COMPASS:人間味あふれる都市環境を実 現するうえで、アートはどのような役割を果た すと思いますか。
Janet Echelman(以下JE):よく思うのです が、都会はコンクリートやスチール、ガラス の直線が連なり、冷たく尖った感じがします ね。けれども、人の身体は柔らかく曲線的で す。私が都会で心地良く過ごすには、もっと 人間味のある環境が必要です。手で結 だ 網を風にそよがせるアートは、工業化された 高層ビル群と私がそこに感じるギャップを埋 めてくれます。私の作品が手作業の風合いに よって物理的な結びつきを生み出せば、社会 的な結びつきも実感できます。
COMPASS:あなたの作品を観た人にどんな エクスペリエンスをしてもらいたいですか。
JE:一人ひとりに自分のストーリーを作り出 し、それぞれの体験を自覚してもらえるとい いですね。
オーストラリアのシドニーに作品を設置した とき、路上で暮らす1人の男性がショッピング カートを押しながらやってきました。彼は私 に、これは何だと尋ね、自分の考えを披露し てくれました。美術館は敷居が高いと感じて いる人と触れ合い、「アート」について語り合 えたことで、努力が報われたと思いました。 歩道なら、誰でも遠慮なく足を踏み入れるこ とができます。まるで空気を吸う うに。私の 作品は誰からも親しみやすく、空気を吸うよ うにのびのびと楽しんでもらえるものにした いですね。
COMPASS:あなたの作品は、対極にあるもの 同士の対話をモチーフにしているそうですね。
JE:私の作品はコントラストに満ちています。 工業化された機械製の部分と手作りの部分 が競い合い、風になびくソフトなフォルムが 周囲の角ばった建築物に対比しています。と ても繊細に見えるのに実は非常に強い、そん な造形物が大好きです。柔らかくしなやか で、環境の変化に対応し、暴力的ではないの に、立ち直りが早い。アート作品が街に溶け 込み、風・雨・太陽といった自然の力でひとり でに動き出すような感覚もあります。
COMPASS:ビジョンを実現するうえで、テク ノロジーをどう取り入れていますか。
JE:私は興味津々でテクノロジーに取り組ん でいます。工業技術であれ、その後のデジタ ル技術であれ、表現するためのツールの一 つだと考えていますし、開発中の新しいツー ルを活用すれば、これまでできなかったよう な作品が生み出せるでしょう。ソフトウェアで モデリングすれば、巨大なデザインが重力や 風にどう反応するかを予想することもできま す。最近では、アーティストのAaron Koblin 氏やグーグル・クリエイティブ・ラボとコラボ レートし、一般大衆に自分の携帯端末を操作 してもらうことで私の作品を光で彩るという 試みも成功させました。テクノロジーを駆使 して人々を結びつける新しい方法をこれから も探っていきたいですね。
コラボレーションは私の作品に欠かせませ ん。私は世界中の職人から伝統的な手法を 学び、新たな素材やテクノロジーを取り入れ て昔ながらの技術に新風を吹き込み、芸術 家としてのビジョンを実現してきました。
COMPASS:今はどんな作品に取り組んでい ますか。
JE:ワクワクするような依頼をいくつも抱え ています。シアトルにあるビル&メリンダ・ゲ イツ財団の本部から依頼された「Impatient Optimist」は、誰もが健康的で生産的な暮ら しを送れるようにサポートするという同財団 のミッションやポリシーを視覚的に表現した ものです。同財団は、解決できそうにない問 題にも果敢に取り組みます。そのグローバル なビジョンを形状で表現するというのが私の 挑戦でした。夜になると、照明プログラムで この作品をライトアップします。世界各地に ある同財団のオフィスに昇る朝日とリアルタ イムに連動させた色が空間をイキイキと演 出し、財団の本部を鮮やかに彩ります。
米国フィラデルフィアのディルワース広場に は、水の粒子で高さ1.5メートルの「ドライミ スト」カーテンをつくり、カラフルな照明でラ イトアップしています。この作品では、広場に 新設された1,078平方メートルの噴水の下を 走る3本の地下鉄路線を地上でトレースし、 街のレントゲン写真のようなイメージで都市 交通網を表現しています。水の粒子の動き は、電車の到着・出発データとリアルタイム に連動するように設計されています。
詳しくはこちら:www.echelman.com
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