AABI Research社の推定では、2020年までに、ジェット旅客機から包装機械に至るまで300億個のデバイスがインターネットに接続されることになります。この動向は、産業機械業界に非常に大きな影響を及ぼします。メーカーは、自社の機械類にインテリジェンスと接続性を組み込むことで、提供するサービスにイノベーションを起こし、新しい高利益の収入源を生み出すのと同時に優れたカスタマー・エクスペリエンスを提供することができます。
産業工作機械をインターネットに接続すると、摩耗から生産パターンにわたるあらゆる事柄について、メーカーに情報を送り返すことができます。メーカーはこうした情報を利用すると事前対応型のサービスを提供できるようになります。顧客にとっては、こうしたサービスは、稼働停止期間をなくして生産の最適化に役立てられます。
Fraunhofer Institute for Industrial Engineering IAO(Fraunhofer IAO)社は、調査、科学、ビジネス分野のサービスを一体的に提供するドイツの会社です。Fraunhofer IAO社の前ディレクターDieter Spath氏は次のように述べています。「多くの場合、製品そのものよりも取り巻くメンテナンス等のサービスの方が重要です。Industry4.0は、多くの先進工業国で、サイバーフィジカル製品を利用してインターネットの力を製造業のサービス面に展開する新たな手段として認知されるようになってきています。」
この機能を利用することで、産業機械メーカーはより多くのサービスを提供し、顧客の機械を最適化することができます。「競争力を維持するために、企業はサービスオファーを前面に押し出しています。利益率の高いサービスの需要を作りだすために、製品や機器を無償で提供したり、報奨金を支払ったりすることさえ考えられます。そのためメーカーは、サービスの準備段階においてイノベーションを実現し、機敏に対応する必要があります。」
ナレッジの価値
自身の状態を絶えず監視し、その情報をメーカーに報告する機器の場合、メーカーも、顧客が機械をどのように使用しているかをより詳しく知ることができます。
Spath氏は次のように述べています。「メーカーはそうした情報を利用して、より優れた機械やサービスをユーザーに提供できます。たとえば、世界各地に配置された数千もの機械を、現地から離れた一つの場所から監視、制御、スケジュールすることが可能になります。接続されたシステム内で、機械が自己診断して部品を自動注文するのです。機械やシステムを監視、調整し、最新式にする新しいサービスが出現して、それらの潜
300億
ABI Research 社の推定では、2020 年までに、300億個のデバイスが インターネットに接続される ことになります。
米国マサチューセッツ州にあるハーバードビジネススクールでManagement Practice講座を受け持つWilly Shih教授は、次のように述べています。「工場の現場から大量のデータを得て蓄積することが、あまり費用をかけず容易に行えるようになってきています。分析手法を適用すれば、データを利用して生産の最適化、欠陥の発見、無駄の削減を効率的に進められます。そうしたデータの価値を発揮させることに関連する新しいサービスが現れて、機械の所有者には、設備の稼働率を高め、使用可能時間を伸ばしてシステムパフォーマンスを向上させ、より高いレベルの生産性を達成する方法が示されることになります。」
より大きなデータセットを処理すると、メーカーは生産性測定基準の因果関係をリアルタイムで理解できるようになるとShih教授は述べています。「以前は、これほど多くのことを認識できませんでした。たとえば、複雑な多段階生産において、歩留りの変動パターンを、その原因と一緒に確認することができます。これは問題の特定に役立ち、企業は直ちにアクションを起こして問題を解決できます。顧客は稼働停止期間を短縮し、スループットを向上させるためにはお金を使うため、企業にとっては、このデータを収集して分析し、対処するサービスの機会が存在することになります。」
グローバルな工場
テクノロジーのこうした進歩は、「機械メーカーがデータに基づく高利益の新サービスを提供するための、可能性に満ちた環境を作り出しつつあります。そして顧客は、それらのサービスによってより多くの収益を上げられるようになります」と語るのは、米国ポートランド州立大学のシステム工学客員教授で、ハイテク関係出版社Extension Media社でコンテンツ最高責任者を務めるJohn Blyler博士です。
Blyler博士は、ネットワークに接続したシステムが広範にわたる改善を即時に実現できる例として、生産工場におけるエネルギーの使用状況を挙げています。「機械を使用するメーカーが安価なエネルギーを活用できるようにする会社は、メーカーがより低いコストの製品を製造することを支援できます。具体的には、エネルギー価格に応じてエネルギーを節約するため、システムが接続されたグローバルな工場にまたがって生産が行われることになり、製造の場所やスケジュール、生産レイアウト、機械加工セル、供給ラインが自律的に変更されます。」
行動しないことのリスク
マサチューセッツ工科大学(MIT)のビジネススクールであるスローン校とCapGemini Consulting社が最近発表した「Embracing Digital Technology」というタイトルの調査レポートによれば、調査対象となったグローバル企業のエグゼクティブのうち、デジタル革命が新しい製品やサービスの投入に及ぼす潜在力を認識している人の割合は25%にすぎませんでした。そのため、今行動を起こす企業は優位に立つことになります。
たとえば、世界各地に配置された数千もの機械を、現地から離れた一つの場所から監視、制御、スケジュールすることが可能になります。
Dieter Spath 氏
Fraunhofer
このレポートでは、この潜在力を認識している企業としてGeneral Electric(GE)社を挙げています。GE社は、保守の予定を立てて部品の故障を回避し、操業状況を改善する方法を顧客に伝える助けとなるサービス戦略を積極的に推進しており、同社では、製品の保守関連サービスの販売が予定されています。GE社の計画は一例にすぎず、レポートでは「デジタルテクノロジーが新しいビジネスを作り出す可能性は高い」と指摘しています。
ただし、この課題への取り組みに失敗した産業機械メーカーには、今後さらに厳しい時代が到来する可能性があります。Blyler博士は次のように予測しています。「より効率的なライバル企業や新規参入企業が、ますます活発化してきたこの分野を獲得することに力を注いで革新的なサービスモデルを採用すると、価値の高いプロフィットセンターが浸食されるため、この動向を無視した機械メーカーは悲惨な状況に陥る可能性があります。」