宇宙船、雲、クリスタルのさなぎ。今秋オープンする新しい美術館「ルイ・ヴ ィト ン ファウ ン デ ー ション・フォー・クリエーション」を描写するのに、さまざまなたとえが使われています。建築家Frank Gehry氏と、LVMH(モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン)のCEOで世界最大級の個人美術コレクションを管理するBernard Arnault氏の夢から生まれたこの光り輝くガラスの建造物は、パリ西部の斬新な宝石のような建築物です。
「芸術的な創造は、常にルイ・ヴィトンというファッション メゾンの中核を成してきました」と語るのは、ルイ・ヴィトン ファウンデーションの副理事長、Christian Reyne氏です。「国際的に有名なパリ西部のこの場所で、すばらしい文化の息吹に触れる空間を提供させていただきます。」
芸術関係の計画はまだ明らかにされていませんが、近代美術や現代美術の常設展示と企画展に加えて、討論会やカンファレンスが開催される予定です。グランド・オープン時には、多くの初めて一般公開される作品が並びます。
従来のデザインから新境地へ
カナダ系アメリカ人建築家のFrank Gehry氏は、自身にとってパリで1993年のアメリカンセンターにつづく2つ目の建築の設計にあたり、自らの特徴的スタイルから、さらに新機軸の革新的な提案をしました。訪れた人が金属のおおいや変形させた立体を目にすることはありません。ルイ・ヴィトン ファウンデーションの新しい拠点は、ガラスの翼の力だけで森の上を飛んでいるかのような軽やかなシルエットを見せています。
館内にはまもなく、400人近く収容でき自由にレイアウト可能なモジュール式のスペースに、11の展示ギャラリーが設けられます。受付、エンターテインメント、レジャー、研究のための空間を含む建物は、重なる2つの構造物からできています。「Iceberg」(氷山)と呼ばれる建物の本体部分は、鉄筋コンクリート、鋼材、木材でできており、約19,000枚の白い繊維強化コンクリート板で覆われています。その周りを囲むガラスの上部構造物は、それぞれが幅30mの、曲面ガラスで構成された12枚の帆が片持ち梁で支持された構造となっています。
「この種のプロジェクトでは、常に技術革新が求められるため、関係者全員のシームレスな連携が非常に重要です。」
CHRISTIAN REYNE
ルイ・ヴィトン ファウンデーション・フォー・クリエーション副理事長
現在進行形のイノベーション
このデザインを形にするまでには13年を要しました。「これは類のない創作物です。間違いなくFrank Gehry氏の大胆な挑戦と言えます」とReyne氏は述べています。
Frank Gehry氏がBernard Arnault氏と会って最初 の ス ケッチ を 描 い て か ら3年 後、Gehry Partners社が建築模型の製作に着手し、翌年にはLVMHは設計事務所のStudios Architecture社にこのプロジェクトの管理を委託しました。
同社CEOのJames Cowey 氏は次のように述べています。「LVMHのオフィス ビル2棟のインテリアを担当したことがあったため、LVMHのことは す で に 知って い まし たし、Frank Gehry氏とはニューヨークのIACビルのプロジェクトで一緒に仕事をしましたが、今回、こんな難題が待ち受けているとはまったく想像できませんでした。」
Studios Architecture社でこのプロジェクトを担当したエンジニアであるRenaud Farrenq 氏は、そうした難題の一部として、「中央棟の予測できない形状のカーブや逆カーブ、非常に条件が厳しい負荷計算、ガラス板のミリ単位での曲げ加工、過去に施行例がない作業を実施する力量を備えた建設業者の選定、耐火試験や耐風試験等の点」を挙げてくれました。
特別な協力体制
設計の検討段階では800人以上が同時に作業し、建設工事ピーク時の作業員数は750人にのぼりました。
Reyne氏は次のように述べています。「この種のプロジェクトでは、常に技術革新が求められるため、関係者全員がシームレスに連携する事が非常に重要です。そこで実際、私たちは建築家、エンジニア、建設業者などの全チームを1ヵ所に集めさらに、全員が一つの3D設計ソフトウェアを使用するようにしました。」
航空宇宙産業向けに開発された3D CADソリューションをベースにGehry Technologies社が開発したこのソフトウェアでは、さまざまな関係企業すべてのデータがまとめられ、全員がリアルタイムに情報を共有することができます。
Cowey氏は次のように述べています。「このソフトウェアがフランスの建設現場で使用されたのはこれが初めてです。そのため、フランスの実情に合わせる必要がありましたが、可能な限り限界を押し広げたプロジェクトを成功させるうえで、このソフトウェアが重要な役割を果たすことは明らかでした。」事実、このソフトウェア プログラムの活用により、ルイ・ヴィトン ファウンデーションはアメリカ建築家協会(AIA)の2012年 BIM(Building Information Model)Excellence Awardを受賞することになりました。◆
ルイ・ヴィトン ファウンデーションの建築物は、地熱エネルギー、高性能な断熱材、再生材、パッシブ クーリング(電気不使用の自然冷房)、雨水の貯留、現場管理などの利用を通して、さまざまな環境課題に挑戦しました。 Studios Architecture 社 の パリ事 務所でこのプロジェクトを担当したエンジニア、Renaud Farrenq氏は、「このプロジェクトは、包括的なHQE(High Environmental Quality)認定を受けたことから分かるように、環境に配慮した設計によって、持続可能性に関する野心的な取り組みだと評価されました」と述べています。環境に優しい建築物を先駆けて実現