世界各国がCOVID-19新型コロナのパンデミック対策としてロックダウンを実施すると、救命用の医療機器や安全装置の需要が急増し、重要なサプライチェーンに大規模な混乱が生じました。
これを受けて、世界的な医療技術プロバイダーのメドトロニックは、人工呼吸器の生産能力を2倍にすることを約束しました。それだけでなく、同社は従来のビジネスの境界線の先を見ていて、同社の持ち運び可能な人工呼吸器PB 560の設計仕様を公開し、大学、スタートアップ企業、その他のメーカーも同製品を速やかに生産できるようにする計画を発表しました。
メドトロニックのバイスプレジデント、Bob White氏は次のように述べます。「今回の世界規模の危機に、世界規模の対応が必要なことは分かっています。PB 560の設計情報を公開して共有することにより、新型コロナとの闘いに向けて世界の人工呼吸器の生産量が増加することを願っています」
メドトロニックと同様に、世界で何十もの企業や個人がパンデミック対策に貢献しようと前進しました。英国ではマクラーレン・グループ、エアバス、ロールス・ロイスなど自動車・航空宇宙業界の企業が、力を合わせて人工呼吸器の設計と生産に取り組みました。米国のフォード・モーター・カンパニーも同じです。そして日本ではファーストリテイリングが、中国の生産パートナーに協力を呼びかけて1,000万枚の医療用マスクを生産し、イタリア、米国、日本の医療機関に寄贈しました。
以上は企業の対応を示すわずかな例に過ぎませんが、ここで名前を挙げた企業に共通する重要な要素が1つあります。それは、インターネット経由で広く共有できる科学的に正確な3Dモデルを備え、デジタルで迅速に協力、順応、対応できる機能です。今や専門家たちは、まさにこれと同じ能力が、コロナ後を見据えてレジリエンスを強化するための――そして別の形の予期せぬ世界的混乱を乗り越えるための――土台になるだろうという点で意見を一致させています。
しなやかなサプライネットワーク
ウイルスの拡散を抑制するために世界中で工場が閉鎖されると、もはや企業は何十年もかけて構築してきた強固な世界的サプライチェーンに頼るわけにはいかないことが鮮明になりました。
米国の経営コンサルティング企業米ン・アンド・カンパニーの3人のパートナーは、同社ウェブサイトに掲載した記事「Supply Chain Lessons from Covid-19: Time to Refocus on Resilience(仮題:新型コロナがサプライチェーンにもたらした教訓:今こそレジリエンスに再注目を)」で、「新型コロナの発生により、広範囲に及ぶサプライチェーンがいかに脆弱になっていたかが明らかになった。これまで長い間、十分な柔軟性があるとして通用してきたものが、いまでは不十分である」と指摘しました。
その代わりに著者であるOlaf Schatteman氏、Drew Woodhouse氏、Joe Terino氏が企業に提案するのは、サプライヤーやパートナーで構成する柔軟なエコシステムの開発、分散したチームに力を与えるためのクラウドベースのプラットフォームやコラボレーションツールの導入、統合データを用いたリアルタイムのネットワーク可視化、インサイトの速やかな創出を実現することです。「今すぐに弾力性のあるサプライチェーンへの投資を始める企業こそが、世界のモノの流れを妨害する次の問題を乗り越えるための最善のポジションを獲得できるだろう」と彼らは書いています。
デジタル・マーケットプレイス技術は、彼らが挙げるすべての要素――買い手とそのニーズ(3DプリンティングからCNC切削、射出成形、レーザー加工、成形シート金属部品に至るまで)に応える信頼できるサプライヤーを結びつけて、彼らが協力できるデジタルな場を提供するための要素――を1つにまとめます。
ハイテク企業向けに装置や新製品を提供する米国のエンジニアリング企業、Convergent Technologies社で社長を務めるPaul Parise氏は次のように述べます。「自分の知らない相手が販売する部品を見つけて、なるべく素早く、苦労なく『 自社の設計プラットフォームに』組み込むにはどうすればよいか、という問題を解決してくれます。また様々なサプライヤーを比較することが可能で、『このサプライヤーは数量を変更したらもっと安くしてくれるか』ということだけでなく、『各種サプライヤーが、納期、配送、さらには利用可能な素材に対して、どのような見積もりを出すか』ということも分かります」
デジタル・マーケットプレイスは新型コロナのパンデミックに際し、既存ユーザーだけでなく新たに形成された企業連合――自動車メーカーや人工呼吸器メーカーなど――にもサポートを提供し、参加者が救命器具を短期間に共同開発し必要な地域に展開するための場として機能しました。新型コロナ後の世界でも、まさにこのマーケットプレイスとコラボレーションプラットフォームが、ビジネスのレジリエンスの確保という点で決定的な役割を果たすでしょう。
テクノロジー面の能力と投資をデジタルプラットフォームに移行できる企業は、新型コロナによる打撃を軽減し、現在から将来に向けて長期的に円滑な企業運営を維持できるだろう。
Sandy Shen氏 ガートナー社、シニアディレクターアナリスト
仕事の新たな世界
新型コロナの拡大の阻止に貢献しようと、企業や教育機関が在宅モデルへと移行する中、各国は国を挙げてリモートコラボレーションの習得を急いでいます。専門家らは、このような急激な学習曲線を経験することで、リモートワークの有効性に関して雇用主らが抱いていた長年の疑念が晴れたのではないかと考えています。
米国を拠点とする研究・コンサルティング企業Global Workplace Analytics社の社長、Kate Lister氏は次のように述べます。「これはリモートワークの転機かもしれません。マネジャー自身が在宅で働くようになると、在宅勤務を支持する傾向が大いに強まります。自分で実践して効果を確認することは、データとは比較にならないほど恐怖の軽減に役立ちます」
企業はすでに、リモートワークは人材確保、不動産費用の削減、従業員エンゲージメントの増進、サステナビリティ強化の1つの手段だと認識していると、Lister氏は言います。しかし一緒に働く従業員たちが、ビデオ会議や文書共有などに個別のアプリケーションを使用すると、アプリケーションの寄せ集めになって全社レベルのプライバシー、セキュリティ、コラボレーションを実現できないことが明らかになりました。
英国を拠点とする経営・技術戦略アドバイザーのBernard Marr氏はForbes.comで、「在宅勤務ができることの恩恵を評価する従業員は多いものの、多くの企業には、通常のビジネスを犠牲にせずにこれを実現するための技術的インフラがない」と書いています。
クラウド対応のデジタルプラットフォームを稼働済みの組織は、即座に優位に立ちました。例えば英国の航空宇宙メーカーVertical Aerospace社は、新型コロナに見舞われる前にクラウドのデジタルプラットフォームを導入していたため、セキュアなリモートコラボレーション機能をすべての従業員、サプライヤー、パートナーにスムーズに拡大することができました。
Vertical Aerospace社の上級航空宇宙エンジニアであるOwen Thompson Cheel氏は次のように述べます。「幸いなことに、Vertical Aerospace社ではリモートワークをする前に、すでにクラウドのコラボレーションプラットフォームに移行していました。チームには在宅勤務に必要なものがすべて揃っており、このクラウドのプラットフォームを使うことにより、実質的にパフォーマンスに何の影響も与えずに業務を継続できています。これはクラウドを使った仕事の最高の事例です。私たちはこのプラットフォームのおかげで、能力を損なうことなく俊敏性と安全性を維持し、事業の連続性を保っています」
世界が新型コロナから回復しても、経済的な困難、危機への備えに対する投資家の厳しい目、そして言うまでもなく出張削減による環境的なメリットを背景にリモートワークの流れは継続するでしょう。Lister氏は「新型コロナの結果として再びリセッション入りするかどうかに関わらず、雇用主たちは今回の経験を踏まえて、『どこで』『どのように』仕事をするかを再検討するでしょう」と述べます。
マッキンゼーの予測によると、円滑なコラボレーションの準備ができている企業は、プラットフォーム機能を使うことにより、回復が勢いを得てそのチャンスをうまく生かせるため、最終的により素早く回復し、より大きく成長するでしょう。
備えるためのプラットフォーム
新型コロナが経済、業界セクター、企業に与える影響に対処することは現在進行中の課題です。しかし否定しがたいパンデミックのインパクトが1つあります。それはデジタル化の流れが大いに加速したということです。
Matthew Stephenson氏とNivedita Sen氏は「How digital investment can help the COVID-19 recovery(仮題:デジタル投資は新型コロナからの回復にいかに貢献するか)」と題した世界経済フォーラムの寄稿記事で、次のように指摘しました。「バーチャル会議から自動化工場、そしてオンライン注文からドローン配達に至るまで、デジタルサービスは重要性を増しつつあり、ますます多くのセクターや活動に浸透しています」
「デジタル面でアジャイルな企業は、目下の危機によりうまく対応しています。そうではない企業も、自社のビジネスモデルの試練に対応する中で急速にスキルを伸ばしています」と彼らは続けています。
その良い例が、アジア有数の総合施設管理会社Aden Groupが率いるコンソーシアムです。このコンソーシアムは、バーチャルツイン3Dシミュレーション機能を備えた仮想コラボレーションプラットフォームを用いて、病院向けに感染症対策のターンキーソリューションを開発しています。これは新型コロナの打撃が深刻な国々で迅速に展開し、容易に管理できるソリューションです。
病院のライフサイクル全体――エンジニアリングから施工、調達、運用、保守まで――のシミュレーションはAden Groupの仮想コラボレーションプラットフォームでサポートされ、インフラや都市計画のイノベーターは、よりアジャイルな新しい建設アプローチを見出すことができます。
Aden Groupの共同創始者であるJoachim Poylo氏は、「新型コロナとの闘いを支援するために決断力と迅速な行動が必要とされる状況の中、デジタルプラットフォームを活用し、すぐに設置できるモジュラー型の建物を組み立てることで、最先端の医療施設を短期間に施工し、これまでにない速さで全機能の運用を実現できます。デジタルプラットフォームを使用することで、設計変更の工数削減や、迅速な開発スケジュールの維持、素早く効率的な期日どおりの納入に加えて、将来的なパンデミックに備えて医療施設の管理と安全を長期間維持できるようにするソリューションを開発したいと考えています」
こうした事例は、敏捷性に欠ける企業に分かりやすい教訓を与えてくれます。それはパートナー、従業員、ステークホルダーを含めて組織全体のデジタル化を果たすことが、新型コロナ後の世界で事業の連続性を維持するための要だということです。なぜでしょうか。それは、こうした機能をすでに活用している企業が、誰もが参加してついていかなければならない競争環境を生み出すからです。
ガートナーのシニアディレクターアナリストであるSandy Shen氏は、「Coronavirus: CIO Areas of Focus During the COVID-19 Outbreak(仮題:コロナウィルス:新型コロナの発生に際しCIOが注視するべき分野)」と題した同社のレポートで次のように指摘します。「これは、日常業務のニーズを重視するあまり、デジタルビジネスや長期的なレジリエンスへの投資を犠牲にしている組織に警鐘を鳴らすものだ。テクノロジー面の能力と投資をデジタルプラットフォームに移行できる企業は、新型コロナ発生の打撃を軽減し、現在から将来に向けて長期的に円滑な企業運営を維持できるだろう」◆
ダッソー・システムズの顧客が新型コロナに際していかに事業を継続できたのか、こちらからご覧ください。