ガラス、金属、陶磁器類、ポリマー、接 着剤、複合材料といった、素材の設 計方法が変わりつつあります。消費 者がそれを目にすることはないにせよ、日々 の生活に関わる変化です。
紀元前四千年にメソポタミアで発明されたガ ラスについて考えてみましょう。六千年に及 ぶ経験にも関わらず、種類が異なるガラスに は、性質の予測を困難にする原子レベルの 差異があります。何世紀もの間、科学者は、シ リコンを他の物質と組み合わせ、高温に 熱 し、できたものをテストすることによっての み、新しい種類のガラスを発明してきました。
米国ニューヨーク州にあるコーニング社で、 ガラス研究グループの研究マネージャーを努 めるJohn Mauro氏は、次のように述べていま す。「それは私たちが『クック・アンド・ルック』 (調理と確認)と呼んでいたやり方です。現代 との違いは、科学的な原理を利用している点 です」
コーニング社のような企業は、高度なソフト ウェアと強力な計算能力を活用し、原子と原 子構成要素のレベルで素材を理解して操作 することによって、古くからある素材の革新を 進めています。同社の商標登録製品である Gorilla Glass(ゴリラ ガラス)の場合、科学者 が原子間の結合をコンピュータでモデリング し、製法を微調整して生み出されました。この ゴリラガラスはキズおよび割れにくさにより、 世界の携帯電話やタブレットのスクリーンの 保護材に使用されています。
「大きな変化点は、外部応力に応じたガラス 構造の動的な調整を可能にしたことです」と Mauro氏は語ります。予測コンピュータ モデ リングのおかげで、「ガラス科学とガラス技術 に新しいルネサンスが到来しています」。
フレキシブル・エレクトロニクス
素材変革はガラスにとどまりません。従来は 中の部品を保護するため、剛性素材を使用し ていたエレクトロニクス製品は、米国オハイ オ州のアクロン大学とケース・ウェスタン・リ
ザーブ大学の研究により、エレクトロニクス 製品に使用されるポリマーを、剛性から弾性 に変えることで、着用可能となりました。
「ある種類の分子が必要な場合、それを得る最速の方法は、 コンピュータ設計と実験を介するやり方です」
SANJAY MEHTA
AIR PRODUCTS社計算モデリング担当マネージャー
経済開発組織のNortechでCluster Acceleration 部門のディレクターを務め、フレキシブル・エレ クトロニクスを担当する、Tim Fahey氏は言いま す。研究者たちは「コンピュータとソフトウェアを使用して多数の相互作用をモデル化し、ポリ マーの機能化に取り組んでいます。ナノ レベ ルでポリマーの構造を調整し、どこまで魅力的 なポリマーにできるかが課題です」。
そうした「魅力」のいくつかは、布地に直接編 み込まれたエレクトロニクス製品を含め、最 近リリースされた着用可能なエレクトロニク ス製品を見れば明らかです。Fahey氏は次の ように述べています。「モバイルからウェアラ ブルに、我々はエレクトロニクスの次の波に 乗っています。そうなると、製品が肌に触れる ことになるため、しなやかであることが求め られます」
ナノ回路
主要半導体メーカーが米国ペンシルベニア州の Air Products 社に、チップ上でナノメートル以下の回路の積層および洗浄が可能な新たな薬剤を考案するよう求めたことを契機に、電子デバイスも小型化し、より強力になってきています。
Air Products社で計算モデリング センターを 管理するSanjay Mehta氏は、最初にコン ピュータ シミュレーションで分子がどう機能 するかを確認してから、実世界での機能を確 認すると述べています。「ある種類の分子が 必要な場合、それを得る最速の方法は、コン ピュータ設計と実験を介するやり方です。そ れが最も効率がいいからです。ラボで実験す る代わりにコンピュータで実験します」(Mehta氏)。
そうした複雑な計算に関するコンピュータの 速度は、FLOPS(フロップス:1秒間に実行可 能な浮動小数点演算の回数を示す単位)で表 されます。Air Products社は、テラ(10の12乗) FLOPS単位で稼働するサーバー群を使用して おり、これは毎秒1兆回の操作に等しい数で す。
予測コンピュータ モデリングの助けによっ て、かつて沈滞した状況にあった素材産業は 多数のイノベーションで活況を呈しており、 世界の消費者がその恩恵を受けることになり ます。