学習する機械

人工知能が製造業を一変させる可能性があるが、導入は遅々としている

Lindsay James
7 June 2017

人工知能が胸躍る未来を提供し、さらなる自動化を可能にし、予知保全を改善し、マスカスタマイゼーションへの移行をもたらすことを、メーカーは認識しています。今のところ導入は遅々としていますが、専門家達は、人間の専門知識と業界全体での協力を組み合わせれば成功への道が開かれるという意見で一致しています。

GPU大手のエヌビディアが「機械によって示される人間の知性」と定義した人工知能(AI)は、猛烈なスピードで進歩していますあなたがアップルの音声認識技術Siri(シリ)やアマゾンの音声認識技術Alexa(アレクサ)に質問したり、ネットフリックスのお勧めを見たり、フェイスブックが勧める友達を追加したりするたびに、その背後にはAIが関わっています。

AIはすでに消費者と毎日意思を通わせていますが、ビジネスの世界では最近になってやっとAIの威力を感じるようになっています。

「AIは企業が活用できるレベルに達しています」と、ロンドンにあるアクセンチュアリサーチのマネージングディレクター兼チーフエコノミストのMark Purdy氏は語ります。「これは処理能力、データストレージ、データ検索、センサー、アルゴリズムの進歩のおかげです。その結果、現在では企業がインテリジェント・オートメーション・システムを活用して製造工程を最適化でき、人間の労働と物的資本を補強して新たなイノベーションを促進できます。」(Purdy氏)

ビジネスAIの飛躍的進歩はいたるところで見られます。カリフォルニア州スタンフォード大学AI研究所のコンピュータ科学者は、アルゴリズムの改良を重ね、皮膚癌の可能性を視覚的に診断しています。マイクロソフトは、プロのトランスクリプショニスト(音声から文字起こしをする人)と同等以下の間違いしか犯さない音声認識システムを実演しています。マサチューセッツ工科大学(MIT)コンピュータ科学・人工知能研究所の科学者は、三百万を超えるタクシー乗車履歴からデータを取り出し、マンハッタンで人をよりスマートに移動させる方法を開発しています。また、大手自動車メーカーは、機械学習の実装技術であるディープラーニング(深層学習)を活用して、周辺状況をスキャン、分析して対応し、運転者の判断と動作を最適化するための支援をしています。

製造業での導入

しかし、製造業は遅れています。メディアインテリジェンス企業Meltwater社の記事で、ユタ州に拠点を置くソフトウェア会社Domo社のデータ戦略ディレクターBrent Dykes氏は、「AIで成功するための道のりにおいて、分析の成熟度が、重要なマイルストーンとなります」と述べています。しかし、世界的コンサルティング会社のマッキンゼーによると、現時点で、製造業はデータと分析の潜在的価値の約20%~30%しか活用しておらず、その大部分が一握りの業界トップ企業によるものです。

“「AIは企業が活用できるレベルに達しています」”

Mark Purdy氏
アクセンチュアリサーチ マネージングディレクター兼チーフエコノミスト

グローバルビジネスおよびテクノロジーの研究顧問会社である米フォレスターは、この既存の価値の多くが、ファクトリーオートメーション装置の世界的大手、ファナックの得意分野である予防保全に関連していると述べています。ファナックは、同社の新しいFIELDシステムでゼロ・ダウンタイム(ZDT: Zero Down Time)アプリケーションを稼働させており、26の工場の6,000を超えるロボットからデータを収集し、機械学習アプリケーションで分析しています。故障につながる可能性のある問題を明らかにし、ダウンタイムが発生する前に問題に対処するための部品とサポートをファナックが提供します。

「ファナックのFIELDシステムによって、企業は入手可能な膨大なデータを活用できます」と、FANUC UK社の技術マネージャーSteve Capon氏は語ります。「製造業はかつてないほどインテリジェントになっていきます。AIを利用することで、ダウンタイムを削減するための予知保全要件のスケジューリングが現実のものとなります。」

見え始めた未来

ファクトリーオートメーションの改善など、他の分野にも非常に大きな可能性があります。

FANUC社ファナックで株式会社は同社の新しいFIELDシステムでゼロ・ダウンタイム・アプリケーションがを稼働しており、26の工場の6,000を超えるロボットからデータを収集し、機械学習として知られているタイプのAIで分析しています。(画像 © FANUC)

「この分野は、ボーイングをはじめあらゆる企業にとって大きなチャンスがある分野です」と、ボーイングでデータ分析部門のシニアディレクターHarish Rao氏は、同社の2017年2月のニュースレター『Innovation Quarterly』に書いています。「複雑な仕事を自動化し、生産性、品質、安全性を高めると同時に納期計画を達成するのに役立てることができます。機械のセンサーからのデータを設計、在庫、安全に関する記録などの従来データと結び付け、作業を最適化できます。自動化すべき作業を特定するだけでなく、ディープラーニングモデルは全データを分析してパターンを見つけ出し、自動化に最適な作業を推奨できます。」(Rao氏)

ファナックはAI主導型ファクトリーオートメーションの可能性を認識し、日本のディープラーニング専門企業であるプリファード・ネットワークス(PFN)社に9億円を投資し、AIを活用して新たな作業に適応できるように自らをトレーニングするロボットを製作しています。

“「AIシステムがどれほど優れていても、AIシステムを適用して保守する人的資本がなければ、メーカーに恩恵をもたらしません」”

Robert Atkinson氏
情報技術イノベーション財団理事長

「ファナックはAI技術をこのような方法で製品に取り入れた最初の企業です」と、PFNカリフォルニア支社の最高研究責任者である比戸将平氏は述べています。「我々は、バラ積み取り出し(ビンピッキング)ロボットのAI技術をトレーニングしています。ディープラーニングを利用し、容器から物体をうまく取りだすための容器内の最適点を推定します。この工程は、通常ならエンジニアが工場で約2週間を費やしてルールベースのシステムを調整する必要があります。しかし、AI対応システムを使うと、ロボットはあらゆる種類の物体を取り出す方法を数日で学習でき、その精度も90%を超えます。今年の後半にはメーカーがこの技術を実装すると期待しています。」(比戸氏)

オーダーメイドに対応する機械

AIは、さらに適応力があり機動的な企業の誕生を促進する可能性も秘めています。

「製造業が大量生産から効率的生産の時代へと進んだ場合、「カスタム大量生産」への欲求が生じます」と、タタ・コンサルタンシー・サービスの製造イノベーションおよびトランスフォーメーション部門のトップSreenivasa Chakravarti氏は語ります。「これは、はるかに素早い対応と迅速なその場での判断が求められることを意味します。製造工程の後半に先送りされる製品特性が増えると、システムはこれまで以上に迅速に対応する必要があります。カスタム大量生産は、このようなニーズを知りそれに適応する機械でのみ可能です。」(Chakravarti氏)

世界的スポーツウェアブランドのアディダスでは、すでにAI主導型のカスタム生産を試みており、2017年末までに米アトランタで「SPEEDFACTORY」を開始する計画です。アディダスは詳細を非公表としており、SPEEDFACTORYはデータを使って生産工程のさまざまな部分をスマートな方法で結び付ける、とだけ述べています。ロボット技術と3Dプリンティングの組み合わせも、自動化された分散型の柔軟な製造工程を生み出します。「これにより、消費者のための製品を消費者と一緒に消費者が実際に生活している場所で製造でき、米国でカスタマイズのための比類のない創造性と無限のチャンスを引き出します」と、アディダスグループ経営幹部のEric Liedtke氏は報道発表で述べています。

進行中の取り組み

しかし、このようなすべての潜在力を実現するには、メーカーは大きなスキルのギャップを埋める必要があります。

「AIシステムがどれほど優れていても、AIシステムを適用して保守する人的資本がなければ、メーカーに恩恵をもたらしません」と、ワシントンDCを拠点とする情報技術イノベーション財団(ITIF: Information Technology and Innovation Foundation)の理事長Robert Atkinson氏は語ります。「マッキンゼーは、2018年までに米国だけで14万人から19万人のデータサイエンティストが不足し、ビッグデータの世界で必要な分析スキルを備えたマネージャーやアナリストはさらに大幅に不足すると推定しています」(Atkinson氏)タタ・コンサルタンシー・サービスのグローバルヘッド兼製造部門のエグゼクティブバイスプレジデント、Milind Lakkad氏も、製造業の現状はAIの進歩の速度に遅れをとっていると考えています。

20%-30%

マッキンゼーMcKinsey社によると、現時点では製造業はAIの潜在的価値の約20%~30%しか活用していません。

生産設備を効率的にするためにAIに対応する必要があるのは、個々の機械や装置だけではありません」とLakkad氏は言います。「AIの成功には、ある装置と別の装置の動作の依存関係をよく理解し、作業の順序を決める必要があります」これを理解するには、三つのニーズを同時に満たさなければいけない、とLakkad氏は続けて述べています。

「認知学習を促進するには、情報交換のためのオープンで標準的なプロトコルが必要です」とLakkad氏は語ります。「加えて、より多くのインストールベースをスマートな手段で管理下に置くためにOEM側全体での継続的な努力が必要です。このような状況下での安全性予測の問題にも対処する必要があります。どれも一企業のレベルでは実現できず、業界全体で協調して取り組む必要があります」

今後の展望

製造業が遅れを取り戻している間にも、AIは進歩を続けます。

「確実に、今後数年間で可能になることに驚かされると思います」と、データ管理およびサービス企業、テラデータのアトランタ支社の最高分析責任者Bill Franks氏は語ります。「最終的には、AIは製造業に効率の向上、より一貫した品質、無駄や失敗の低減をもたらすことになるでしょう」。

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