レアアース

中国の供給引き締めを受けたメーカーの計画と苦慮

Cherie Rowlands
25 October 2013

世界はかつて、先進技術の応用に必要なレアアースを米国に依存していました。しかし過去15年間で依存先が中国に移り、一部のメーカーは危うさを感じています。対抗する供給元の開発から代替材料の発見まで、政府や企業はレアアースの供給体制を立て直すための取り組みを進めています。

17種類の希土類元素のグループ、すなわち「レアアース」は、自動車や石油精製触媒、フラットパネルディスプレイ、ハイブリッド車や電気自動車用の充電式バッテリー、風力タービン、多くの医療機器で使用される永久磁石など、「重要性を増しつつあります」。新技術に欠かせない原料です。

「希少な土」という名前ではあるが、レアアースは比較的豊富に存在します。ネオジム、ランタン、セリウムといった一部のレアアースは、地球の地殻内に鉛や金よりも多く存在します。それではなぜレアアースは「希少」なのでしょうか。それは、採掘や処理に困難が伴うためです。レアアースの鉱床は一般に、他の地質物質と混ざり合っているため、個々の元素の採掘コストが上り、大がかりな処理費用が必要となります。こうした事により、世界のレアアース供給の大部分は、一国だけ、つまり中国によって依存する状況に至っています。

多くのレアアースに需要が高まる中で、メーカーはサプライヤーに大いに依存しています。エネルギー政策専門家のMarc Humphries氏がまとめた米国議会調査局(USCRS)の調査報告書「Rare Earth Elements:The Global Supply Chain」(2012年6月)では、世界全体のレアアースの年間需要量は2010年には136,000トンでしたが、化石燃料への依存軽減を目的とする用途など、応用範囲が急速に拡大している結果、2015年までに年間185,000トンまで増加する見込みであると報告されています。

Technology Metals Research社(米国イリノイ州シカゴ)の中心的創設メンバーであるGareth Hatch博士は次のように述べています。「25年から30年前には、レアアースの用途はほぼ存在しませんでしたが、重要性を増しつつある新技術の採用を通じて需要が増加しました。そうした技術の多くは、気候変動や環境意識の高まりに応じたものです。」Hatch博士は、20年前には「ユウロピウムとテルビウムは目新しい元素で、周期表の一番下にあり単に無視される不可思議な化学元素でした」と語ります。今日では、どちらもテレビ画面や省エネ照明に使用されています。

注目のコモディティ

15年前、米国は世界一のレアアース生産国でしたが、中国からの価格圧力を受けた結果、市場から撤退しました。両国では環境規制がまったく異なるという事情から、価格差を一層拡大していたのです。

Hatch博士は次のように述べています。「1980年代の前半までは、カリフォルニア州のマウンテンパスが産出量世界一のレアアース鉱山でした。しかし、自国内でレアアースを発見した中国は、国の産業政策の一環として、かなり前からレアアース鉱床の開発と採鉱を計画していました。中国は、資源の豊富さと、環境汚染軽視という2つの要因により、低コストを実施できました。中国の主なレアアース供給源である内モンゴルのバヤンオボー(白雲鄂博)鉱山では、主要産品である鉄鋼石の副産物としてレアアースが産出されており、中国は多くの設備を共有することによってコスト面の優位性を得ています。」

ステレオタイプのイメージ通り「残念ながら、中国ではごく最近まで、環境にほとんど配慮しない方式や手法を用いて、これらの原料を生産してきました。そのため、汚染物処理、フィルター処理、廃棄物の適切な管理にコストをかけませんでした。それは当然、価格の優位性を生み出します」(Hatch博士)。

北京にある中国レアアース学会の学術部門は、レアアースの科学と技術の両面について中国の中央政府に提言や勧告を行う、国費で運営される組織の一部です。同部門のディレクターChen Zhanheng博士は、中国は投資に対する利益を得ているにすぎないとコメントしています。

Chen博士は次のように述べています。「中国政府は、レアアースの探鉱、採鉱、分離、製錬に集中しました。初期調査から、レアアースが使われる応用分野まで、レアアース分野に巨額の財政支援を行なったのです。鉱床が豊かで操業コストが低いことは、中国の採鉱会社が海外で競争できることを意味していました。」

Chen博士は、中国が低コスト戦略を取ったことはないと強調しています。「生産コストの低さは、人件費が低く、環境保護への投資がほとんどないことに起因していました。その状態を続けられないことは明らかで、2011年10月に新たな汚染物質排出基準が施行されて以来、中国の操業コストは増加しています」(Chen博士)。

唯一の供給国

2012年4月に『Environmental Science and Technology』誌で発表されたマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究論文「Evaluating Rare Earth Element Availability:A Case with Revolutionary Demand from Clean Technologies」によると、中国は現在、世界のレアアース生産の98%を占めています。この論文では、歴史的には市場の寡占レベルがこれよりずっと低くても、世界の製造企業に悪影響があったと指摘しています。MITの上級研究員で、論文の著者の1人であるFrank Field博士は、次のように述べています。「これは稀少性の問題ではなく、重要性の問題です。供給源が一つしかないことが間違っています。レアアースが枯渇することはありませんが、何が起こるかは予想できます。」

Hatch博士も同じ意見です。「中国は2010年9月に、日本へのレアアース供給を数週間止めたと伝えられています。このとき、これらの物質は突如、地政学上の武器となりました。その後、中国が輸出割り当てと輸出制限を発表したことを受けて、産業上の基礎ともなっているレアアース原料の価格が高騰し、3000%もの値上がりをみました。これにより、多くのエンドユーザーや大手メーカーに激震が走り、供給の途絶が実際に起きるおそれは低くても、影響は甚大でした。」

185,000トン

米国議会調査局(USCRS)によれば、世界のレアアースの年間需要量は、2010年の136,000トンから、2015年までに185,000トンまで増加すると予測されています。

Don Bubar氏は、カナダのノースウェスト準州に位置する世界最大級の未開発レアアース鉱床を所有するAvalon Rare Metals社の社長兼CEOを務めています。Bubar氏は、産業界が中国によるレアアース支配を懸念するのは無理もないと考えています。

「中国は国内レアアース業界の所有権と処理業務を整理統合し、操業する企業の数を削減して、生産の最低要件を設けました。これは、輸出税の課税、輸出に対する付加価値税払い戻しの撤廃、輸出割り当ての適用、より厳格な環境基準の施行を始めとした、以前からの取り組みに加えて実施されました。中国は、2010年当時より、輸出制限と価格管理を行いやすい立場にあります。中国国外の消費する側の国や企業は警戒すべきです」(Bubar氏)。

唯一の原料供給国としての地位を享受しているのは中国だけではありません。たとえばロシアは、世界のチタン供給のほとんどを支配しています。この独占を懸念する声は、レアアースほどではありません。少なくとも、今のところは、です。

Hatch博士は次のように述べています。「政策立案者、政府や情報通等産業界に精通した者達は懸念の声を上げています。チタンのサプライチェーンが、レアアースを襲ったような価格高騰に揺さぶられたとすれば、同じレベルの不安が引き起こされる可能性もあります。しかし、調達担当者に電話で注文し、6週間後に納品されるのであれば、問題になりません。」

「中国がレアアース製品の 世界的な需要を 満たすことができない 可能性もあります。 そのため、 他国がレアアースの生産を 発展させることで多様な 供給システムを確立するのが 得策です。」

Chen Zhanheng 博士
中国レアアース学会(北京)学術部門ディレクター

Chen博士は、中国は正当で責任ある行動を取ってきたと主張しています。採掘総量規制によって汚染と生態系の被害の両方を低減することが、環境保護に寄与するとChen博士は語ります。中国政府は、違法採掘の厳しい取り締まりも実施してきましたが、それも供給量の低下を招きました。「中国の採掘総量規制を受けて、日本をはじめとする先進諸国がレアアースの供給について懸念を抱いたのは無理からぬことです。しかしこれらの国は、レアアースの入手において違法な採掘や密輸にも助けられていました。つまり、採掘総量規制と輸出割り当てはほとんど効果がなかったのです」(Chen博士)。

英国を拠点とするCientifica社の創設者であるTim Harper氏は、世界経済フォーラム(WEF)で新興技術についてアドバイザーを務めており、かつては欧州宇宙機関(ESA)のエンジニアでした。Harper氏は、中国のこれまでの行動だけでなく、欧米がレアアースの適切な供給計画を立てなかったことも、この状況をもたらした原因であると指摘します。

Harper氏は次のように述べています。「商業的な側面と政治戦略的な側面がある、レアアース取引は実際は均等な機会が用意された場ではないことを意味しています。純粋な商取引ならば、中国からレアアースを買うだけのことです。ところが政策の観点から見ると、欧米の政治家たちは何かが起きるまで待ってから、テクノロジーによる解決策を無理に見つけようとする傾向があります。こうした対処法は機能しなくなり始めています。なぜなら、さまざまな問題を回避するためのテクノロジーが存在していても、それを発展させるには時間がかかるからです。」

新たな生産拠点

レアアースは世界中に存在するため、中国の独占をおそれる国は、代わりの供給源を開発することによって対処することも可能でした。USCRSの報告書では、米国を拠点とするMolycorp社のほか、カナダのAvalon Rare Metals社やGreat Western Minerals Groupといった企業が、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウムなどのレアアースを長期的に供給できる見込みがあることが強調されています。オーストラリアにあるLynas Corporation社のマウントウェルド鉱山も、2013年に操業を開始しました。新しい鉱山がフル生産に達するまでに10年を要する場合もありますが、USCRSの報告書では、「長期的には、世界全体の埋蔵量と未発見の資源は、需要を満たす十分な規模である」と言明されています。

Molycorp社とLynas社によって、需要が多いネオジムのような軽希土類の供給懸念は緩和される可能性があります。しかし、中国と競争するためには、ジスプロシウムなどの重希土類に的を絞ったプロジェクトが必要です。Bubar氏は次のように述べています。「最終的には、産学連携による完全なサプライチェーンソリューションの構築のため、さらなる取り組みが必要とされています。国の政策の立案者は、生産国と消費国の政府間の協力関係を育み、中国外部の産業界が完全なレアアースサプライチェーンを確立する助けとなる協調戦略を立てる必要があります。」

レアアース金属の生産には、複数の段階から成る処理が必要です。まず、黄色(セリウム)、黒色(プラセオジム)、 青色(ネオジム)などの粉末状のレアアース酸化物を皿に入れ、フッ化水素ガスにさらします。 すると粉末が、緑色をしたプラセオジムのフッ化物結晶(右端)のようなフッ化物結晶になります。 このレアアースフッ化物は、還元反応とその後の処理を経て、最終的に純金属の形態になります。 (写真提供:米国エネルギー省エイムズ研究所)

資金調達が最大の課題であることには変わりません。「レアアース鉱床は世界中に多数存在しますが、ほとんどが小規模な採鉱会社によって行われています。事業はハイリスク、ハイリターンであるため、大手の採鉱会社は、より確実な原料である銅や鉄に関心を持つ傾向があります。その結果、小規模な企業が金策に奔走しているのです。レアアースは独特で、鉱床ごとに独自の鉱物的な特徴があります。金や銅の採掘のように、ペルーであろうとネバダであろうと同様の手法が使用できる状況とは異なり、鉱物を取り出すためには、その鉱床に特化した手法を考案する必要があり、数年がかりになる場合もあります。重希土類を年間5,000トン産出する鉱山であれば、製品を市場に届けるまでに10億米ドルの投資が必要になる可能性もあり、莫大な金額となります。」(Bubar氏)。

価格の高低はともかく、中国が世界のレアアース需要を永久に満たせるわけではないとChen博士は指摘します。「中国がレアアース製品の世界的な需要を満たすことができない可能性もあります。そのため、他国がレアアースの生産を発展させることで多様な供給システムを確立し、供給不足の懸念を和らげ、グローバル政治経済に合致する安定供給を確保するのが得策です」(Chen博士)。

代替品の探求

サプライヤーが新たな鉱山の操業開始に向けて取り組む一方で、不安定な価格と不確実な供給が動機となり、代替品を探し求めるエンドユーザーも現れています。たとえばFord Motor Company社は、新しいハイブリッド自動車モデルのFusionとC-MAXでリチウムイオン電池を採用し、以前のニッケル水素電池で使用されていたネオジムを不要にし、ジスプロシウムの使用量も半分に削減しました。

しかしFord社の成功は、まだ他には波及していません。Bubar氏は次のように述べています。「材料科学の学界では大幅な進歩が喧伝されています。たとえば、レアアース磁石への依存が低減されるテクノロジーなどです。しかし、それらの進歩の多くはまだ実験室の中にとどまっているか、実証試験の段階にあって、生産には移っていません。」

研究室では、代替品とリサイクルの両方を続けられており、世界中で多数のプログラムやプロジェクトが進行中です。たとえば米国では、エイムズ研究所が主導する、多領域にわたる活動を行うCritical Materials Institute(CMI)が、処理、生産、代替、効率的利用、使用後のリサイクルといった課題に取り組んでいます。一方、Canadian REE Research Networkは、レアアース研究の重複を最小限にとどめ、レアアース回収という課題で最大のイノベーションを実現することを目指しています。2011年には、韓国の韓国生産技術研究院(KITECH)が最初の会合主催者となり、国際的なグループができました。このグループは、世界各地の主な研究グループ間で共同研究を発展させることを主な目的としています。

代替品の発見を急ぐのはもっともですが、Hatch博士は次のように警告しています。「永久磁石を使わない設計に移行した場合、価格が下がったり、ネオジムやジスプロシウムの新たな供給源が現れたりすれば、設計から永久磁石を排除したためにかえって不利な立場に置かれる場合もあります。」しかしHarper氏は、テクノロジーの進歩によって、従来可能であったよりも代替品を短期間に、低コストに探せるようになると主張しています。「化学の世界では、コンピュータシミュレーション技術が試験管に取って代わりました。試験管を使った試験の多くはコンピュータで実施できるようになり、作成する前に物質がどのように振る舞うかを解明できるようになりました。最も有望な候補を合成することだけに焦点をあてればよいのです。こうした手法によって、新たな物質を創り出そうとする際の生産性が大幅に向上しています。」

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