「今後、より不確実で成長源の乏しい環境を乗り越えていくために、資源会社は敏捷性にフォーカスを当てる必要がある。生産性を向上させるには、デジタル化やその他のテクノロジーの活用が不可欠になるだろう」 McKinsey Global Institute社、2017年2月、「スーパーサイクルを超えて:テクノロジーはいかに資源業界を改革するか」
長く続く好不況のサイクルと利益率の低さは、鉱業会社に絶え間なく試練を与えてきました。未採掘の埋蔵資源の質が低下し続け、操業エリアが徐々に遠隔地に移動するなか、業界は新たな答えを探っています。
McKinsey Global Institute社の提言と呼応するように、多くの企業がテクノロジーに安心を求めています。
鉱業界の掘削/岩盤掘削作業向けの設備、消耗品、サービスを提供する世界的メーカーAtlas Copco社(本社スウェーデン)で、採掘技術の相互運用性を担当するプロダクトマネジャーのKarin Jirstrand氏は、次のように述べます。「今日の鉱業界ではデジタルテクノロジーが決定的な影響力を持ち始めています。自社の機械が正確にどのような作業をしているか、どこにあるか、正常に動作しているかどうかを把握することが極めて重要になっています。デジタルの旅に踏み出せば、どんな企業も生産性が上がります」
デジタルのイネーブラー
Sabrin Chowdhury氏は、マクロ経済の観点で業界や金融市場を分析するBMI Research社で、シンガポールを拠点に活動するコモディティアナリストです。今後はデジタルテクノロジーが、徐々に鉱業界における成功の鍵を握るイネーブラーになっていくと同氏は見ています。
「効率向上、コスト低減、安全記録の改善、廃棄物や環境影響の抑制など、採掘オペレーションにテクノロジーを導入することの恩恵は明らかです」と語ります。
Chowdhury氏によると、デジタルテクノロジーには、採掘作業のオペレーション管理と、安全・環境ガバナンスの両方を改善する潜在力があります。テクノロジーによって、作業員の安全やリスク抑制に対する配慮を強化することができます。それと同時に、採掘設備に搭載したデジタルセンサーと、モノのインターネット(IoT)のプラットフォームやアナリティクスを組み合わせることにより、鉱業会社がオペレーション効率を高める機会が生まれます。同氏は「これらによって設備が故障するタイミングをより的確に予測できるようになるため、オペレーションの休止期間の短縮や生産性の向上に役立ちます」と話します。
「今日の鉱業界ではデジタルテクノロジーが決定的な影響力を持ち始めています」
KARIN JIRSTRAND氏
ATLAS COPCO社 採掘技術相互運用性担当プロダクトマネジャー
同氏によると、過酷な環境で操業する鉱業会社にとっては、プロセス管理、資産監視、安全とセキュリティ面の向上も潜在的な恩恵です。デジタル化によって採掘現場、つまり地上と地下の採掘オペレーションの意思疎通も改善する可能性があり、これは無駄の排除やオペレーションの効率化につながります。さらに、機器類のイノベーションは車両利用率の改善によるオペレーションの効率化や生産コストの抑制を後押しするため、この点でも恩恵があると言います。
鉱業界でも他業界と同じように、設備、ドローン、作業員にセンサーを取り付けることが可能で、そうすることで生産プロセス全体のデータを収集できるようになります。3D可視化テクノロジーも利用できます。例えば未採掘の鉱床を3Dモデルとして可視化すれば、鉱山運営会社は採掘計画を改良でき、採掘をより迅速かつ容易に進められます。
デジタル面で飛躍を遂げる
鉱業会社に採掘のデジタル化に関する助言を行うGavin Yeates Consulting社の社長、Gavin Yeates氏によると、採掘のデジタル化は大半の鉱山運営会社に極めて大きな価値創出の機会をもたらします。同氏は業界の新規テクノロジーを調査するCRC ORE社のディレクターも務めています。
Yeates氏は次のように述べます。「このように大きな価値が得られるのは、1つにはこの業界がもともと遅れているからです。他業界で見られる多くのオペレーション改善策が、鉱業にはまだ導入されていません。地中の鉱体のモデリングから生産プロセス、さらには最終製品に至るバリューチェーンをコネクテッド化するチャンスがあります」
一部の鉱業会社はこの潜在力を実際の恩恵に変換し始めています。例えばオーストラリア、ガーナ、ペルー、南アフリカで操業する金鉱会社、Gold Fields Limited社のCEOのNicholas J. Holland氏は、2017年3月の会合「フューチャー・マイニング」でスピーチし、同社がすでに遠隔操作の岩石破砕/積載、ドローン利用、3D可視化、地下の遠隔測定器を用いたビッグデータ収集を実践していると説明しました。そして、今後の鉱業の成功にはIT企業や独創的な設備メーカーとの提携が不可欠になると述べました。
Chowdhury氏によると、Gold Fields Limited社をはじめとして、デジタルテクノロジーをより広範なイノベーションプログラムに組み込む鉱業会社が増えています。こうした企業はオペレーションの強化を目指して多額の投資をしています。
Chowdhury氏は次のように語ります。「銅鉱最大手のCodelco社は、2016年のイノベーション予算を7500万ドル(約85億円)とし、前年比で25%増額しました。そして2016年12月にはイノベーションの取り組みを推進するCodelco Tech部門を新設しました。2016年9月にはBarrick Gold社が、コルテス鉱山(ネバダ州)の主要デジタルオペレーションの開発を目指してCisco社と提携しました。これにより将来的な世界展開に向けた情報収集ができるでしょう。業界トップのRio Tinto社は、オーストラリアのブリズベンにプロセシング・エクセレンス・センター(PEC)を開設し、2015年に車両自律運行システムを導入しました」
PECは、Rio Tinto社の世界7ヶ所のオペレーションの処理データをリアルタイムで調査して監視やオペレーションのパフォーマンスを強化する、最先端の施設です。
鉱山、金属、石油事業を手がける大手多国籍企業のBHP Billiton社も、採掘効率を高めるためにデジタル化を進めています。同社テクノロジー担当バイスプレジデントのAlan Bye氏は、最近オーストラリアのメルボルンで開催された業界の会合で講演し、変化を牽引する要素として、分散型イノベーションの環境と、情報およびデータの民主化という2つの要素を挙げました。
Bye氏は次のように述べます。「イノベーションには大きなアイデアと小さなアイデアが必要だということを覚えておくことが重要です。月ロケットを打ち上げるようなイノベーションには時間がかかりますが、社員と接しながらプロセスの小さな空白を見つけることを通して、私たちは短い期間に大きな価値を実現できています。当社では急速にデジタル化、一体化、コネクテッド化が進んでいます。そして、採掘方法の改善のしかたをあらゆる角度から検討しています」
バリューチェーンを解放する
企業がデジタル化の潜在力を最大限に活用するためには、新規テクノロジーを有効活用できるように採掘作業員を訓練することも必要です。
フランスの工業大学UniLaSalleの准教授で、コンピューター科学を専門とするJulien Duquennoy氏は、スペインの南中央ピレネー圏にある同大学のデジタルイノベーション研究所「GéoLab」で、まさにそれを実行しています。同氏の学生たちは、地層の3Dモデリングを使って断層や堆積物の構造を調査する方法を学んでいます。彼らが目指すのは、地下の状態に関する前提が妥当かどうかを採掘前に判断することです。
「効率向上、コスト低減、安全記録の改善、廃棄物や環境影響の抑制など、採掘オペレーションにテクノロジーを導入することの恩恵は明らかです」
SABRIN CHOWDHURY氏
BMI RESEARCH社アナリスト
Duquennoy氏は「地形が複雑な場所で自動モデリングがうまく機能するかどうかを確認しなければなりません。私たちが直面している技術的な課題は、できるだけシンプルな方法で科学的な基準を満たした結果を出せるような、手作業と自動作業の適切なバランスを見極めることです」と述べます。
変化に抵抗する
しかし、業界全体で変化を実現するのは簡単ではなさそうです。デジタル変革を専門とするコンサルティング会社VCI社が、世界的な鉱業会社のリーダー800人以上を対象に実施した調査の結果、今後15年の革新的な採掘技術の導入を妨げる複数の障害が明らかになりました。例えば変化に対する抵抗や、適切なスキルを持つ従業員を見つけることの難しさなどです。さらに回答者の20%が、業界の文化をイノベーションの主な阻害要因に挙げました。
戦略およびイノベーションが専門のコンサルティング会社The Stratalis Group社で、成長戦略・イノベーションを担当する幹部のGeorge Hemingway氏によれば、こうした抵抗の大半は、イノベーションやテクノロジーの投資を必要とする鉱業界に対して、金融市場がマイナスに作用していることに由来します。
Hemingway氏は次のように説明します。「かつて私は、鉱業界のイノベーションを妨げる最大の課題は、鉱業会社の中間層にいる採掘マネジャーや幹部たちの意欲と、イノベーションに必要な期間やリスク選好度が一致していないことだとよく言っていました。しかしやがて、現在の課題は中間層ではなく、ピラミッドの頂点にいるCEOやCOOにあるということに気づきました。なぜなら彼らは四半期あるいは年間ベースで結果を出すことを求める市場の奴隷になっているからです。彼らはもはやイノベーションへの長期的な投資をしようとしません。市場ではそれが報われないからです」
「月ロケットを打ち上げるようなイノベーションには時間がかかりますが、社員と接しながらプロセスの小さな空白を見つけることを通して、私たちは短い期間に大きな価値を実現できています」
ALAN BYE氏
BHP BILLITON社テクノロジー担当バイスプレジデント
機会をものにする
課題が山積するなか、この分野で成功する秘策などありません。それでもAtlas Copco社のJirstrand氏は、デジタル化に向かって進む企業は最終的に恩恵を得られると考えます。
同氏は次のように話します。「デジタル化に抵抗する企業は取り残される恐れがあります。自社はデジタル化をしていないけれども、その恩恵には気づいているという場合、おそらく競合企業はデジタル化を進めているでしょう。私が思うにもっと重要なのは、デジタルテクノロジーに適応していない企業が素晴らしい機会を逃しているということです。自社の事業に対する理解を深め、オペレーションをまったく別の角度から見るチャンスがあります。それを提供できるのがデジタルテクノロジーなのです」
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