Li hongbo

彫刻の枠を超えた体験型アート

Grace Mu
27 October 2015

中国人アーティストの李洪波(Li Hongbo)氏は、中国の民芸品である紙でんぐりからヒントを得て、彫刻の常識に挑戦しています。彼の彫刻は「スリンキー」という蛇腹のおもちゃのように柔軟性や伸縮性があり、サルバトール・ダリが「記憶の固執」で描いた時計のように自在に変形します。

李洪波氏が手掛ける紙の彫刻は、一見すると古典的な彫刻を模したごく普通の作品に見えます。しかし、伸ばせば自由自在に姿を変え、縮めればゆっくりと元の形に戻ります。2010年の映画『インセプション』に出てくる多層的な夢の世界にも似た、多重的で官能的な体験を通して、観る人を楽しませると同時にショッキングな傑作です。

李氏によれば、こうした彫刻を伸ばして変形させると、静かに鑑賞していた観客があっと驚くそうです。だからこそ、彼はたいてい身近なテーマを選びます。「テーマがありふれたものであるほど、変形したときの驚きが大きくなります。

とりわけ身近なものが奇妙なものにいきなり変身するのですから」と彼は言います。作品が元の形に戻ると、この体験が観客の心に残り、いつまでも記憶に残ります。しかし、「読者が千人いれば、千人のハムレットがいる」というように、感じ方は千差万別です。

落書きから開花した才能

李氏は芸術一家で育ったわけではありませんが、幼い頃からさまざまな場面で才能の片鱗を見せていました。学生の頃は、ノートの余白や宿題用紙に絵を描いていました。たいていは大人になるにつれて、このような「落書き」をやめてしまいますが、アートに対する李氏の思いは変わらず、中国の吉林師範大学で美術教育を専攻するまでに至りました。同校はアーティストというよりも美術教師を養成する大学ですが、彼は今でもこの学校を選んで良かったと話します。同校では専門科目に加えて、社会学や心理学、教育学などの一般教養科目も学びました。「こうしたクラスのおかげで私はアートの制約から解放され、従来の枠を超えて芸術的思考を広げることができました」と彼は言います。

彼はこうも言います。「モダンアートには無数の表現方法があります。絵画は二次元ですが、彫刻は三次元です。三次元を新たな形の技術的表現に進化させる空間的言語があるでしょうか?」この疑問を2002年に初めて抱くと、 彼は駆り立てられたようにアートの新しいあり方を追求しました。そこでたまたま閃いたのが、おもちゃやランタンに使われる中国の伝統的な紙細工、紙でんぐりです。こうして2007年から、紙の彫刻をつくるようになりました。

その後の三年間は中国全土を旅しながら、小さな製紙工場や紙細工工場を巡り、作品に適した紙や熟練した職人を探し、数えきれないほどの試行錯誤を経て、李氏の紙の彫刻は2010年に国際デビューしました。

広がる可能性

「観る人が最初に驚くことよりも、驚いた後で理解してくれることのほうが価値があると考えています」と李氏は言います。「アート作品、ひいては人生そのものが持つ可能性を感じていただけるといいですね」

紙の彫刻家、李洪波(LI HONGBO)

紙の彫刻ができあがるまでの工程は、複雑で手が込んでいます。紙の種類もテーマによって使い分けます。まずは、前処理を施した後に数千枚もの紙を1枚1枚貼り付け、蜂の巣状の紙でんぐりをつくります。次に、特殊な工具を使って準備した紙を彫り、磨いていきます。昔ながらの彫刻家が大理石をコツコツと彫るような作業です。伸縮自在の彫刻を一点仕上げるのに、数千枚~数万枚の紙と数カ月の時間がかかります。

体験型アート

世界各国の展示会で李氏の紙の彫刻を観た人は、皆触ってみたくなります。そこで彼は、観客が触れて動かせる小さな作品をいくつも製作し、こうした体験型の鑑賞方法を奨励しています。「観客の皆さんが、紙や私の作品が生み出す変化をもっと直感的に受け止めていただけたらすばらしいですね。そうすれば、私の作品がより完全なものになり、おそらく四次元の表現になるでしょう」と彼は言います。

アートは単独では存在できず、他のアート分野を参考にしたり、統合したりすることによって意味を得る、と李氏は信じています。そのため、紙の彫刻の人気が高まっていても、他の分野への挑戦をあきらめていません。たとえば彼がまとめた「A Complete Collection of Buddhist Wood Engraving Works in China(中国の仏教木工彫刻コンプリートコレクション)」は、千年前にさかのぼって作品を収集し、八年かけて編集・出版した80巻の大作です。

仏教彫刻とは違い、紙の彫刻は進化を始めたばかりの芸術形態ですから、技術面でも素材面でも伸びしろが大きい、と李氏は考えています。たとえば彼は最近、金属を取り入れ、肉切り包丁からシルエットを彫り出すという試みを始めました。これからのアートに不可能はありません。

スキャンすれば、紙の彫刻の製作についてご覧いただけます。
https://youtu.be/gttdbqX4SWA

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