Natural resources

水をめぐる争い

Charles Wallace
21 November 2016

1 min read

気 候 変 動 や 過 剰 な 消 費 、人 口 増 加 、食 糧・エ ネ ルギー需要の増大、さらには水が使える場所と 人々が生活する場所のアンバランス - こうした ことすべてが原因となって世界中で水資源に関 する懸念が高まっています。水に関する課題の 認識はすでに万国共通であるにもかかわらず、解決策は十分ではありません。

ほとんどの人は子供の頃に、地球の 表面の3分の2以上は水で覆われて い る こ と を 学 校 で 学 び ま す 。し か し こ の 水 の 大 半 は 塩 水( 海 水 )で あ り 、飲 み 水 や作物、工業用水には使えません。現在では 気候変動が加速し、食べていかなければな らない人口も急激に増加し、乏しい資源をめ ぐる争いも増えており、世界の多くの地域で 淡水の確保が大きな課題になっています。

国際的な非営利研究機関である世界資源研 究 所( W R I )の 予 測 に よ る と 、2 0 2 5 年 に は 1 0 億人以上が水の乏しい地域で暮らし、35億 人が水不足に見舞われる可能性があるとさ れています。

たとえば、シリアでは2007年から2010年に かけて厳しい干ばつが続き、200万人に及 ぶ地方の農民が都市へと追いやられまし た 。こ れ に よ っ て 社 会 的 不 満 が 高 ま り 、大 統 領に対する蜂起へとつながりました。その 後の紛争で多くの人々が第二次世界大戦 以降最大規模の移民となり、難民を受け入 れるのか、彼らをどこに住まわせるのかを 判断するのに欧州全域で各国政府が議論 を交わしています。

40%

Water requirements are likely to outstrip supply by 40% by 2030, according to a 2016 report from the World Economic Forum.

国 際 乾 燥 地 農 業 研 究 セ ン タ ー( I C A R D A )の 事務局長補佐を務めるMajd Hamdan氏は、 シリアの首都ダマスカスにある事務所で「こ こ数年は中東地域全体が非常に乾燥してい ます」と語ります。「シリアはここ数年間、非常 に乾燥し、雨季と乾季を繰り返すサイクルが 短 く な り 、こ の と こ ろ 干 ば つ が 発 生 し や す く なっています」

は干ばつによって壊滅的な 状態になったシリアの農地(© Kristen Elsby/Getty Images)

中東以外でも、水不足は紛争に発展してい ま す 。た と え ば ア フ ガ ニ ス タ ン は 、周 辺 諸 国 が自国の水を盗んでいると不満を漏らして い ま す 。米 国 は 、メ キ シ コ の 農 家 を 弱 体 化 さ せ て い る と 非 難 さ れ て い ま す 。コ ロ ラ ド 川 の 大量の水の流れを米国南西部へと変えたた め、川の流れがメキシコ北西部に達する頃 には、コルテス海から塩水が入り込んで耕 作に適さない水になっているというのです。
一 方 で イ ン ド で は 、同 国 の テ ク ノ ロ ジ ー の 中 心地であるバンガロール(ベンガルール)で 9月に水をめぐる暴動が発生し、少なくとも2 人 が 死 亡 し ま し た 。こ れ は 、干 ば つ に 見 舞 わ れ た タ ミ ル・ナ ー ド ゥ 州 の 農 民 に 対 し て カ ー ヴィリ川の貯水池の水を開放することを命 じたインド最高裁判所の命令に関する争い でした。何年にもわたって水を使い過ぎてき たため地下の帯水層が枯渇し、それが干ば つに拍車をかけています。

水に関する見通しは非常に切迫しており、 世界経済フォーラムが2016年に発表したグ ローバル・リスクに関する年次報告書では 水危機は世界の繁栄にとって最上位レベル の潜在的リスクに含まれ、現在では気候変 動と大量破壊兵器に次いで重要だと記載さ れています。その理由の1つが、2030年には 水の需要が供給を40%上回る可能性がある こ と で す 。

こ れ は 主 に 、増 え 続 け る 人 口 を 養 うために世界の食糧生産を1.5倍に増やす 必要があるからです。

は干ばつに見舞われたマラウイで食料配給の 列に並ぶ人々(© Andrew Renneisen/Getty Images)

米 国 の 国 家 情 報 会 議( N I C )は 、水 や エ ネ ル ギー、食糧に関する一連の問題を、2030年 までに世界が立ち向かわなければならない 4つの「大きな流れ」の1つに特定していま す。NICは、「おそらく多くの国々は、外からの 大規模な支援なしに食糧不足や水不足を回 避 す る 手 段 を 持 ち 合 わ せ て い な い 」と し て い ます。

企業と水

ストックホルム国際水協会(Stockholm International Water Institute)のエグゼ クティブ・ディレクターを務めるTorgny Holmgren氏は、「政治的な重要性に加えて、 グローバルな企業も、現在では水の可用性 を劇的に変えるための計画を策定する必要 性に気付き始めました」と語ります。

「5年前、水は重要な問題ではなかったので す が 、今 は 最 重 要 課 題 に な り 、多 く の 企 業 に とって大きな財務リスクでもあります」

たとえばペプシコ社は10月に、水ストレス に見舞われている地域で自社が直接関係す る農業サプライチェーンの水資源効率を、2 0 2 5 年 ま で に 1 5 % 高 め る こ と を 目 標 に す る と発表しました。

は 南 カ リ フ ォ ル ニ ア の 水 が 干 上 が っ た 湖( © KimSuarezPhoto/iStock)

リスクに曝されているのは何もペプシコ社 のようなグローバルな食品・飲料メーカー だ け で は な い の で す が 、こ の 業 界 で は 地 球 規模の水不足への対応に力を入れていま す 。H o l m g r e n 氏 に よ る と 、水 は さ ま ざ ま な 企業にとって懸念事項です。たとえば保険 会社は、冷却水が不足して発電所が停止し た場合のリスクを評価しなければいけませ ん 。ま た 、綿 花 の 収 穫 は 灌 漑 が 頼 り で あ り 、 そうした綿を使って流行の服を生産するス ウェーデンの企業もあります。

 “FIVE YEARS AGO WATER WAS A NON-ISSUE. NOW IT’S THE TOP ISSUE AND ALSO THE MAIN FINANCIAL RISK FOR MANY FIRMS.”

TORGNY HOLMGREN
EXECUTIVE DIRECTOR, SWEDISH INTERNATIONAL WATER INSTITUTE

Holmgren氏は次のように語ります。「このと こ ろ 企 業 の C E O と 話 を し て い る と 、民 間 部 門 は明らかに、水はもはや当たり前のもので はないと認識しています。水は企業にとって 大 き な 財 務 リ ス ク に な っ て お り 、投 資 判 断 に おいても非常に大きなウェイトを占めてい ます」

実際のところ、昨今の投資判断では水は極 め て 重 要 で あ り 、世 界 資 源 研 究 所( W R I )で は 「アキダクト(Aqueduct)」というツールを 開 発 し ま し た 。

は バ ン グ ラ デ シュ の 水 量 の 減 っ た 川 か ら 水 を 汲 ん で い る (© Thomas Trutschel/Photothek via Getty Images)

こ れ は 水 リ ス ク を マ ッ ピ ン グ す る た め の プ ラ ッ ト フ ォ ー ム で あ り 、企 業 や 政府、投資家が水資源をより適切に管理でき るようにするために、グローバルなリスクや 潜 在 力 を 把 握 で き る よ う 支 援 し ま す 。こ の プ ラットフォームは、ブルームバーグ社のBMAP (ビジネス管 理アシスタント・プログラム) ツールで、世界中の企業が利用できます。

人口の分断

水文地質学者であり、パリ第6大学とパリ国 立高等鉱業学校(MINES ParisTech)の名誉 教授でもあるGhislain de Marsily博士は、水 に関する最大の問題は「水が不足している 地域に人々が住み続けるか、あるいはいつ でも食糧を生産できる場所へ移住するか」 であると語ります。

「 結 果 的 に は 、多くの 人々が 移 住 することに な り ま す 。こ れ は ま さ に 、私 た ち が 現 在 目 の 当たりにしている中東から欧州への人々の 流 れ と 同 じ で す 。私 は ア フ リ カ で も 、人 々 の 大規模な移動があると見ています」

De Marsily博士は、現在はすべての地下帯 水層に蓄えられた水のおよそ70%を農業 で 、灌 漑 用 に 使 用 し て い る と 指 摘 し ま す 。雨 水も算入すれば、すべての水使用量の90% を 農 業 が 占 め て い ま す 。 さ ら に は 、 国 際 エ ネ ル ギ ー 機 関( I E A )で は 2 0 3 5 年 に は 発 電 所 で 必要となる水量は85%増えると予測してお り、歴史的な水不足になるかもしれません。

は過去90年間で最悪の干ばつに見舞われ、今は塩を含ん で不毛の地となったベトナムの140,000ヘクタールの水田 (© Christian Berg/Getty Images)

「 現 在 問 題 と な っ て い る の は 、農 業 や 大 都 市 部からの水の需要があまりにも大きく、米国 カリフォルニア州を始めとするいくつかの地 域では実際に帯水層の水位が危険なほど低 い レ ベ ル ま で 下 が っ て い る こ と で す 。こ う し た地下水量が十分に回復するには一世代か かります」とMarsily博士は警告します。

「多くの人々が移動することになります。 これはまさに、私たちが現在目の当たりにしている 中東から欧州への人々の流れと同じです。 私はアフリカでも、人々の大規模な移動があると見ています」

GHISLAIN DE MARSILY氏
水文地質学者、パリ第6大学/パリ国立高等鉱業学校名誉教授

米 国 カ リ フ ォ ル ニ ア 州 だ け で な く 、サ ウ ス ダ コタ州からテキサス州までの8つの州にま たがって伸びているオガララ帯水層、また インドや中国の一部地域の帯水層も、長年 にわたる使い過ぎによって危険なレベルま で水位が下がっています。De Marsily博士は「例えるならば銀行の普通預金口座のよう な も の で す 。凶 作 の 年 に 引 き 出 し た ら 、後 で 補充しなければいけません」と説明します。

しかし、枯渇はさらに悪化しそうです。世 界資源研究所(WRI)で「Global Water Program」の責任者を務めるBetsy Otto氏 は、気候変動によって天候パターンが劇的 に変化しており、農業への影響は不可避だ と 語 り ま す 。

た と え ば 、赤 道 付 近 で 上 昇 し た 暖かい空気が北半球と南半球の中緯度付近 で下降する循環をハドレーセルと呼びます が、この空気の循環が両極へと移動してい ま す 。こ れ は「 ハ ド レ ー セ ル の 拡 大 」と 呼 ば れ 、結 果 的 に 地 中 海 地 域 や 南 欧 、ア フ リ カ の 中 緯 度 地 域 、米 国 、南 米 で は わ ず か 4 年 程 度 で水が少なくなります。

O t t o 氏 は 次 の よ う に 語 り ま す 。「 降 水 量 に 関 しては、こうした地域では相対的に乾燥する だろうということで大方の意見が一致してい ます。また、中東や地中海地域では気温も上 昇 す る こ と が 予 想 さ れ ま す 。こ う し た 複 合 的 な要因が組み合わされるとかなり大変です」

「ただ」で使えると高くつく

天候パターンの変化が原因で発生する複合 的な水不足は、人間の活動によって生じる 未解決の問題です。おそらく一番大きな問 題 は 、水 は 世 界 の 多 く の 地 域 で「 た だ 」で 使 え る 資 源 だ と 思 わ れ て い て 、節 約 し て 使 お う という人がほとんどいないことです。

ワシントンDCの国際食糧政策研究所 (IFPRI)の環境・生産技術部次長、Claudia Ringler氏は、この問題は1980年代にアフリ カとアジアで足踏み式ポンプが導入された 頃 に 明 ら か に な っ た と 語 り ま す 。 ポ ン プ を 使 う と 農 民 は 乾 季 で も 作 物 を 育 て ら れ る た め 、 飢 餓 が 緩 和 さ れ ま し た 。し か し 、ポ ン プ は 規 制 さ れ て い ま せ ん で し た 。ま た 、ポ ン プ を 稼 働させるための電力には補助金が出ました が、供給が安定していなかったため、使い過 ぎが常態だったのです。

Ringler氏は「彼らは電気がいつ使えるのか わ か ら な い た め 、使 え る と き は と に か く 死 に 物狂いでポンプを動かします。農民が昔な がらのやり方で水を使わないのは、電気の 供給が安定していないことが大きな理由の 1つです」と語ります。

アジア開発銀行と世界銀行は電気の補助 金 を 打ち 切ると通 知しました 。しかし政 治 家 は、今は補助金によって無料で電気を使え ている貧しい農民が反乱を起こすのではな いかと懸念します。インドでは実際に農民が 圧力団体を立ち上げ、一部の重要閣僚は辞 任に追い込まれました。

© epicurean/iStock

国際水管理研究所(IWMI)は、補助金を打ち 切る代わりにインドのグジャラート州当局に 対して別の電力ケーブルを使用し、送電時 間を1日何時間と決めて手頃な価格で農民 に安定した電力を供給するように提案しま した。IWMIの所長、Jeremy Bird氏は「農民 たちはもうポンプを常時稼働状態にしてお く必要がなくなったため、水の使用量は実 際に減りました」と語ります。

測定することで 管理が可能になる

水の供給に関する問題の原因、そして深刻 さが増していることついてアナリストの意見 は一致していますが、水を適切に監視・管理 する取り組みについては足並みがそろって いません。

ダッソー・システムズの天然資源産業部門の 水資源専門家、Angeline Kneppersは次のよ う に 説 明 し ま す 。「 課 題 の 1 つ は 、 水 の 管 理 が あ ま り に も 断 片 化 し て い る こ と で す 。エ ン ジ ニアはよく"測定できなければ管理すること はできない"と言いますが、これはまさしく水 にも当てはまります。私たちは、水のシステム 全体をモデル化できなければいけません」

「課題の1つは、水の管理があまりにも 断片化していることです。私たちは、水のシステム全体を モデル化できなければいけません」

ANGELINE KNEPPERS氏
ダッソー・システムズ天然資源産業部門

Kneppersは、リモートセンシング技術の向 上やモノのインターネット(IoT)の登場に よ っ て 、エ コ シ ス テ ム の レ ジ リ エ ン ス( 復 元 力)の追跡や水資源の有意義な評価に必要 なデータを提供できると語ります。

たとえば、低電力の無線式監視センサーを 採用したスマートな水ネットワークを大都 市部に展開すれば、需要と供給を適切に予 測し、水漏れ箇所を特定し、微生物学的汚 染物質や化学汚染物質を見つけて軽減し、 降雨事象や洪水を管理し、利用者の特定の ニーズに合わせてさまざまな水質の水を配 水 で き る よ う に な り ま す 。産 業 界 は 、た と え ば各社の生産要件に適した処理が施された 水 の 供 給 を 受 け ら れ 、ま た 、水 を 循 環 さ せ て 再使用する場合は割引を受けられます。

IoTによるデータ監視によって、すでに作物 の生産量が増加しています。特定の作物の 要件に合わせて的確に灌漑を行う一方で、 世界の一部の地域では栄養素や農薬の流 出を検出・軽減しています。

Kneppersは最後に「河川流域では水の管理 ですでに十分な成果を上げており、それに よ っ て わ か っ て き た の は 、よ り 多 く の デ ー タ を 収 集 ・ 分 析 す る こ と が で き れ ば 、持 続 可 能 な水の使い方が生活の一部となるような、よ り適切な水の管理とプライシングが可能に なるということです」と述べています。◆

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