プレースメント・アルゴリズムで 個人に的を絞る

マーケティング技術で、 コンシューマーひとりひとりに合わせたメッセージを届ける

Mary Gorges
20 May 2016

グーグルで「緑色のピンヒール」を検索してみてください。数分後には、開くページすべてにハイヒールの広告が表示さ れます。どのような仕組みでこうなるのでしょう? お使いのブラウザのクッキー(Cookie)が検索キーワードを広告プレー スメント・アルゴリズムに伝え、「利用者が購入したいもの」を売りたい企業の広告が自動的に表示されたのです。個人を ターゲットにした広告は、あらゆるものを接続する「ハイパー・コネクテッド」テクノロジーが実現するワントゥワンマーケ ティングの一つに過ぎず、自動ボットはひたすら賢くなっていくでしょう。

商売をする人たちは、昔から顧客の好 みや行動パターンを把握する方法 を探し求めてきました。しかし、今日 のようなデータであふれた「ハイパー・コネク テッド」な時代においては、個人に的を絞った ワントゥワンマーケティングワントゥワンが新 たな「広がり」と「個人化」の段階に入りつつあ ります。
イケアの最新のソーシャル広告キャンペー ン、#ShareTheBathroom(www.ikea.com/ ms/en_CA/Contest/bathroom_share.html) を例に取ってみましょう。コンシューマーは IKEA.comにアクセスして自分のバナー広告を 作成します。これには個人あてのメッセージ や、イケアが販売するバスルーム用品の画像 が盛り込まれ、家族やルームメートなどの身 近な人たちに送られます。イケアの顧客は結 果的にイケア製品の広告を作成しているので す。作成された広告は、コンシューマーのお墨 付きをいただいてウェブ上のさまざまなサイ トに表示されます。

イケアと共にこのソーシャルメディア・キャン ペーン広告を作成したカナダの企業、Jungle Mediaでプロデューサーを務めるJanet Xi氏 は次のように語ります。「誰もがワントゥワン マーケティングという理想を追い求めていま す。私たちは、自分たちが普段の生活になくて はならないと考える最も身近な日用品を使っ て、高度に個人化されたコミュニケーション の仕組みを作りたかったのです。バナーはよ く使われている広告形態なので、今回の『コ ンシューマー対コンシューマー』というモデ ルが断然面白いものになりました。そして昔 から使われているイケアのウェブサイト上で ソーシャル・マーケティングを展開すること で、独自性も一段と強いものになりました」
 
Xi氏によると、このキャンペーンの狙いはブ ランドの認知度とコンシューマーの関与の度 合いを高めることでした。この広告は最近、インターネット広告の業界団体IAB(IAB)の 「Innovative Use of Creative Optimization Ad Technology」部門で金賞を受賞しました。

データを利益に変える

ワントゥワンマーケティングのもともとの手 法は口コミでした。レコメンデーションエン ジンほどはテクノロジーに依存しない、新聞 やテレビ、ラジオ、電子メールなどが登場す るまでは、人は口コミで製品を売り込んでい ました。しかし今日のワントゥワンマーケティ ングは、個人が実際に購買を決定するまさに その瞬間に近づけてメッセージを届けようと するようになっています。

“A CAR OR TRUCK MANUFACTURER MAY PROMOTE A DIFFERENT VEHICLE TO AN URBANITE VERSUS SOMEONE WHO LIVES IN A RURAL AREA.”

PATRICK DOLAN
EXECUTIVE VICE PRESIDENT AND COO, INTERACTIVE ADVERTISING BUREAU

IABのエグゼクティブ・バイス・プレジデント 兼COO、Patrick Dolan氏は、データ製品や自 動化技術の急速な普及によってデータの価 値が一気に高まったと考えています。ここで 言うデータには、製品を販売する企業が自 社で所有するデータや、グーグルやフェイス ブックのようなデータ検索エンジンからの分 析にも利用できる大量のデータまで含まれ ます。同氏によると、現時点で最も興味を引 くワントゥワンマーケティングのイノベーショ ンは、個々のユーザーが興味を示している内 容に基づいて「状況に応じて表示内容を変え られる」広告です。マーケティング担当者は メッセージをリアルタイムに変えられます。

「たとえば自動車やトラックのメーカーは、都 会に住む人と地方に住む人に対して、別々の 車種を売り込むことができます。こうした判 断を、ユーザーがコンテンツのページを表示 している間にリアルタイムに行えます。広告 主が把握しているユーザーの人口統計デー タや心理的特性・行動・興味などの情報と、 ユーザーから提供された情報、システムによ る推論から導かれた情報を組み合わせるこ とで、本当にユーザーその人に合わせて表示 された広告だと感じさせることができます。 マーケティング担当者の多くが、順を追って 話を進めてユーザーの気分を徐々に盛り上 げる手法を試し始めています。しかし広告の 観点から言えば、ユーザーは特定の数の広 告を順番に見ているだけです。どれを買うの かを決める過程で、ユーザーは新しい創造を 体験しているのです」(Dolan氏)

PATRICK DOLAN, Executive Vice President and COO, IAB

 

Dolan氏によると、将来的には、顧客が自分 の店でシャツを購入したことを把握するだ けでは十分ではなくなるでしょう。彼らが良 かった点を投稿してフォローアップしたの か、そして誰にそのことを話したのかも知り たいはずです。クッキー(Cookie)の利用が 増えて、企業はユーザーに関するより多くの 情報を把握できるようになっており、たとえ 名前や個人データを知らなくても、個人個人 に合わせてワントゥワンのエクスペリエンス を大々的に提供できるようにするボットや検 索・投稿履歴などが実現されています。そし ておそらくは、近いうちに必要不可欠なもの となるでしょう。

拡張現実が 当たり前になっていく

マーケティング担当者はすでに検索やコン シューマー動向データを把握しており、彼ら がその先に見据える有望な分野は、3Dビデ オやバーチャル・リアリティ(VR)、拡張現実 (AR)の世界です。Dolan氏は次のように語 ります。「現在は学んでいる段階です。こうし た手法は、体感を伝える非常に優れた手段 になりえます。たとえば、3Dで買い物客にブ ランドの最新コレクションを『試着』しても らったり、航空会社の新しいキャビンレイア ウトを案内したり、あるいは豪華なリゾート 地でプールのそばに腰掛ける気分を体験し てもらったり、私たちはすでに何でもできる エキサイティングな段階に来ています」

こうした大きな変革を活性化させるテクノロ ジーは3Dだけではありません。ワントゥワン マーケティングを大きく変える中心にあるの が、日々進化を続けている新しい分析技術で す。種類の異なる大規模なデータセットを結 合・分析して豊かな表現力で視覚化できる ようになればなるほど、企業はより精度の高 い、本物のワントゥワンマーケティング・キャ ンペーンを構築することができます。

分刻みの進化

「何かに興味を持つ人に対して変化のない キャンペーンを仕掛けても意味がありませ ん」と語るのは、本誌を発行する3Dエクスペ リエンス企業、ダッソー・システムズでデジタ ル・マーケティング、メディア、アドバタイジン グ担当バイスプレジデントを務めるミカエ ル・ネイサンです。現在は状況が異なり、アル ゴリズムによって各個人の習慣や興味が詳 しくわかるようになるにつれて、ユーザーに 対して仕掛けるキャンペーンも分刻みで進化 し、変化し始めています。

ミカエル・ネイサンは次のように説明します。 「たとえばコネクテッド・カーを考えてみてく ださい。利用者の情報を取り込み、車内環境 を利用者に合わせて変えてくれます。利用で きるサービスを選別し、利用者が欲しがる情 報だけをその人に送信します。さらに、その 情報を使って車内環境を調整します。車が一 種のバーチャル・アシスタントになり、状況を 察知してそれに合わせて応答を変えている のです」

「あらゆるモノのインターネット(Internet of Everything)」が「エクスペリエンスのイン ターネット」へと姿を変え、個人の行動や興 味、必要なものを徐々に認識できるようにな るにつれて、私たちの購買行動を予測してそ れに影響を及ぼす作業もさらに効率よくなる ように思えます。テクノロジーが現在のペー スで進歩していても、私たち自身が気付く前 に私たちのデバイスが私たちの欲しいもの を認識できる日はそう遠い先では無いかも しれません。◆

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