Marine & offshore

海運の サバイバル・ガイド

Greg Trauthwein
28 October 2015

貨物の長距離搬送の価格が急落するのに従い、荷主は規模による節約効果を求めて、かつてないほど船の大型化が進んでいます。しかし、この戦略では、それに対応しなければならない港に巨大な財政負担をかけ、生き残りをかけて相互依存している海運業者の間で摩擦が生まれています。両者とも負担軽減のために、情報テクノロジー(IT)整備への動きを見せています。

コンテナ貨物の荷主はコストの削減方法を百も承知しています。それは、1船当たりの貨物輸送量をより多くすることです。その結果、業界は2018 年に初の20,000TEU(コンテナ荷扱量を量的にあらわす単位)船を迎え入れる予定になっています。この巨船は非常に大きいため、対応可能な港は世界で数カ所しかありません。

荷主にとって、船の大型化に対する動機付けは単純に経済の問題です。「1973年に香港からニューヨークまで積荷1コンテナの輸送コストは1コンテナ当たり約5,800米ドルでした。今日では、1コンテナ当たり約 2,500米ドルです」と、ニューヨーク・ニュージャージー港湾公社の元ディレクターであるRichard Larrabee氏は述べています。価格の低下は、船の大型化を推し進めている貨物量の急速な増大によって可能になりました。

コンテナ輸送に対する需要の伸びは歴史的に見て強力で、ノルウェーのオスローに拠点を置く、オフショア市場や海運市場にサービスを提供している国際的な大手証券・投資銀行のRS Platou GroupのRS Platou Economic Researchによると、今年 6%~7%上昇する見通しです。また、東京に拠点を置く非営利組織の国際港湾協会は、2013年に世界の貨物レベルは6億5,100万 TEUを超えたと報告しています。スペース需要の伸び率が相当なものである中、船の容積も歩調を合わせて伸びており、2015年に進水が予定されている新規海運容量は160万~190万 TEU、フリートはほぼ7%の純増と予測されています。

「収益性は、高い割合で、業界がコスト削減と効率向上を図ることができるかにかかっています。船舶サイズを大きくすることで説明される、規模の経済 が主な方策です」

KEITH SVENDSEN氏
バイスプレジデント、オペレーション執行担当、マースクライン

とはいえ、「コンテナ輸送は利益の少ない業界です」と、デンマークのコングロマリット A.P.モラー・マースクのグローバルコンテナ部門であるマースクラインのオペレーション執行担当バイスプレジデントのKeith Svendsen氏は説明します。「2014年、マースクラインと他の船会社三社だけが、金利税引き前利益で大幅な好業績を報告しました。業界全体の利益率は平均3.1%でした。収益性は、高い割合で、業界がコスト削減と効率向上を図ることができるかにかかっています。船舶サイズを大きくすることで説明される、規模の経済が主な方策です」

サイズの問題

船の大型化に伴って、航路、港、施設、関連の物流サービスも同様に拡張しならなければなりませんが、荷主とそれに対応する施設の間で摩擦が生じているのが現状です。

「こうした潮流を規定しているのは、船主による最適な船のサイズの追求だと考えます。これが輸送能力の大型化と単価の低減へと向かわせているようです。パナマ運河の拡張とスエズ運河の整備、港とターミナルへの新規投資、浚渫(しゅんせつ:水底の土砂などを取り去る土木工事)による適切な深さの航路の確保、(輸送業者の) アライアンス構築の動機付けなど、その他あらゆることがこれにより推進されています」と、ユナイテッド・ステーツ・マーチャント・マリーン・アカデミー(USMMA)で国際ビジネスおよび物流を研究している教授兼学部長のShashi Kumar氏は述べています。*

港湾施設管理会社やターミナル・オペレーターは、コストを補うには容量の増加も不十分で、投資負担の矢面に立つことを船主から強いられていると不満を訴えています。

「このような超大型コンテナ船は、港湾管理会社である我々に圧力をかけます。一方で更なる船会社が単価を下げられるよう支援していますが。同時に港湾業界に、係留の長期化、喫水の深化、クレーンの大型化に投資するように求め、海上における規模の経済を陸上にも持ち込んでいるのです」と、アラブ首長国連邦の一つであるドバイで65以上の海上ターミナルを使用して
世界的にコンテナを扱う専門事業者であるDP World社のUAE地域担当シニアバイスプレジデント兼マネージングディレクターであるMohammed Al Muallem氏は述べています。DP World社はここ五年間で60億米ドル以上を投資し、ドバイの 旗艦施設ジュベル・アリなどでターミナルの収容力拡張とインフラの改修を行ってきたと、同氏は説明します。

「DP World はここ 5 年間で 60 億米ドル以上を投資し、ドバイの ジュベル・アリなどでターミナルの収容力拡張とインフラの改修を行ってきました」

MOHAMMED AL MUALLEM 氏
シニアバイスプレジデント兼マネージングディレクター、UAE 地域担当、DP WORLD社

ニューヨークでも状況は同様で、過去十年間で約50億米ドルを投資して、40フィートの深さの航路を50フィートまで浚渫するのとともに、その他港湾および施設を整備してきました。こうした投資は信念に基づいて行われなければならないと、港湾管理委員会のLarrabee氏は言います。「航路を深く掘削すること、ベイヨンブリッジの拡張などが、必ずしも貨物が増えることにつながるわけではありません」

当然ながら、そうした問題に対して船主の捉え方は若干異なります。「質の高いインフラは経済成長を決める重要な要因です。船会社が世界的な取引の効率化を図るために投資するのに対し、政府や港が同じ道をたどるわけではありません。船会社とターミナルの間でコラボレーションを強化することが、今後効率を高めるカギです」と、Svendsen氏は述べています。

新しい巨大船の係留場所を見つけたい船会社は、港がすべての仕事を自分たちでこなすことを期待していませんと、マースクラインのSvendsen氏は言います。たとえば、同社は港が世界最高のトリプル E船に対応するために前もって準備できるようにしました。「トリプル E」というのは、効率 (efficiency)、規模の経済(economy of scale)、環境(environment)を意味します。「マースクラインはアジアや欧州の各港と連携して、船の大型化に備えた態勢を支援しました。そうした態勢には、インフラの調整(喫水、岸壁や方向転換流域の長さ / 幅、クレーンの整備)とパイロット研修が含まれ、そのためにマースクラインはシミュレーターが使用するデータを提供しました」

貨物の流れにおける課題

コンテナ船による貨物輸送は、世界的に不安定です。厳しい天候状態、労働争議、政情不安によって生じる混乱から機械の操業が停止する可能性があります。たとえば、米国西海岸における2014年から2015年初めにかけての九ヵ月にわたる港湾ストライキは業界に数十億ドルの経済的損失を与えました。数週間の間、店舗の棚は補充されず、従業員は一時解雇され、多数の船が西海岸に停泊されたままであったため、農作物は腐り、注文品は届けられませんでした。この停止により、荷主は、確立した貿易パターンの見直しを余儀なくされ、アジア米国間の貨物輸送のいくらかを、地理的に近くて費用効率の高い西海岸から、米国湾岸と東海岸の港に恒久的に移動しなければならなくなりました。

天候、労働争議、政情はすべて、未知の要素です。分かっているのは、船、港、物流のチェーンの規模と複雑さが増大していることは否定できないということです。システム効率を最適化するという、同じように大規模で困難な状況が生まれます。米国西海岸の状況は、港の大規模化だけが船のサイズの大型化に対する唯一の解決策ではないと、多くの専門家に確信させました。少数の大型施設への貨物の流れを拡大することは、物流チェーン全体の影響を大きくしただけでした。

「燃料と貨物の効率性の観点において、(船の大型化は)非常に効果的にあるように見えます。しかしながら、同時に、こうした船舶サイズの大型化に対処しなければならない港やターミナルのオーナーと事業者にストレスをかけます。(効率化に対する)障害となる上位三つの要因は、港やターミナルの対応能力、内陸地域との接続、適切な財政手段の利用可能性です」と、世界最大のエンジニアリング・建設・プロジェクト管理企業の一つであるBechtelの港・海洋部門のマネージャーであるMarco Pluijm氏は説明します。

たとえば、Pluijm氏によると、米国東海岸では、2016/17年に運用開始が予定されている新しいパナマ運河(新しいPanamax船は 12,500 TEUの輸送規模を予定)に備えて、主要な港を整備していますが、2015年8月にスエズ運河が拡張されたときに運用開始した 20,000 TEU船に対応するために、現在さらに多額の投資を行う必要があるとのことです。「それぞれの港にはそのような投資はできません」と、同氏は強調します。

技術ソリューション

これら障壁のいくつかは適切な情報を早期に配信することで解消できると、USMMAの Kumar氏は言います。

「これらすべてにおいて中心的な役割を果たすのは、船からターミナルへ届く情報のスピードです。IT部門からの多種多様なサポートがなければ、完全に混乱するでしょう。港や海運の運用から貨物の通関、さらには予測やデータ分析まで。リアルタイム情報がなければサプライチェーンの効率化はあり得ず、ITのあらゆる進歩をし続けることによってのみ、可能になります」

マースクラインのIT投資は、海上の船に関して最も良く例示されていますが、それだけにとどまらず、トリプル E クラスに対しても投資されています。「当社はフリートと沿岸組織とのつながりを深めて、最適なルート、港での停泊、スピードに関するガイダンスをリアルタイムに提供しています。このおかげで、マースクラインは大幅な節約効果を実現できました」と、Svendsen氏は述べています。

ギネス記録の貨物 - Maersk (Image: © Maersk Line)

荷主と同様、港もITに投資しています。「当社では、オペレーションシステム、手順、ソフトウェアに絶えず投資しています。港全体の効率化を図れるソフトウェアツールを開発している強力なITチームもあります。コンテナを船から下ろすことは、船から港の明渡しまでの多段階のプロセスにおける単なる最初のステップにすぎません」と、DP World社のAl Muallem氏は説明します。

DP World社は、ジュベル・アリのコンテナターミナル 3を「将来のターミナル」と呼んできました。「T3」は、世界最大かつ最新の岸壁クレーン19台を売り物にしています。このクレーンは港のコントロールルームからリモートで操作できます。クレーンのほか、スマートなモバイルアプリケーション、100%電子商取引を実行できる設備、ゲート・オートメーションの高度なシステム、これらすべてがコスト効果の高いターミナルを形成できるように設計されています。

一方ニューヨークでは、港の最も目立つIT 投資は、Sustainable Terminal Servicesによる新しいターミナル情報ポータルシステム(TIPS)です。TIPSは、港の使用者すべてに包括的なWebベースのアクセスを提供し、コンテナの使用状況、ブッキングステータスのほか、ターミナル特有のニュースについて、情報の一元化を図っています。情報を統合することで、パワーが生まれるのです。

多くの進歩を遂げてきましたが、他にも多くの仕事がこの先待ち受けています。一例として、港湾管理会社やターミナル・オペレーターが、空港による世界最大の飛行機に対応する方法を学ぶことで、世界最大の船の対応方法を習得できると、Kumar氏は考えています。

「航空会社がA380(853名の乗客を輸送可能)の利用を開始したとき、乗客の乗降についてもスピードアップできました。空港では、コンテナ船の大型化における状況とは異なり、飛行機の大型化に対応するためにさらに時間を費やす必要はありません。我々には、船のサイズの拡大に遅れないように、港湾操業にも同様のパラダイム変化が必要です。これを実現するためには、自動化の増加、さらには情報テクノロジーの活用向上が必須です」

* この記事で示されている見解はShashi Kumar氏個人のものであり、ユナイテッド・ステーツ・マーチャント・マリーン・アカデミー、米国運輸省、または米国政府を代表するものではありません。

オフショアハブ

船のサイズ、港湾の深さや、システムによってコンテナを移動させる陸上の能力に大きな注意が払われている一方で、Bechtelの港湾・海上インフラ部門のマネージャーであるMarco Pluijm氏は、混雑を緩和し、コンテナ海運事業の効率を高めるために、人工オフショア港の構築を提案しています。
Bechtelのモデルでは、深海船はオフショアハブを経由して貨物の荷下ろしを行います。そこから荷船に送られ、荷船が貨物を1箇所または複数の近くの港に輸送します。このように貨物を分配することは、既に混雑した区域に入る貨物が増えるのではなく、負担がより広いエリアに分散されることになります。オフショアハブもまた、既存の港の浚渫を深くする必要性を減らし、既存の港の拡大に伴う生態系に対する影響を小さくすることができますと、Pluijm氏は述べています。

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