新型コロナウイルスの世界的流行が始まる前から、多くの企業が、サービスや製品の改善という課題に取り組む中で、バーチャル化のメリットを探り始めていました。こうした流れが特に顕著なのは医療の分野です。 “バーチャル“臨床試験は、患者を第一に考えた遠隔技術を利用することにより、新薬の上市に必要な研究をさらに前進させることができます。
新型コロナウイルスの感染拡大は引き続き公衆衛生を脅かし、世界経済にも大きな影響を及ぼしています。新しい治療法やワクチンの発見・開発が重要なことは明らかですが、この新型コロナウイルスは、アルツハイマー病からジカウイルス感染症に至るまで、他の研究領域にも影響を及ぼしています。
ほとんどの臨床試験は病院や診療所、開業医といった「物理的に存在している」研究施設で実施されるため、コロナ禍での試験実施においては隔離や医療機関への出入りの制限が必要となります。このため、臨床試験を希望する患者が検診を受けたり新たな臨床試験に参加したりすることが難しくなっています。臨床試験に新たに参加する世界の患者数の平均値は、2020年7月1日時点で前年比6%減となっています。コロナ禍の影響は地域によって異なり、フランスでの臨床試験の減少は9%程度ですが、英国では55%、インドは79%の減少となっています。こうした傾向は新しい治療法の開発の妨げとなるだけでなく、実験的な治療を受けることによる救命や延命、生活の向上といった機会を患者から遠ざけてしまうことにもなります。
幸いなことに、ライフサイエンス領域におけるデジタル・トランスフォーメーションの進展は、研究者側や患者側のバリアを下げることになり、前述した諸々の障害を克服し、新しい治療法を迅速かつ容易に見つけられるようになっています。こうした進展の中には、臨床試験の開始と完了を妨げる可能性のある物理的・地理的なハードルを取り除くことも含まれています。たとえば業務変革プラットフォームは、枝分かれする複数のシステムやテクノロジーを管理できるようにして効率性の向上とコストの削減を実現しています。とりわけ、こうしたプラットフォームを利用すると、研究者はすべての規制要件を簡単に遵守することができます。
メリットを認識
そのため、世界中の17の規制機関の実務を分析したことで明らかになっている通り、規制機関は臨床試験のバーチャル化を実現するテクノロジーを採用し始めています。調査対象になった4つの重要なテクノロジー、すなわち「遠隔モニタリング」、「eConsent(電子同意説明文書)」、「テレメディシン(遠隔医療技術)」、「患者に対する被験薬の直接配送」については、すべての規制機関がそうしたテクノロジー・ソリューションのうち少なくとも2つを推し進めており、6つの規制機関は4つすべてを推進しています。一部の規制機関は、こうしたイノベーションの利用が恒久化することを視野に入れ、新型コロナウイルスの感染が拡大する中で採用された緊急対策を延長する意向さえ示しています。
こうしたトレンドは、テクノロジーを活用したバーチャル臨床試験や患者との直接的なやり取りが特別なことではなく、ごく当たり前になっていることを示しています。
携帯電話やウェアラブル・センサーなどの高機能かつ高性能なテクノロジー製品は、バーチャル治験デザインやデータ収集を実用化させる一助となります。たとえば遠隔地の患者からの同意取得、治療の無作為化(ランダム化)、データの取り込み、ドキュメントのモニタリングやレポーティング、サイト利用などの役割が想定されます。一方でクラウドベースの患者ポータルでは、被験者が医師と話をしたり、体調に関する画像やデータを共有したりするためのツールを提供しています。こうしたテクノロジーはまた、研究者が被験者と緊密に連絡を取り合い、体調をモニタリングし、医療用デバイスと家庭用デバイスの両方からデータを安定的に収集できるようにしてくれます。
こうしたトレンドは、テクノロジーを活用した臨床試験のバーチャル化や患者との直接的なやり取りが特別なことではなく、ごく当たり前になっていることを示しています。2001年に初めて部分的にバーチャル化して実施された臨床試験を発端として、すでに全臨床試験のおよそ3分の1で何らかの形のバーチャル化が導入されており、そうした臨床試験に参加する被験者の数も過去数年間で2倍以上に増えています。
より良い世の中のために
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて医療業界が取り組んでいる適応策は、当面は継続し、増加もするでしょう。そしてそれを支えるのが、次世代の分析ツールやAIアルゴリズムです。こうした機能は、数十億に及ぶデータ点をふるいにかけて、製品の安全性や有効性を証明するために必要な証拠や知見を特定するためには必要不可欠です。
臨床開発の再考や再設計は、患者に新しい治療法を提供するやり方を根底から変え、これまでとは比べ物にならないほど正確で効率的な、そして患者に対する配慮が行き届いた臨床試験を実現します。
プロフィール: アンソニー・コステロは、ダッソー・システムズのMEDIDATAブランドでPatient Cloud製品を担当するシニア・バイス・プレジデントです。患者と向き合うすべての製品に加え、モバイルヘルス事業も統括しています。臨床研究業界における25年間に及ぶ経歴の中で、アンソニー・コステロは臨床技術に焦点を合わせた複数のスタートアップ企業を共同設立しています。この中には、2017年にMEDIDATAによって買収されたMytrus社も含まれています。