Life sciences

医薬品と医療機器の融合

Rebecca Gibson
16 December 2018

より効果的で苦痛のない安全な方法で薬剤を投与できる新しいコンビネーション製品のおかげで、患者は診療所や病院に足を運ぶ必要がなくなり、患者自身で投薬する機会が増えてきています。しかし、コンビネーション製品セクターはまだ未成熟な段階にあるため、規制機関が詳細な調査を行い、製薬会社と医療機器メーカーに確実な認可につながる新たな戦略を立てるよう促しています。

1990年代の米国で、ある少年が糖尿病と診断されたとき、少年の父親は自分の息子が病状に左右されることなく生活できるようにする方法はないものかと治療法を探し求めました。こうして発明された機器が、少年の生活だけでなく、世界中で糖尿病に苦しむ14万人以上の患者の生活を一変させたのです。

マサチューセッツ州ビレリカに拠点を置くインスレット・コーポレーションの防水対応の小型軽量インスリン・マネジメント・システムOmniPodは、リモート・コントロール方式のチューブのないインスリン・ポンプとして世界で初めて開発されました。患者の皮膚にOmniPodを装着すると、自動的に最大3日間継続的にインスリンが投与されます。

英国で2017年からOmnipodを使用している糖尿病患者のEmma Taylorさんは、次のように語ります。「以前は、2種類のインスリンを注射していたのですが、この方法では血糖値を厳密にコントロールできませんでした。その点、Omnipodは、1日を通して体に必要なインスリンの量を運動やストレスなどの変動要因に応じて細かく調整できるため、健康状態と生活の質が迅速かつ大幅に向上したと感じています」

Omnipodは、診療所に頻繁に通わなければならないなど、今まで面倒だったインスリンの投与を斬新な方法で行えるようにするものですが、急成長を遂げているコンビネーション製品の一例にすぎません。

コンビネーション製品が急成長している背景には、競争の激しい医薬品・医療機器業界において自社製品の差別化を図ろうとする製薬会社と医療機器メーカーの思惑がありますが、急成長を支える最たる要因は、これらの製品が患者の生活の質を高める点にあります。

多国籍バイオテクノロジー企業のアムジェンでデバイス・テクノロジー担当バイスプレジデントを務めるBill Rich氏は、次のように述べています。「メーカー各社は、安全かつ効率的に自宅で投薬する柔軟な選択肢を求める患者の声に応じ、それを円滑に行えるようにするコンビネーション製品の開発を進めています」

課題の多い規制事情

新しいコンビネーション製品の登場を、患者、製薬会社、医療機器メーカーがそろって歓迎している一方で、規制機関はこれらの製品の承認アプローチに調整を重ねています。適切な量の医薬品を適切な方法と適切なタイミングで投与する安全な製品を開発することは簡単ではなく、大半の国は医薬品と医療機器を別々に規制している傾向があります。

英国政府の医薬品・医療製品規制庁で認可部門のグループ・マネージャを務めるElizabeth Baker氏は、2018年7月にバイオインダストリー協会と共同主催したカンファレンスの後で次のように述べています。「以前は、医薬品と医療機器の区別が明確でした。それが今や、医薬品と医療機器を組み合わせたキット製品が登場し、規制事情が難しくなっています。それでも、コンビネーション製品という規制区分があるわけでも、コンビネーション製品を取り締まる法的根拠が個別に定義されているわけでもないため、各製品が医薬品と医療機器のどちらに分類されるかを判断する必要があります。こうした背景が、規制機関の承認をさらに複雑にしています」

「当社がコンビネーション製品を提供することで、患者に生活を変えることができる薬と治療の選択肢を与えられるようになります。かつては、おそらく出来なかったことでしょう」

BILL RICH 氏
アムジェン デバイス・テクノロジー担当バイスプレジデント

現在市場に出回っているコンビネーション製品のすべては、機能を証明する検証が正しく行われ、適切な量の医薬品を投与できることが確認されていますと、アムジェンのRich氏は強調します。このプロセスを加速させるために、製薬会社と医療機器メーカーは画期的な新しい手法を採用して、治験の前にコンビネーション製品の機能実証を行っています。

ミネアポリスに本社を構える医療機器・技術開発のグローバル企業、メドトロニックで主任開発エンジニアを務めるJohn Halmen氏は、次のように述べています。「シミュレーション・モデリングは、最も広く使われるテスト手法の一つになりつつあります。設計者にとって、もっと大きなスコープで詳細な情報を捕らえることができる、はるかに簡単な手法だからです」

コンピュータのバーチャル世界では、物理的な試験よりもはるかに迅速に、人間を危険にさらすことなく、数秒以内にテストして結果を生成することができます。

Halmen氏は次のように述べています。「開発者は、コンピュータ上で機器の素材、患者の病状、境界条件、その他の要因を変更して、患者と機器の両方にどのように影響するかを分析することができます。すぐにフィードバックが得られるため、何度も試作を繰り返すことなく機器を完全に最適化することが可能です」

最終目標は現実世界の試験を再現できる人体の全身モデルを開発することだと、Halmen氏は言います。「生体、心臓系、神経系のモデリングを行うことにより、生物学と医療機器を効果的に組み合わせる新しい応用の幅が無限に広がり、広い層を対象にした治療法ではなく、患者一人ひとりに適した治療法を実現できるようになります」

優れた組み合わせ

Market.Bizは、コンビネーション機器の生産と販売に関する2018~2023年レポートの中で、コンビネーション製品市場の取引総額が2023年までに29億米ドル(25億5,000万ユーロ)に達すると予測しています。Rich氏はその理由は明らかだと考えています。

「当社がコンビネーション製品を提供することで、患者に生活を変えることができる薬と治療の選択肢を与えられるようになります。かつては、おそらく出来なかったことでしょう。わずか6年前、ウェアラブル・デバイスはインスリンの投与が主流でしたが、今や様々な医薬品を投与するために使われるようになっています」

今日、コンビネーション製品には、喘息治療薬吸入器、オートインジェクター、薬剤溶出性ステント、経皮吸収パッチなどがあります。アムジェンでは、45万人を超える癌患者のためにNeulasta(白血球の減少に起因する感染症を防ぐ薬)を自宅で投与できるようにする装着式インジェクターも開発しています。化学療法後の27時間、このインジェクターによってNeulastaが自動的に注入されます。

「患者は、病院や診療所で注射してもらうのではなく、自宅で家族との大切な時間を過ごしながら治療薬を投与することができます」とRich氏は語っています。

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