Life sciences

点と点をつなげて見えてくる 医薬品開発の未来像

Lisa Rivard
19 February 2014

世界人口の高齢化が進むにつれて、安全性と革新性を両立した新製品をより低コストで短期間に市場に投入することが、ますます強く求められるようになっています。こうした状況の中、医療機器・医薬品業界と規制当局は等しく、医薬品と医療機器の開発審査プロセスを徹底的に 見直そうと挑んでいます。

米国労働統計局によれば、現在の医療機器・医薬品業界は、新しい治療法を生み出すための研究開発は10年前の2倍もの費用を投じていますが、それによって生み出される治療法の数は、10年前の40%にすぎません。新製品の数が減るこの業界は、自らを徹底的に変えようと奮闘しており、規制当局もこぞって、新しい治療法の審査プロセスの合理化でその助けになろうとしています。

アナリストたちは医療機器・医薬品業界に対して、開発プロセスに焦点を絞って、新薬や新しい機器を市場に出すための時間とコストを削減することを推奨しています。たとえば、米国食品医薬品局(FDA)でMedical and Scientific Affairs担当副局長を務めたScott Gottlieb博士は、現在の医療関連R&Dで支配的な、実験から得られたデータを使う統計的手法は柔軟性に欠けていてイノベーションの妨げになっており、「過度に大規模な」治験を実施する結果になっていると指摘しています。こうした治験では、多人数についての情報がもたらされますが、個々の患者に関する情報は得られません。

開発手法の再設計

世界的なコンサルティング会社であるPricewaterhouse Coopers(PwC)社は、同社の調査レポート「Pharma2020:The Vision」において、製薬会社は「バイオマーカー」として知られる臨床での検査や測定を利用し、関連していても異なる条件によって患者をグループ化することで、治験の対象を適切に絞り込むと共に、開発コストを削減できると述べています。PwC社は、このように的を絞った精度の高い患者情報のおかげで、2020年までに、多くの制限を付けた「当面の認可」によってすべての医薬品がリアルタイムに承認されることになると考えています。

「当面の認可(Live licenses)」は、少人数の患者集団を対象に、生活内でのテストを広範に実施し、その後、医薬品の安全性と有効性が証明されたときに多人数の患者または異なる母集団にテストを拡大するという方法を採ることが条件になります。PwC社は次のように予測しています。「市場のあらゆる医薬品が、製品のライフサイクル全体について事前に取り決められ、完全に自動化された道筋をたどることになり、製品開発は認可されたときに終わるのではなく、継続的なプロセスになります。」

しかし、このような変革を遂げるには、適用される法令の変更と対となって規制当局の支援が必要です。「規制当局は、協力関係を深めることを強く要求し、開発のずっと早い時点から定期的に協議することを望むでしょう。」

安全性とイノベーションの両立

規制当局は、とりわけ安全性について、大きな圧力にさらされている、と語るのは、ドイツのヴェッツラーに本拠を置くLeica Microsystems社でヨーロッパ担当マーケティングディレクターを務めるBaba Awopetu氏です。同社は、手術用途の革新的なイメージング・システムの世界的リーダー企業です。「まず第一に、規制当局は国民に気を配っていると見てもらう必要があるのです。」

しかしAwopetu氏は、新しい革新的な治療法が患者にもたらすメリットが、リスクを上回るのであれば、安全性と、そうした治療法の市場への投入を推進することのバランスを取らなければならないと考えています。「21世紀に残されたいくつかのやっかいな病に取り組むつもりであれば、本当に優れたイノベーションを市場に登場させるために、一定のリスクを負うことは避けて通れないと考える必要があります。」

規制当局にとっての課題は、用心深さと新機軸の導入が調和した状態を見つけることだとAwopetu氏は指摘しています。PwC社も同様の見解を示し、「規制当局はますます、新しい医薬品が安全で有効であるだけではなく、すでにある療法よりも優れている証拠を探す事となっています」と述べています。

グローバルスタンダード

そのために、世界各国の規制当局がかつてないほどの共同作業を行っています。米国マサチューセッツ州にあるタフツ大学医薬品開発研究センターの教授兼ディレクターであるKenneth Kaitin博士は、次のように述べています。「近頃では、共同事業体に似た形のアプローチを医薬品開発に適用する動きがあります。」

Kaitin教授によれば、パートナーシップや戦略的提携に対する業界の興味をまねるかのように、規制当局は情報の共有とデータの検討のために協力を進めています。「同種の機関で審査中のデータはすさまじい量で、それらの機関では、そうした状況が話題になることが増えています。さらに、各機関が審査を依頼される申請の種類がますます複雑になってきているため、わたしは、問題を解決するために当局間のレベルで協力を進める機会は増える一方だと考えています。」
ロンドンにある欧州医薬品局(EMA)は、欧州連合(EU)内での利用を目指す医薬品の科学的評価を実施することを任務としています。EMAはすでに、EU内で実施されたすべての治験に関するデータベースを管理しており、このデータベースは、すべての治験データの透明性を確保するための世界的プラットフォームとなる可能性があります。一方米国のFDAは、提出プロセスを完全にペーパーレスにする研究や、臨床研究の情報を共有するための電子交換システムの研究を行っています。
タフツ大学医薬品開発研究センターの研究担当ディレクターであるChris Milne博士は、次のように述べています。「国際的な規制当局の間には、調整を図ろうという機運が高まっています。現実に向き合いましょう。病気の広がりは地理的国境とは無関係なのです。主要規制機関の間では、警戒を怠らないことが共通の目標となります。そして、イノベーションのためのプラットフォームを提供する共通の枠組みを求める動きが広がっています。」

40%

医療機器・医薬品業界は、新しい 治療法を生み出すための研究開発に 10年前の2倍もの費用を投じていますが、それによって生み出される治療法の数は、10年前の40% にすぎません。 米国労働統計局

Kaitin教授は、規制当局も、管理監督する企業とより緊密に協力するようになると予測しています。たとえば、企業と米国FDAの間では、治験設計の改善を始めとした新しいアプローチについて対話が重ねられています。

「開発時間を短縮し、新製品開発の成功率を高める能率的な医薬品開発プロセスを作り上げることは、どちらのグループにとっても有意義です。米国では、FDAが議会の承認を受けて、新しい医薬品を市場に登場させるという仕事がより円滑に行われるように、業界と関係を築き、共同作業を実施しています。最終的には、それが患者さんを助けることにもなります。」

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