業界を一から作り直す

驚くべき方法でさまざまな業界に旋風を巻き起こしている、これまでにない画期的なビジネスモデル

Charles Wallace
11 June 2019

世界中で、「従来どおりのビジネス」に物足りなさを感じている起業家が、デジタル・テクノロジーを活用して全く新しいビジネス手法を生み出しています。たとえば、工場を持たない自動車メーカーや、巨大なロケットを使わない衛星打ち上げ企業などです。こうしたイノベーターたちがルールを打ち破り、さまざまな業界で次から次へと旋風を巻き起こしており、これまで業界をリードしてきた企業も自社ビジネスモデルの再考を余儀なくされています。

フランスのXYT社は自動車を扱っています。従業員はわずか6名で、工場もなく、あるのは従来の自動車会社のやり方にことごとく逆行するビジネスモデルです。 

 

設立者の一人であり、パリで自動車修理工場を営んでいたMarc Chevreau氏は、自動車の修理に要する費用に不満を募らせていました。予備部品にかかるコストの上昇や車両の複雑化が、壊れた車両を修理するビジネスモデル全体にとって大きな課題となっていました。Chevreau氏にとっては、まるで自動車メーカーが自社のビジネスプランに修理不可能な車両を仕込んで新車売上台数を伸ばそうとしているかのように思えました。

そこでChevreau氏と彼のビジネスパートナーのSimon Mencarelli氏は、レゴブロックのような、モジュール化された自動車を販売することにしました。コンポーネントの数はちょうど500で、ボルトで固定・分解します。スパナ程度の工具があれば、ピックアップトラックに変えたり、それをさらにパネルトラックに変えたりすることができます。XYT社の少数のスタッフが、クラウドベースのプラットフォームを使用して世界各地のパートナーと迅速かつ容易に連携しながら、モジュール化されたコンポーネントを設計しました。XYT社は工場は建設せず、ほとんどの部品をオンラインで注文しました。そしてパリ近辺の小さな修理工場のネットワークを構築して車両を組み立てました。 

 

XYT社の共同設立者兼CEO、Mencarelli氏は次のように語ります。「年に数十万台という規模の自動車を生産するラインを建設するとしたら、車両が長持ちするとビジネスにとって良いことはありません。私どもの損益分岐点はこれまでの自動車業界と比べるとかなり低いので、生産台数が少なくても採算が取れるのです」XYT社の自動車はまた、長持ちするように、そして簡単に修理できるように設計されていますので、環境フットプリントもはるかに小さくなります。 

 

当初は、XYT社は専門分野に特化した個人顧客、すなわちFedExやUPS、DHLなどの大手物流企業と契約して小荷物を配達している自営の運送業者に照準を合わせます。こうした運送業者は宅配業界に旋風を巻き起こしていますが、これはUberが世界中のタクシー業界に衝撃を与えたのと同じで、あらゆる都市へと拡大して運送業者の倉庫から末端の顧客へと荷物を届けています。この特異なビジネスモデルを完全なものにするために、XYT社では配達用車両は同社のオンライン・プラットフォーム上で、リースでのみ利用できるようにしています。利用者は自分たちのビジネスの状況や荷物取扱量の増加に合わせてオンラインで部品を注文し、借りている車両の構成を変更することができます。 

 

XYT社のビジネスモデルは特異ではありますが、時代の流れとも言えるもので、従来どおりのビジネスに物足りなさを感じている世界中の起業家が、インターネットを活用して全く新しいビジネス手法を生み出しています。こうしたイノベーターたちがルールを打ち破り、さまざまな業界で次から次へと旋風を巻き起こしており、これまで業界をリードしてきた企業も自社ビジネスモデルの再考を余儀なくされています。

プラットフォームを活用

カリフォルニア大学バークレー校のハース・スクール・オブ・ビジネスに属するガーウッド・センター・フォー・コーポレート・イノベーションのファカルティ・ディレクター、Henry Chesbrough氏は、オンライン・プラットフォームを介して従来とは異なるパートナーと連携することにより、ますます多くの起業家が従来のビジネスに要していたコストを削減していると見ています。Uberがプラットフォームを介してマイカーやドライバーをうまく調整し、少ない起業資金でタクシー会社を始められるようにしたのと同じように、こうした新興企業もプラットフォームを介して、以前であれば及び腰になってしまうような、ビジネスを始めるための初期費用を不要にしています。XYT社がまさにこれに相当し、従来の自動車メーカーが生産工場やディーラー網、修理工場などに投入しなければならなかった資金を不要にしました。 

 

「標準化とカスタマイズは常にトレードオフの関係にある」と語るChesbrough氏は、自身の著書『オープン・サービス・イノベーション(Open Services Innovation)』の中で、サービス企業に姿を変えざるを得ない状況に追い込まれたメーカーがいかにして生き残っているのかについて次のように記述しています。「新たにプラットフォームを活用するようになり、標準化とカスタマイズのトレードオフをコストのかからない、拡張性に優れた新しい方法で解決できるのです」 

 

XYT社のやり方が自動車業界を一変させている一方で、バルセロナに拠点を置くZero 2 Infinity社は衛星打ち上げのビジネスモデルそのものを根本から作り直しています。Zero 2 Infinity社は、米国やロシアが国を挙げて行っていたような巨大なロケット(SpaceX社やボーイング社などの民間企業への移行が現在進められているビジネスモデル)に投資するのではなく、気球打ち上げ方式という低コストのシステムを使用して地球に近い宇宙空間を多くの人たちが探査できるようにしようとしています。 

 

Zero 2 Infinity社設立者のJosé Mariano López-Urdiales氏は、「世の中には良いアイデアがいろいろあることは昔から知っていましたが、地球周回軌道に乗せるための方法だけはなかったのです」と語ります。López-Urdiales氏はマサチューセッツ工科大学(MIT)航空宇宙学部を卒業し、以前は欧州宇宙機関に勤務していました。そのため、ペイロードを宇宙でテストする時でさえ何年ものあいだ待たなければならず、研究者も宇宙開発起業家たちも皆同じようにイライラを募らせているのを目の当たりにしてきました。

Simon Mencarelli氏 XYT社 共同設立者兼CEO  (Image © Carlos Fetherstonhaugh)

競争条件を平等にして宇宙研究や衛星打ち上げをもっと安上がりにするために、López-Urdiales氏は衛星打ち上げプロセスをよりシンプルにするシステムを考案しました。まずは、Zero 2 Infinity社のBloostar衛星ランチャーが高高度気球で上昇します。そして上空25kmに達したところでエンジンに点火し、衛星を地球周回軌道に乗せます。Bloostarのビジネスモデルでは、高価な打ち上げロケットはもちろん、ロケット発射台すら不要です。Zero 2 Infinity社はカナリア諸島近海で打ち上げを行う計画です。

顧客により満足してもらえるものを提供 

López-Urdiales氏によると、ロケットと気球を組み合わせたBloostarの「ロックーン」にはすでに、柔軟性の高い安上がりな方法で衛星を打ち上げたいと考えている多くの見込み客が関心を寄せています。 

 

「膨大な需要があるにもかかわらず、まともに使えて実際に配備できそうなシステムがほとんどないのです」(López-Urdiales氏) 

 

Zero 2 Infinity社は、プラットフォーム上でバーチャル設計ツールを使用することにより、開発時間を通常のおよそ半分に短縮しました。このツールを導入したことで、通常は構想のプロトタイプやテストで必要になる中間手順の多くが不要になり、設計後すぐにプロトタイプを作成できるようになりました。López-Urdiales氏は「バーチャル設計ツールのおかげで、参入のハードルが下がりました。試行錯誤を何度も繰り返す必要がなくなったので助かりました」と語ります。同社のデザインでは地球の大気圏通過中にペイロードを押し上げる必要もなくなるため、よりコンパクトで費用対効果の高いランチャーになります。

XYT社の自動車は長持ちするように、そして簡単に修理・構成変更できるように設計されているため、大量生産されている自動車よりも環境フットプリントがはるかに小さくなります。(Image © XYT)

Zero 2 Infinity社がバーチャル設計ツールを活用するもう一つのメリットは、全く新しいカスタマー・エクスペリエンスを創出できることです。López-Urdiales氏によると、ほとんどの顧客はとにかく安上がりな衛星打ち上げを求めていますが、一方でZero 2 Infinity社は、優れたデジタル・シミュレーション機能を使用して見込み客をバーチャルな宇宙空間に連れ出し、気球による打ち上げ時にペイロードにかかる応力の小ささを目の前で見てもらうこともできます。こうしたバーチャルな手法を用いることで、Zero 2 Infinity社が衛星をより軽量化して設計できることを(地上打ち上げによる極端な衝撃や振動、騒音に耐える必要がないため)顧客に強くアピールすることができます。 

 

カリフォルニア大学バークレー校のChesbrough氏は、「顧客とこのような向き合い方ができるのは、イノベーションの新しい、重要な特徴です」と語ります。 

 

「顧客は必ずしも自分たちの要望を事前に把握しているわけではありません。しかしこのようなバーチャルな手法を活用して向き合えば、より満足してもらえるものを提供できるのです」(Chesbrough氏)

For more information on new business models, please visit https://go.3ds.com/3Br

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