バイオ・インテリジェンスの 徹底活用

コラボレーションで製薬業界の課題に取り組む


25 October 2012

2010年に設立されたBioIntelligence Consortiumは、製薬会社、ソフトウエア会社、公的研究機関が一体となってデジタル技術を使用することで創薬と薬剤開発のプロセスを加速させ、コラボレーションによってプロセスを変革することを目的としています。国際的な専門製薬会社であるIpsen社は、コンソーシアムの創設メンバーの1社です。COMPASS編集部は、Ipsen社のScientific Affairs担当シニア・バイス・プレジデントであり、Ipsen Innovationの所長を務めるChristophe Thurieau氏に、コンソーシアムの最近の進展についてお話を伺いました。ダッソー・システムズのScience & Corporate Research担当バイス・プレジデント、Patrick Johnsonがインタビュアーを務めます。

COMPASS編集部: グローバル化の進んだ製薬業界は多くの課題に直面しています。状況の概要を教えてください。

C. THURIEAU氏: 現在の「イノベーションの危機」により、製薬業界は大きな変革期を迎えています。R&Dの生産性が急速に低下し、新分子の発見も同様の状況にあります。新しい外的な経済環境、出資組織や規制当局からの圧力、ジェネリック医薬品メーカーの市場シェア増大のすべてが、製薬会社の短期的、長期的業績に深刻な影響を及ぼしています。過去2年間、こうした傾向は加速し、製薬会社はR&D活動を戦略的に見直す必要に迫られています。その例として、バリューチェーン全体で社外パートナーが大きな役割を果たす、新しいコラボレーションモデルが登場しています。 

Ipsen社はそうした課題にどう対処していますか?

C. THURIEAU氏:  過去数年間にわたり、ターゲットとする治療分野で製品ポートフォリオを拡大できるよう、R&Dの最適化戦略を実施してきました。

Ipsenの社内R&Dは、基礎研究から臨床開発にわたる研究サイクルのあらゆる段階での、パートナーとの積極的な協力により支えられています。IpsenはR&Dスタッフとして各分野で最高の人材をそろえてはいますが、世界中にいるそうした領域の専門家の数からすれば、ほんの一部にすぎません。そのため、医療や製薬分野のR&Dで最先端を行く社外のリーダーたちとの意見交換は必要不可欠です。

Ipsenグループは、研究段階から多くの重要なパートナーと協力関係を築いています。2008年から、高名なSalk Institute(カリフォルニア州ラ・ホーヤ)と協同で基礎研究を行っています。また、Syntaxin社、Dicerna社、Oncodesign社、Active Biotech社などの革新的なバイオテクノロジー企業と提携契約を結び、新薬候補の発見に向け、有望な新技術を利用できるようにしています。バイオマーカーと体外診断の分野ではbioMerieux社と包括協定を結び、腫瘍内科学の分野ではInstitut de Canc屍ologie Gustave Roussy(ギュスタフ・ルーシーがん研究所)と提携しています。そして最後になりましたが、BioIntelligence Consortiumのように、R&Dプロセスのスピードアップを目的とした新しいアプローチや専門分野にも関心を持っています。

「デジタル技術の持つ力により、 ライフサイエンス業界における現在の実践方法を根底から変えることができる」

Christophe Thurieau氏
Ipsen社

BioIntelligence Consortiumに言及されましたが、このプログラムの理念と、Ipsen社との関係について教えていただけますか?

C. THURIEAU氏: BioIntelligence Consortiumとその活動プログラムは、ダッソー・システムズ社(3DS)とIpsen社との戦略的な会議から生まれました。3DSが開発したグローバルなPLM(プロダクト・ライフサイクル・マネジメント)インフラストラクチャ内で仮想コラボレーション、モデリング、シミュレーションを利用することで、他の多くの業界で成果を上げてきた、複雑な課題の処理と、研究、開発、生産 の各期間の短縮を目的とした抜本的な変化が実現可能になりました。3DSは、他の業界に向けて開発された資産や価値を活用し、ライフ・サイエンス業界にPLMを導入することが、戦略的に大変重要であると考えていました。

この画期的なプログラムの理念は、デジタル技術の持つ力により、ライフサイエンス業界における現在の実践方法を根底から変えるができる、というものです。しかし議論の中ですぐに明らかになったのは、ライフサイエンスにデジタル・システムを適用するには、公衆衛生分野と医療産業の有力企業とのコラボレーションが欠かせない、ということでした。

プログラムの理念が生まれ、コンソーシアムが形になり始めました。Ipsenは、このプログラムの一環として2つのプロジェクトに関与しています。1つは腫瘍学分野で、「腫瘍転移および血管新生」として知られる複雑な生物学的現象のモデリングとシミュレーションを行い、もう1つは免疫学分野で、治療用タンパク質の免疫原性のモデリングと予測を行っています。

あなたの立場から見て、このプログラムは進展していますか? 

C. THURIEAU氏: BioIntelligence Consortiumというプログラムには、ライフサイエンス分野の生物学者や科学者、バイオインフォマティクスの専門家、PLMのリーダー企業など、大きく異なる分野の専門家が集まっています。

こうした専門家たちは、各分野固有の多様な方法論や制約条件を理解しなければなりませんでした。このように多分野にわたる深い理解が進んだことは、このコンソーシアムの最初の成果の1つでした。この段階が完了すると、ある一定範囲の機能を実現したプロトタイプが開発され、エンド・ユーザーによるテストが行われました。このようなモデリングやシミュレーション・ツールがR&Dにおいて、どのように活用できるか、その可能性を垣間見る良い機会となりました。

デジタル実験に直にアクセスし、新薬発見業務に仮想ソリューションを取り入れることによる、文化的変化の一歩を踏み出すことができます。さらに、3DSや別のコンソーシアム・パートナーであるSoBioS社のモデラーや開発者たちとの緊密な協力により、従来とは違う新しいやり方で、知識の管理や科学実験の計画に取り組むことになりました。非常に充実した、異業種間の交流が行われたのです。

プログラムでは今後2年間、開発に注力し、3DSの3Dエクスペリエンス・プラットフォーム内でより緊密に統合、相互接続され、ますます多くの機能を搭載したソリューションを開発予定です。

こうした成果を踏まえ、Ipsen社として今後どのような進展を期待されていますか? 

C. THURIEAU氏: ライフサイエンスにおける、生成データの爆発的な増加や、バイオテクノロジー企業やCRO(Contract Research Organization:医薬品開発業務受託機関)といったエンド・ツー・エンド型のサプライチェーンの拡大を考えると、グローバルなソーシャル・コラボレーション、インテリジェントな情報処理と分析、実験とモデリング、シミュレーションと較正のためのソリューションの利用が大変重要となります。これらの技術は、現在も将来も、創薬と薬剤開発の課題に総合的に取り組むために必要です。

現在BioIntelligence Consortiumプロジェクトのために利用しているソリューションは、新しいパイプラインの導入や業績向上のニーズに非常によく適合しています。最後に、これらのソリューションによって、医療産業も現状のバリューチェーンを見直すことができるはずです。それが最終的に、患者さんのためになるのです。

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