVRの世界で、棚からカップを取ってテーブルの上に置いたり、ボールをつかんだり、ハンマーを使ったりするよう指示されます。理学療法士は、患者にとって最適な課題になるようにタスクの難易度を設定します。患者がそのタスクを完了できたら、次はより小さい物体を動かすようにしたり、もっと遠くに置いたりして難易度を高めます。患者がタスクを遂行できなかった場合は、動かす物体を大きくしたり、より近くに置いたりして、タスクを少し易しいものにします。
ロボットの介助がリハビリによる回復を促進
VR環境のプログラミングに参加した研究技師のQinyin Qiu博士は、次のように述べています。「ロボットは、患者さんが自分の能力を最大限に発揮してタスクを行えるよう介助します。コンピュータ・サイエンスの専門家として、仮想現実ゲームが人の生活にこれほど良い影響をもたらすことを見られたのは驚くべきことです。」
ロボットは、患者がタスクのどの部分まで実行したか、患者がどれだけの力を出したかを測定し、その動きを完了させるために必要な分だけを介助します。このような「補助的な力」が、たとえば指を小刻みに動かすといった患者のほんの小さな動きを、意味のある動きに変えていく手助けになります。
Fluet博士は次のように述べています。「意味のある動きは、脳が回復する過程に長期的な影響を及ぼします。当研究チームは、リハビリそのものの向上に取り組むだけでなく、脳が身体の動きをどのように制御しているかに関する知見も得ています。」トレーニングの前後に撮影した患者の脳画像を見ると、トレーニングに反応して新しい神経結合が形成されつつあることがわかります。「こうした神経結合がこれほど短期間に形成されるとは、実に感動的です。」
「理学療法士が患者さんに向かって、『これ以上の改善は見込めない』と告げるとき、私たちは患者さんを見捨てたように感じます。」と、Fluet博士は続けています。しかしこの新しい研究では、発症後数年経っても改善が可能であると立証されたのです。「これからは患者さんに、『あきらめないで、まだ望みはあります』と声をかけてあげられます。」