サービス型 マニュファクチャリング(maas)

工場から、カスタマイズした製品をデザイナーや企業に提供

Mark Webb
8 May 2015

自分が使うようにカスタマイズした自分だけの製品 – 車やバッグ、靴を購入する消費者の多くは、好み のデザインにできる製品に魅力を感じています。カ スタマイズを管理しやすくするテクノロジーを導入 し、工場はサービス型マニュファクチャリング(MaaS: Manufacturing As A Zsrvice)を提供する体制を整え ています。

着用する人の体型にぴったり合わせ た下着から、顧客のこだわりを取 り込んでさまざまな素材を組み合
わせた靴まで、自分が購入する商品を消費 者が好みに合わせてカスタマイズできるよ うになるにつれて、MaaSが世界中で導入さ れており、特に製造工程を請け負う工場で は顕著です。

たとえば、米国ミネソタ州で機械加工・成 形部品を扱うProto Labs社は、クレジット カード決済に対応し、世界中の設計者から単発で依頼される特注部品を一つ一つ 製作、設計者に直接納品しています。この サービスを可能にするのが、高速なイン ターネット接続、安価なクラウドストレー ジ、そして現在ではインダストリアル・イ ンターネット・オブ・シングス(Industrial Internet of Things:IIoT、またはインダスト リー4.0)によって可能になった高度なイン テグレ―ションです。

米国マサチューセッツ州でアドバイザリー サービスやベンチマーキング サービスを提供しているLNS Research社の社長兼主 席アナリスト、Matthew Littlefield氏は次 のように語ります。「インダストリー4.0、 または第4の産業革命とも呼ばれているス マート マニュファクチャリングはすでに 実現されています。ただし、まだ広く普及 しているわけではありません。これが “革 命” と言われるのも実態とはかけ離れてお り、今後の進展には5年から20年かかるで しょう」

「クラウドを利用した製造システムは、 仮想と現実の両方で3D形状を操作する必要があるため、 現在『サービスとして』実際に提供されている他の多くのシステムよりも はるかに導入が難しいのです。」

Jonathan Corney教授
(スコットランド、ストラスクライド大学、専門は設計・製造)

MaaSの草分けである電子機器受託製造 (EMS)業界では、オンデマンド方式で電子 部品をプリントし、大量の在庫を抱えないようにしています。航空機の製造分野では、 エアバス社が2012年からA350 XWB用のブ ラケットの製造に3Dプリンターを使用し ています。また、ロールス・ロイス社は、3D プリンターで作った航空機部品として最大(同社調べ)のものとなるチタン製フロント ベアリング ハウジングを使った航空機の 試験飛行を2015年に予定しています。

グローバル化によって 生まれたMaaS

MaaSの起源は、OEMメーカーがグロー バル対応の一環として製造工程をアウト ソーシングしていた20世紀後半に遡りま す。Littlefield氏は次のように予測します。「この種の関係は、今後は契約を履行する のではなく、本物のMaaSへと進展するこ とになります。メーカーは、“インダストリ アル・インターネット・オブ・シングス”でリ アルタイムの可視性を手に入れます」

「MaaSが進展するにつれて、メーカーは 製品そのものではなく、製品の性能を販売 するようになります」とLittlefield氏は語り ます。たとえば、ロールス・ロイス社はエン ジンそのものを販売するのではなく、IIoT を使って自社エンジンの運転時間を測定 し、その分課金します。MaaSの急激な普及 によって、こうした「使った分だけ支払う」サービスの提供がさまざまな分野で可能 になるでしょう。

実際の現場

MaaSプ ロ バ イ ダ ー のProto Labs社 は、グ ローバルな接続性と地域の製造工場を一 体化し、7つの異なるマニュファクチャリ ング プロセスを、場所を問わずに工業デザ イナーに提供します。

Proto Labs社のバイスプレジデントであ り、南北アメリカ総括責任者も務めるRob Bodor氏は次のように語ります。「私どもの 製品はすべてインターネットに対応し、デ ザインのアップロードから出荷まで、個々 の注文をソフトウエアで追跡します。ス ピードと徹底した自動化にこだわること で、指定どおりの数量の部品をたった一日 で納品できるのです」

Proto Labs社のソフトウエアは、デザイ ナーの「what if(もし~だったら)」とい う問いに対しても答えを提供します。「私 どもの製品は製造容易性に関するさまざ まな対応をします。デザイナーは、CADの ソースファイルとの比較で違いが明確に 表示された完成部品の3Dレンダリング画 像を受け取ります」(Bodor氏)

ITプラットフォームの構築

第4の産業革命の構想に携わる国家プロ ジェクトや大学、製造テクノロジー ベン ダーによって、MaaSの作業を進める際の指 針が定義されています。これには、たとえ ばクラウドのストレージ、作業指示書やデ ジタル資産を無線で送信する機能、さまざ まなタイムゾーンをまたいで仕事をする チーム間の調整を容易にするコラボレー ション ツールなどが含まれています。

スコットランドのストラスクライド大学 で 設 計・製 造 を 教 え るJonathan Corney教 授は次のように語ります。「クラウドを利用した製造システムは、仮想と現実の両方で3D形状を操作する必要があるため、現在 『サービスとして』実際に提供されている 他の多くのシステムよりもはるかに導入 が難しいのです」。ストラスクライド大学 は、MaaSをサポートするために必要なIT環 境を開発・検証するために立ち上げられた 欧州連合(EU)のManuCloudプロジェクトに協力しました。

し か し 、C o r n e y 教 授 は「 複 雑 に 入 り 組 ん だ テクノロジーの中で最後まで決まらなかっ たのが、ネットワークで利用できる個々 の成形ツールやカッティングツールで使 用 す るManufacturing Service Description(MSD)の定義」だと語ります。

「その理由は、任意のコンポーネント製造 をサポートする柔軟性をシステムに持た せながらコード化するのが難しいからで す。結果的に、当大学ではMSDや、その定 義を支援する言語の開発に力を入れてい ます」(Corney教授)

ビジネスの変化

メーカーがMaaSを活用する際の最初のス テップは、ITを用いて一貫性と品質を確保 し、どのロケーションにおいてもプロセス に均一性を持たせることだとLittlefield氏 は語ります。同氏によると、たとえばBMW 社などの欧州の自動車メーカーは生産工 程をリアルタイムに可視化しているため、 特注車の販売で業界をリードしています。

多くの自動車メーカーがすでに、購入者が 各種オプションをさまざまに組み合わせ られるしくみをオンラインやモバイルで 提供していますが、MaaSを導入すればこ のしくみがさらに大きく前進することに なるとLittlefield氏は語ります。つまり、消 費者はメーカーのデザイナーといっしょ にオンラインでオプションを試し、自身が 選択した組み合わせで実際に車の生産が 可能なことを確認できるのです。

「テクノロジーを提供する企業が信頼性の 高い3Dモデルを開発しています。こうした 3Dモデルはネットワークを介して簡単に 共有でき、生産工程にも直結しています」
(Littlefield氏)◆

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