COMPASS: 自身の事業を立ち上げるきっかけは何だったのですか?
Mate Rimac氏(以下MR): 両親によると、私は言葉を話すよりも先に車に夢中だったとそうです。私は18歳になるとすぐに1984年製のBMW E30を購入し、それでレースに出ました。ほどなくその車のガソリンエンジンがめちゃくちゃに壊れました。それが、電動式のレースカーを製作するという私の夢のプロジェクトを始めるきっかけになりました。
私は、新世代のスポーツカーの動力として電気推進システムが使用可能であることを証明し、しかも、より速い、刺激的なスポーツカーを実現したかったのです。そんなことは不可能だと何度も言われました。しかし、非常に競争の激しい業界の中で、ガレージから始めた私たちでも5年で世界のトップ企業になることは可能だと示したかったのです。
そして、すべてのノウハウ、テクノロジー、経験を組み合わせた結果、Concept_Oneが誕生しました。900 kW/1224馬力のConcept_Oneは2.5秒で時速100 kmに達し、最高速度は時速355 kmです。90 kWhのバッテリー容量によって、350 kmの航続距離が実現されています。
自動車関連企業の裾野が決して広いとは言えないクロアチアに拠点を置いていることで、適切なスキルを持つ人材を見つけにくいという問題はありますか?
MR: クロアチアで会社を始めることは非常に大きな挑戦でした。政府からの財政支援はまったくなく、また国内に投資家はおらず、私たちの製品に対する市場もありませんでした。さらに、クロアチアには自動車産業の歴史がないので、業界経験者もいません。その結果、この分野の経験がある人材を雇うことができないのです。クロアチア人を採用した場合は、年齢に関わらず、ゼロから自動車分野のことを学ぶ必要があります。ただしクロアチアには、あたりまえのようにDIYをこなす多様な技術を身につけた人材がいます。買えないものがあれば、自分で作る方法を見つける必要があるからなのです。
当社には、世界中からますます多くの人たちが加わっていますが、その大部分はまだ大学を出たばかりです。ただ、若い人たちはやる気があって仕事熱心なので、当社の企業文化にはぴったりです。
Forbes 誌はあなたを、ヨーロッパの「工業」カテゴリーで、30歳未満の上位30人の起業家およびゲームチェンジャーの一人に選びました。どのような点で、あなたをは「ゲームチェンジャー」なのだと思いますか?
MR:Forbes 誌やその他のオピニオンリーダーから認められることは、私たちが正しい道をたどっていることを示す良い徴候です。起業家は明確なビジョンと、それを成し遂げて現実にするための推進力を持っています。しかし、いったん目標を定めたら、すべてを賭ける必要があります。多くの犠牲が生じ、膨大な仕事と責任があります。しかし、自分がしていることが大好きであれば、それ一色の生活になっても苦労とは感じません。
あなたの戦略とビジョンについて教えてください。
MR: 当初は、ゼロから車を製作することが私の最終目標でした。その後、目標や重視すべき点は変化してきました。現在では、自動車のみならず他の産業のメーカーにもソリューションを供給し、グローバルな自動車メーカー各社の完全電化に関するパートナーになることを目標としています。
私たちが目指すのは、テクノロジーの境界線をどんどん先に押し広げ、車をもっと刺激的で速く、インテリジェントなものにする新しい可能性を探ることです。Rimac社のテクノロジーはさまざまな用途に利用することができ、私たちは自動車、船舶、航空の各産業分野で事業を展開しています。
御社がイノベーションを実現できる秘密は何でしょうか?
官僚主義についてですが、Rimac社が成長するにつれて職務上の縦割りが生じることもあると思いますが、それを防ぐ方法については何かお考えですか?
MR: 組織が小さいときには自然と情報が流れて来るものです。会社は成長中なので、社内の異なるグループ間で知識や経験を共有することに課題が見え始めています。ナレッジ管理はひとりでに行われるものではないことは実感してきたため、ダッソー・システムズの3DEXPERIENCEプラットフォームが、さまざまなチーム間での情報の流れやコラボレーションを「仕組み」化する助けになると考えています。
Rimac社のパートナーの一つにアストンマーティン社があります。御社の成長および財務上の戦略において、パートナーシップはどのように位置付けられているのでしょうか?
MR: 他の自動車会社のパートナーとして、最上級の車種に搭載する最も要求の厳しいシステムのサプライヤーとなることは、当社製スーパーカーのお客様と、(当社の取引先である)OEM各社の両方にとって大きな意味があります。これは、Rimac社の2つのビジネス部門がどのように補完し合い、助け合っているかを示す良い例です。
当社のB2B関連作業は業務の90%を占めており、会社に属する250人の社員のうち、そのほとんどがOEM各社とのプロジェクトに取り組んでいます。一部を除き、そうしたプロジェクトの大半は非公表です。取引先は当社に対して、あらゆるレベルでの改善を強く求めてきます。大手OEMの要件を満たすことは非常に大きな挑戦です。しかし結局のところ、そうした要件のすべてが、(当社が)より優れた製品を作り、より優れた企業になる助けになっているのです。
Rimac社のテクノロジーは、車いす、水上バイク、電動自転車等にも適用されてきました。多くの分野に進出することで、自分の注意やエネルギーが分散されていないか、心配になりませんか?
MR: 私は、ある分野、たとえばスーパーカーのために開発されたテクノロジーは、その他の製品を改善するために利用できると考えています。こうしたやり方は既に、当社のGreyp Bikes、車いす、その他いくつかの用途によって実証されてきています。分野間のバランスを取りながらも、各カテゴリーで世界トップクラスの製品を開発することに集中できるようにするのが課題です。当社では、1つの製品に特に焦点を絞ったコアテクノロジーの開発チームに加えて、そうしたテクノロジーをさまざまな用途に適用する応用チームを設けることで、この課題を解決しようとしています。
“「私たちが目指すのは、テクノロジーの境界線をどんどん先に押し広げ、車をもっと刺激的で速く、インテリジェントなものにする新しい可能性を探ることです。」”
Mate Rimac氏
RIMAC AUTOMOBILI社CEO
交通手段に新たな局面をもたらすことが目標だとおっしゃいましたが、生産される予定の御社の車「Concept_One」は8台だけです。8台の車だけで、どのように交通に新たな局面をもたらすのでしょうか?
MR: 私は車だけでなく、最終的に、あらゆる形態の輸送手段が完全に電化されるのは必然的と考えています。Concept_Oneは、電気自動車の可能性と、私たちが会社として他の企業に提供できるものは何か、ということを示しています。しかしもちろん、量の点では取るに足りません。Rimac社の本当の影響力は、他の多くの企業が排ガスを出さない、スマートで、刺激的な車を作ることを支援する点に現れます。他の多くのブランドの製品で、Rimac社のテクノロジーを見つけることになるでしょう。しかし、真の変化は自律走行車によって到来し、その結果として電化が広まると考えています。
今までやってきて、ご自身が評価できる点と評価できない点は何でしょうか?
MR: 成功を収めたことは多数ありましたが、会社はそれ以上に、瀕死の状況を経験することになりました。クロアチアにはベンチャーキャピタルファンドは一つもないため、会社の資金調達はとてつもなく困難でした。国際的な投資家たちはこの地域を避けて、代わりにシリコンバレーやその他の国際的なイノベーションハブに関心を集中させています。最初の4年間、口座に次の給与と賃貸料を払うだけのお金が貯まっていたことはありませんが、ともかくも、期日までには何とかなっていたのです。テクノロジー、財務、組織、人事といったあらゆる側面で、非常に大きな挑戦でした。それは試練でしたし、大きな発展を遂げてきましたが、まだ旅の始まりに過ぎません。
財務と言えば、投資家を引き付けるためにどのような戦略を立てていますか?
MR: 会社の発足以来、資金調達は常に困難な任務でした。私たちが行ってきた工夫によって非常に高い資本効率を実現できましたが、電動のスーパーカーやパワートレインシステムのような複雑な製品を開発するためには、かなりの資本が必要です。Rimac社を、シリコンバレーにあるような他のテクノロジー企業と比較することはできません。私たちは、衝突試験や安全試験などを実施する必要があります。アプリがクラッシュしたら、誰かが怒るかもしれません。しかし車に問題が起きれば、誰かが怪我をする可能性があるのです。Rimac社の投資家たちが、投資業界においてより長期的視野に立つ人たちであるのは、それが理由です。
もし可能だとしたら、どこを変えますか?また、その場合でも変えないことを一つ挙げてください。
MR: 今知っていることをその時、知っていると仮定すると、おそらくすべてのことを違う方法で行います。この短期間に非常に多くのことを学びました。現在の立ち位置に到達するためには、自分を安全地帯の外に出す必要があったと思います。そのために、適応してすばやく学ばざるを得なかったのです。
できるだけ長い間、目立たないでいるように、というのが自分にする最高のアドバイスです。この業界には中身がない大げさな話が多すぎて、動き回って他人の時間を無駄にする人が多すぎます。変えるつもりがない一つのことは、テクノロジーに集中し、垂直統合して、メーカーに対するサプライヤーになる、という今の戦略です。 ◆