複雑なシステムを効率的に設計でき るようにすることは、とてつもなく大 き な 取 り 組 み で す 。「 従 来 の 方 法 で は ま ず ハ ー ド ウ ェ ア の 構 造 、つ ま り 部 品 と 部 品相互の接続に着目し、相互に作用する部品 を適切に配置することで望みの挙動(ビヘイ ビア)を実現しようという考え方でした」と語 るのは、公認技師であり、国際システム・エン ジニアリング協議会(INCOSE : International Council on Systems Engineering)フェロー でもあり、関連著作も多いHillarySillitto氏( 英 ・ ス コ ッ ト ラ ン ド ) で す 。
しかし、この「構造第一」の手法はサブシステム間の衝突を招きます。「考えられる相互作用が多すぎるので、この手法では好ましくない、または容認できない特性や挙動が他に無いということを保証できません」と、Sillitto氏は言います。
そ の 上 、モ ノ の イ ン タ ー ネ ッ ト( I o T )の 台 頭 で課題が急増しています。「この指数関数 的に拡大している相互接続網は、システム における相互作用の複雑さ、頻度、伝播を 劇 的 に 増 や し て い ま す 」と 、フ ォ ー ド ・ モ ー ターのリードエンジニアを務めた後、現在は ブ ー ズ ・ ア レ ン ・ ハ ミ ル ト ン( 米 )の フ ェ ロ ー兼チーフエンジニアで、INCOSEでSEトラン スフォーメーション(SE Transformation) のアシスタントディレクターを務めるTroy Peterson氏は述べています。
IoT向けに設計された製品開発を主導する ド イ ツ の 家 電 メ ー カ ー 、ミ ー レ は 、こ の 課 題 をよく把握しています。「製品の機能は、ます ま す ハ ー ド ウェ ア と ソ フト ウェ ア の 複 雑 な 組 み 合 わ せ の 結 果 と な っ て い ま す 」と 、同 社 の 仮想製品開発責任者Matthias Knoke氏は 語 り ま す 。「 従 来 は 多 く の 機 能 が 機 械 に 依 存していましたが、現在ではメカトロニクスの組立部品に取って代わられているため、機能の範囲が大幅に拡大しています。ますます多くの分野を同時に調べ、製品に取り込まなければいけません。従来の開発手法やテスト手法ではもはや十分とは言えません」(Knoke氏)
モデルベースシステム・ エ ン ジ ニ アリング
複雑なエンジニアリング上の課題を仮想 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン を 使 っ て 軽 減 す る 、モ デ ルベ ー ス シ ス テ ム ・ エ ン ジ ニ ア リ ン グ( M B S E ) 手法の可能性を探る企業や組織は、ますま す増えています。INCOSEの定義では、MBSE は「概念設計段階から始まり、開発やその後 の ラ イ フ サ イ ク ル 段 階 を 通 じ て 続 く 、シ ス テ ム の 要 件 、分 析 、設 計 、検 証 と 妥 当 性 確 認 を サポートするためのモデリングの定型化さ れ た 適 用 」と さ れ て お り 、産 業 機 器 企 業 が 現 在直面している課題の多くを軽減できる見 込みがあります。
「3Dデジタル表現を使い、 基本的には全く壊れていない部分を修正するコストと無駄を排除しつつ、顧客に優れたアップタイムと性能を提供しました」
PAUL BORIS氏
GE デジタル製造業部門責任者
ミーレはすでにその恩恵を享受しています。 「MBSEを使うと製品の複雑さに体系的な手 法 で 対 処 し 、も っ と 扱 い や す く な り ま す 」 と 、 K n o k e 氏 は 言 い ま す 。「 そ の 結 果 、 開 発 リ ー ド ・ タ イ ム を 短 縮 し 、関 連 す る 研 究 開 発 費 用 も 削 減 で き ま す 。さ ら に 、さ ま ざ ま な 分 野の連携や相互のコミュニケーションも改 善します」(Knoke氏)
公共事業向けタービンから航空機エンジン まで、産業機械システムの世界的供給企業 である米国のGEもMBSEの恩恵を理解して い ま す 。「 こ の 手 法 は い く つ か の 基 本 的 な 理 由から極めて重要です」と、GE デジタルの 製造業部門責任者であるPaul Boris氏は述 べています。「デジタル表現を構築すると、機 械が耐えられる条件や応力を含めることが で き ま す 。例 え ば 、当 社 に は 予 想 と 食 い 違 う 摩耗パターンを示す複数の航空機エンジン がありました。問題点を把握するためにすべ てのエンジンの稼働を停止させる代わりに、 こ れ ら の 特 定 の デ バ イ ス の 使 用 パ タ ー ン に 対 応 す る バ ー チ ャ ル・コ ピ ー を 使 い ま し た 。 そしてその結果使用パターンが性能低下を 引き起こすことを究明しました。埃粒子は地 域 ご と に 組 成 の 違 い が あ り ま す 。そ う し た 埃粒子を洗浄するシステムを開発しました。問 題は極めて特定の領域の極めて特定のエン ジ ン に 限 定 さ れ 、修 正 も 同 じ で し た 。基 本 的 には全く壊れていない部分を修正するコス トと無駄を排除しつつ、顧客に優れたアップ タイムと性能を提供しました」(Boris氏)
ま た 、米 航 空 宇 宙 局( N A S A )も 、増 加 の 一 途 をたどる宇宙飛行任務の複雑さに対処する ためにMBSE手法を採用しています。「MBSE では、プロジェクト情報を信頼できる唯一の データベースに保存でき、その情報を大規 模なユーザーコミュニティに効率的に伝え ることができます」と、米カリフォルニア州に あるジェット推進研究所のシステムエンジ ニアBrianCooke氏は語ります。Cooke氏は N A S A の エ ウ ロ パ・プ ロ ジ ェ クト に 取 り 組 ん でおり、このプロジェクトは2020年代には木 星の衛星エウロパを探査することが予定さ れています。
広範な使用の促進
しかし、MBSEの採用は現実的には一握りの 例 だ け に 限 ら れ て い ま す 。テ ク ノ ロ ジ ー ネ ッ トワーク「it's OWL」(Intelligent Technical Systems OstWestfalenLippe)の戦略およ び 研 究 開 発 の 最 高 責 任 者 で あ り 、ド イ ツ を拠点とするメカトロニクスシステム設計のた め の フ ラ ウ ン ホ ー フ ァ ー プ ロ ジ ェ クト グ ル ー プのSE部門の責任者Roman Dumitrescu氏 は、いくつかの要因がMBSEの採用を制限し て い る と 述 べ て い ま す 。「 複 雑 な 技 術 シ ス テ ムをモデリングするためにMBSEや具体的 なプロファイルを実装する方法の明確な定 義されたプロセスなどMBSEの標準が欠け ています」と、Dumitrescu氏は語ります。「そ の上、MBSEを使えるエンジニアが十分にお ら ず 、専 門 教 育 プ ロ グ ラ ム も ほ と ん ど あ り ま せん」(Dumitrescu氏)
Dumitrescu氏は、広範な採用を実現するた めには、産業機械メーカーが実際のエンジ ニアリング課題に基づいて独自のMBSE方 法 論 を 定 義 す る 必 要 が あ る と 言 い ま す 。「 あ まり複雑ではないシステムから始めるべき ですが、プロセスや言語プロファイルにも取 り組まなければいけません」と、Dumitrescu 氏は語ります。「産業機械メーカーはエン ジニア全員にMBSEを熟知させ、小規模な MBSE熟練者チームを作成する必要があり ます」(Dumitrescu氏)
Peterson氏も同意見です。「たとえ小規模 で も 、適 切 に ス ケ ー リ ン グ し 、的 を 絞 り 、リ ソースを投入したパイロットプロジェクトがMBSEの価値を明確に実証できます」と、 P e t e r s o n 氏 は 語 り ま す 。「 し か し 、 M B S E は 万 能薬ではありません。さまざまな分野や領 域からのモデルを接続するモデルベースの 手法への転換には、持続的な能力や競争上 の優位性を求めるなら、投資、決意、統率力、 専門知識が必要です」(Peterson氏)◆