Natural resources

メトリクスによる 管理手法

Dan Headrick
28 October 2015

洗練されたテクノロジーを誇る世界最大手の採掘企業もついに、成功の鍵を握るのは適正な情報を持つ人材であることを理解し始めています。

カナダ、トロントから北西約2,600Kmに位置するヌナブト準州にあるメドウバンク金採掘場で、近年、運搬トラックが何台も損壊しました。この影響で生産量が5%低下し、この鉱山を操業するAgnico Eagle社は何百万ドルもの損失を被る恐れがありました。

ところが、同社は採掘プランニングおよび鉱石生産に新たなソフトウェアの導入に踏み切りました。

古いツールを使ってプランニングに数週間かけるよりも、鉱山寿命計画の多様なシミュレーションと生産への影響分析、さらにオペレーションの変更を数日間で実施することを選択したのです。「このようなツールはワークフローを円滑化し、多様な選択肢の中から複数の設計の違いを評価することを可能にします」と、Agnico Eagle 社で鉱山地質学のシニア・アドバイザーを務めるEric Ramsay氏は語っています。

「リーンな」採掘計画のサポートを強化

Agnico Eagle社が採用したような「リーンな」ビジネスプロセスへの投資を、より多くの採掘企業に求める業界リーダーの声が高まっています。採掘業界の未来は、広範で複雑なオペレーションに関連する動的な情報を採掘企業がいかにうまく調整できるかにかかっている、とリーダー企業は考えています。

「リーン(lean)」とは、贅肉のとれた状態を意味する言葉であり、1970年代から1980年代にかけてトヨタが洗練させ、その後世界中に広まって近代的な製造オペレーションへと転換させた生産方式に由来するものです。リーンのコンセプトはシンプルです。絶え間ない進化を求められますが、その理由は主に、最大効率で機能するには、すべての従業員が適正な情報を適正なタイミングで保持できるかどうかにかかっているからです。

「採掘企業がリーンを実践するにあたって重要となるのは、リーンな思考とオートメーションとの違いを明確にすることです」と話すのは、採掘企業でのリーンビジネス方式の実践と発展をサポートするオーストラリアのコンサルタント企業、Shinka Management社のディレクターを務めるPaul Smith氏。「昔からリーン生産方式はプロセス管理に対して、コストの高いハイテクソリューションを利用することを避けてきました。できれば一切コストをかけずに、かけても最小限で抑えるのです」

新たなビジネスモデルの採用

採鉱は昔から不安定なビジネスであり、自然の移り変わり、地域の政治、株価の影響を受けやすく、景気サイクルに応じた操業が求められます。新しいテクノロジーは生産量を改善しますが、業界の専門家はそれだけでは不十分であると口を揃えます。無駄の削減、生産量の浮き沈みの平坦化、事故の回避、常に起こりうる不測事態への適応を実現してリーンなビジネスを手に入れるには、オペレーション方法の改善だけでなくビジネスモデルの改革も不可欠なのです。

「露天掘りのオートメーション化は比較的容易ですが、地下鉱山はまるで小さな都市です」と、鉱山業界で35年の経験をもつ、コンサルタントのMike MacFarlane氏は述べています。同氏は、企業に考え方を変えなければならない、と説いています。「道は毎日変化します。ありとあらゆる複雑な決断をその時々で行うことが必要です。最も力を入れるべきところは従業員との連携です」

「道は毎日変化します。ありとあらゆる複雑な決断をその時々で行うことが必要です。最も力を入れるべきところは従業員との連携です」

MIKE MACFARLANE氏
エンジニア・採掘業界コンサルタント

だからこそ、チャンスもあります。採鉱は管理を要する単なる土木作業ではありません。政府や地域社会の関与も不可欠です。2014年、ロンドンを拠点とする世界最大手の採掘企業であるAnglo American社のCEO、Mark Cutifani氏は、社会的責任投資アナリストへのプレゼンテーションの中で、次のように発言しました。「約250億米ドルの採掘プロジェクトが、持続可能性や利権問題で遅延、あるいは一時中断しています」

他業界からの教訓

Cutifani 氏は、Kellogg Innovation Network(KIN)が主催するワーキンググループの共同議長も務めています。KINは、生態系、事業経営、文化の3つの利害で構成される、より巨大なエコシステムの中で事業展開する必要があることを採掘企業に説き、考え方を改めるように求めています。

またCutifani 氏は、KINの審議白書の中で「採鉱業界は古い因習にとらわれています。私たちは業界の外側からアイデアと経験を引き出すことによって、通常の業界構造の枠組みの外でこれを断行しなくてはなりません。私たちは業界を引っ張り、変革のペースメーカーとなりたいのです」と説明しています。

ビジネスモデルの改革に向けて、自ら動き出している企業もあります。例えば、世界各国で金属・採石事業を大規模に展開するオーストラリアのリオ ティントグループは、インドのプネーに業界初の最先端分析センターを起ち上げました。このセンターでは、調査や生産性、あるいは同社が設置した固定または可動の設備のセンサーが収集した膨大な量のデータを分析し、ダウンタイムの予測・予防と、安全性・生産性の向上を図ることを目的としています。

「このセンターは驚異的な正確さで当社の設備のパフォーマンスを特定するのに役立っています」と語るのは、リオ ティント社のテクノロジー・イノベーション部門の最高責任者であるGreg Lilleyman氏。リオ ティント社を率いている元自動車業界幹部のSam Walsh氏は、リーンビジネス方式を強く推進しており、事業運営によって多くの利益をひねり出すためにビッグデータを活用し、その将来の予測と計画のためにコンピューターシミュレーションを利用することに注力しています。

リーンな採掘事業の価値の証明

カナダ北部の金の露天採掘場であるメドウバンクでは、2010年の開業以来の金の確定・推定埋蔵量が37.3トンと記録されています。Agnico Eagle社はこの採掘場において、Walsh氏の主張を実証しました。情報管理を円滑にして集積所の設計を効率化しただけで、同社はこの金鉱で140万米ドルのコストを削減しながら、ここ数カ月間で2.18トンも生産量を増加させたのです。

これはまさに、日本人の工業エンジニアでリーン方式の父である大野耐一氏が思い描いた通りの成果です。同氏は1940年代の終わりに、米国の近代的なスーパーマーケットで作業が滞りなく進む秘訣は情報伝達の正確さにあることを見いだしました。

彼はこのアイデアをトヨタに持ち帰り、世界を変えました。このコンセプトと新たな情報ツールで武装すれば、今日の採掘業界もまた、未来に受けて自ら変革できるチャンスがあるのです。

Dundee Precious Metal社のメトリクスを活用した採掘方法についての詳細は、こちらのQRコードをスキャンしてください。
https://www.youtube.com/watch?v=r5gsaO99Hmo

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