プロダクトデザインは 新たな現実の世界へ

没入型バーチャリティの利用で、 製品をよりスピーディーに、かつ経済的に設計

Joseph Knoop
20 November 2016

製品をコンピュータの画面上で3Dのバーチャル表示で見るのもいいのですが、画面が小さいと複雑な製品の細部を見落 としてしまい、その部分を後で修正するのに費用がかさむおそれもあります。安価なヘッドマウントディスプレイ(HMD) の登場により、この問題が解消され、デザイナーやエンジニアは製品を実物大で体験できるようになってきました。

3Dデザインソフトウェアの進歩は、製 品開発に革命をもたらしました。そ の3Dモデルを没入型バーチャリティ (iV)で確認できるようになったことで、ふた たび革命が起ころうとしています。

世界的に認められた仮想現実のエキスパー トで、ダッソー・システムズで没入型バー チャリティ担当ディレクターを務めるDavid Nahonは次のようにコメントしています。 「仮想現実(VR)なら3Dモデルを見るだけ でなく、体感することができます。まさに革 新的な発明といえるでしょう。コンピュータ の画面でモデルを見るのもいいのですが、 実物大のモデルを体感すれば、さらにお金 をかけて製品の開発を進める前に、小さな 画面では見落としかねない多くの点を精査 することができます」

潤沢な資金を持つ世界的大企業はこの20 年近く、CAVEというVRシステムを使ってiVテ クノロジーを利用してきましたが、これは高価で複雑な装置なので、利用者は主にデザ インやエンジニアリングの専門家に限られ ていました。しかし、2016年に安価なヘッド マウントディスプレイ(HMD)が発売された ことで、中小企業も没入型の体験に手が届くようになり、これまでCAVEを利用できな かったユーザーにも裾野が広がっています。

「さまざまな製造業がVRに関心を寄せてい ます」と話すのは、B2B向けの仮想現実HMD メーカー、HTC Viveのバイス・プレジデント を務めるHervé Fontaine氏。「企業向けに 開発したViveの製品ラインを活用すれば、 3Dソフトウェアを利用している人なら誰で もすぐにVRで3Dデジタルモデルを見ること ができます。実際に試作品をつくって間違い がないかどうか確認しなくても、VRならコン ピュータの画面で見るよりも開発の早い段 階で問題点が見つかるため、時間や費用を 大幅に節約できます」

「VRを利用してコンセプトを技術的に検証した結果、 バーチャル製品を市場に売り込むことができました」

エンブラエル社のエンジニアリング&テクノロジーセンターでマネージング・ディレクターを務めるPaulo Pires氏が
VRを活用したリネージュ・エグゼクティブ・ジェットのコンセプトの市場テストについて語ったコメント

エンブラエル社は他に 先駆けてジェット機の設計に 複合現実(MR)を導入

航空機や自動車の設計では1つのミスでも あれば多額の損失を招くおそれがあります。 航空機メーカーや自動車メーカーは他に先 駆けて製品開発にiVを取り入れていること も驚くにはあたりません。

ブラジルに本社を置き、様々なジェット機 を製造する世界第3位の航空機メーカーで あるエンブラエル社は、これまでiVテクノロ ジーを長い間、活用しており、最近ではVRか らMRへと移行しています。

エンブラエル社の新しいMR環境は、CAVE のような従来のVR環境とは異なり、今いる 空間や自分の体、設計したモデルを同時に 見ることができます。それによって、動きや 視点が自由になり、いままでにないやり方で 新しい航空機の設計を検証・改良できるよう になります。

「私たちは、デジタルコンポーネントとデジ タルシステム、そして実際の内部パーツモデ ルで構成された自然な空間で没入型の設計 レビューを行うことによって、製品開発をス ピードアップしてきました」と話すのは、フロ リダにあるエンブラエルのエンジニアリング&テクノロジーセンターでマネージング・ ディレクターを務めるPaulo Pires氏。「いま や、レビューの参加者はどこにいてもバー チャルモデルを体感し、何十人もいる他の チームメンバーとやり取りすることができ ます。さまざまな設計仕様を全員で同時に チェックし、注釈を付けることもあります」

北米と南米の双方に大規模な拠点を持つ 企業は、VRをCAVEから移行することにより 大きなメリットがあります。それは、設計者 は大陸間を移動しなくても共同で作業でき るため、設計にもっと時間を割けるようにな ります。多くの人々が同時に同じ情報を見る ことができるようになれば、チームメイトが 問題点をすばやく理解し、解決する上でも 役立ちます。

Pires氏によれば、エンブラエルのリネー ジュ・エグゼクティブ・ジェットのコンセプ トをテストするにあたっても、没入型設計・ シミュレーションの真価が発揮されたそう です。同機には窓のように見えるデザイン の非常ドアが装備されることになりました。 「この機体はまだ製造されていませんが、すでに市場の関心を広く集めており、特定 のお客様から注文をいただいています。VR を利用してコンセプトを技術的に検証した 結果、バーチャル製品を市場に売り込むこ とができました」

地球を飛び出すMR

エンブラエルが旅客機の設計にMRを取り 入れる一方で、NASAはMicrosoftのMR製 品であるHoloLens(ホロレンズ)を活用し て宇宙飛行士用のホログラフィックコンテ ンツを作成しています。

NASAのジェット推進研究所(JPL)が進め ている2つのMR試行プロジェクトの1つ、 ProtoSpaceでは、エンジニアが未来の宇宙 探査機のデザインを完全にビジュアル化し ています。

通常、こうしたエンジニアリングプロセスは 3Dモデルを利用して標準的なコンピュータ の2次元画面上で進めますが、ProtoSpace を活用すれば、NASAのエンジニアがMR上 で最新マーズ・ローバー(2020年打ち上げ
予定)の周囲を歩き回ることができます。

NASAのJPLでミッション・オペレーション ズ・イノベーション・リーダーを務めるJeff Norris氏は次のようにコメントしています。 「これによって、NASAのエンジニアは設計 上の問題点を発見できるようになりました。 こうした問題が残っていると組み立てが遅 れ、損害をもたらす恐れがあります。全員が 同じ空間にいるような感覚で、エンジニア 同士が宇宙探査機について話し合えるなん て、素晴らしい体験です。もっとも、実際に建 造するのはまだ何年も先の話ですが」◆

執筆協力:Rebecca Gibson

See Embraer’s MR design theater:
http://3ds.one/EmbraerVR

Applying consumer HMDs to industrial settings:
http://www.3ds.com/stories/never-blind-in-vr

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