Marine & offshore

新人を呼び込む

John Martin
16 December 2018

船舶・海洋業界では経験豊富な技術・製造労働者が大挙して退職を迎えており、その知識やスキルも一緒に失われています。船舶・海洋企業はテクノロジーを活用してその知識とノウハウを取り込み、新世代の新入社員に伝える(そして、この業界に呼び込む)ことをますます重要視しています。

知識は永遠です。これは書籍では確かに真実です。では、なぜ企業では違うのでしょうか?

例えば、造船は科学である上に技能でもあり、労働者がその両方を習得するには何年もかかります。しかし、造船所ではベビーブーマー世代の社員が磨いた知識とノウハウを取り込み、保持し、伝達すると同時に、新しいデジタルネイティブ世代の社員を呼び込んで定年を迎える社員の後を継がせるのにテクノロジーが役立つことに次第に気付きつつあります。

この知識を引き継ぐという課題を理解するために、船舶の設計、建造、修繕を監督する技術者である造船技師を考えてみましょう。

「熟練者は物事に対する全体的な視野を持っており、若い造船技師がそのような視野を持つのは困難です」と、イタリアのトリエステを拠点とするNAOS Ship and Boat Design社のプレジデント兼シニアデザイナーで海上船舶設計のリーダーRoberto Prever氏は語ります。全体的視野を養うには、電気、機械、構造、安全、人的要因などの多くの異なる領域での競合するニーズと優先度のバランスを取る長年の経験が必要です。

「全体的視野」を将来世代に伝えることは、マサチューセッツ州ケンブリッジにあるLNS Research社のプラクティスディレクター兼主席アナリストのDan Jacobs氏が言う「ビジネスの長寿化」(会社が何世代にもわたって繁栄できるようにすること)に不可欠です。Jacobs氏は、ビジネスの長寿化を実現するには大量の知識管理が必要であると言います。Jacobs氏は、その知識管理を「バリューチェーン、管理機能、サポート機能に点在するデータや有用な情報を特定して優先順位を付け、まとめて伝達することで価値を増大させる体系的な取り組み」と説明しています。

Jacobs氏は、大切なのは単なるノウハウ(know-how)ではなく「ノウベター(know-better)」と呼ぶもの(労働者が数十年に及ぶ経験で得たノウハウ)を得ることであると言います。NAOS社は、この課題に取り組むために熟練社員と新米社員を同じ職場に配置しています。「新規プロジェクトを進める際に若い社員とともに老練社員が控えているのです」と、Prever氏は述べています。

知識の取り込み

しかし、老練社員がすでにいなくなっていたらどうなるでしょうか?彼らの知識の一部は、社内の情報技術(IT)および運用技術(OT)システム内のデータを分析し、実績のある設計および建造方式と一緒に固有のルールやテンプレートを再利用のために入手すれば再び見いだすことができます。

しかし、知識の取り込みは始まりにすぎません。さらに、知識を次の世代に伝達し、使えるようにしなければいけません。そして、この分野の専門家が認めるように、それには統一されたデジタルイノベーションプラットフォームによって全社員が多くの領域にまたがる必要な知識を利用できる必要があります。

従来は、各領域で独自の専用コンピュータシステムを使って作業を行っており、事実上、知識がサイロに閉じ込められていました。NAOS Ship and Boat Design社と、Damen Shipyards Group(オランダ)、Naval Group(フランス)、Meyer Werft社(ドイツ)を含む造船所は、コンセプト考案から設計、建造、サポートプロセスにいたるまでのあらゆる詳細を共有デジタルデータとして管理し保存するデジタルイノベーションプラットフォームを使ってこのサイロを破っています。

プラットフォームは、熟練した方法を利用するためのモバイルアプリや、社内全体で専門家を見つけ出して協力するためのソフトウェアなどのサービスを可能にします。新入社員はeラーニングポータルで新たなスキルを習い、習得できます。教訓を学ぶシステムは、長年培ったノウハウをある世代から次の世代に授けます。その結果が、認可された全社員と社外バリューネットワークの認可済みメンバーが同様に利用できるソーシャルナレッジネットワークです。

Jacobs氏は「内向きのソーシャルメディア方式で実践コミュニティを構築しています」と述べ、これはLNS Research社での顧客との協力を表しています。「ローカルリソースが「希少リソース」と協調するようになり、大きなメリットとしてフィードバックが得られます」

例えば、中国広州市の中船黄埔文沖船舶有限公司では、新入社員は同社のデジタルイノベーションプラットフォームにあるユーザーガイダンスや基準から業務と密接に関連する知識を入手できます。また、同社はこのプラットフォームを活用して講義、トレーニング、オンラインセミナーも実施しています。

ソーシャルネットワークの活用

プラットフォームベースのソーシャルナレッジネットワークの開発は、企業が最も経験豊富な社員から経験的知識を取り込むのに役立ちます。また、人員の引き継ぎも促します。ソーシャルネットワークに慣れ親しんでいる140万人のミレニアル世代とZ世代の社員への引き継ぎです。

例えば、中船黄埔文沖船舶有限公司は毎年の技術革新コンテストを通じて若い社員が能力を高める場を増やしています。さらに、オンラインベンチャー会社を設立し、興味のある新入社員にさらなる機会を提供しています。

若い社員を刺激し、造船の生産性とイノベーションにも不可欠なその他のテクノロジーには、3Dモデリング、デジタルシミュレーション、ウェアラブル、ロボティクス、モバイル、AI/機械学習、仮想・拡張現実、ゲーミフィケーションなどがあります。デジタルプロダクトイノベーションプラットフォームは、このようなすべての機能を統合します。船舶所有者もこのプラットフォームを使って退職乗船員から知識を取り込み、シミュレーションや仮想運転を利用してテクノロジーに精通した新人船員をトレーニングできます。

退職者の後継となるテクノロジー主導型世代は、このようなテクノロジーを受け入れるので(実際にはテクノロジーを好むので)ビジネスの継続性を守る助けになるでしょう。

「この世代は重要になっており、今後もますます重要になるでしょう」と、Prever氏は語ります。テクノロジーに精通した新人をこの業界に採用することは極めて重要であるとPrever氏は言います。なぜなら、「テクノロジーがますます複雑になり、可能性も広がるので、船舶設計は必ずさらに複雑になる」からです。

これはすべて、インダストリー・ルネサンスの一部です。インダストリー・ルネサンスとは、仮想世界を使って社内の知識とノウハウを取り込んで育て、活用することで可能となる社会的変革です。部門間のサイロを破り、エンドツーエンドの可視性を生み出すと、ビジネスは変化の激しい市場の需要をすぐに察知して対応でき、さらには全く新たなビジネスモデルを実現して試すこともできます。

ミレニアル世代とZ世代の社員は、すでにものづくりによって力を得ています。メイカームーブメントを目の当たりにしているのです。デジタル造船所の先駆者は、この世代に現代のデジタルの力を提供することにより、将来の革新的な新規人材を引き付けることができると確信しています。このような人材は、前任者のあらゆる知識やノウハウ、そしてその知識に基づいて建造する手段を活用することから力を得るのです。

For more information on how marine and offshore companies are addressing the scarcity of qualified workers, please visit: http://go.3ds.com/cSl

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