世界中の都市で、徐々に市街地での移動が困難になっています。道路渋滞は遅れやストレスを生み、混雑のピーク時に身動きが取れなくなるルートができたり、自動車所有の人気を支えてきた便利さや移動の自由が損なわれたりしています。
自動車のドライバーが渋滞に憤る一方で、バス、路面電車、鉄道の乗客も同じ道路を譲り合って利用しなければならず、停留所や駅で長く待たされることも珍しくありません。
そして別の交通手段に乗り継ぐときは、彼らは自転車や歩きで移動する人たちの一員となり、場所によっては保護マスクをつけて人混みと排気ガスの中を進んでいきます。
多くの都市では、異なる交通手段が平和的に共存するための協調的な計画がほとんど、あるいはまったく存在しないため、これから移動はますます危険でストレスの溜まるものになりそうだと思うかもしれません。しかし今、その解決策を見つけようとする都市の取り組みに、イノベーターや起業家が参加するようになっています。
例えばヘルシンキでは、人々は移動するときにWhimアプリで事前に行程を計画しています。このアプリでは、バス、シェアサイクル、鉄道、路面電車、タクシーなど好みの交通手段を選択し、支払いもすべてアプリ経由で行うことができます。予定が変わった場合はリアルタイムでルートや交通手段を調整し、遅れを最小限に、便利さを最大限にして移動することができます。これはモビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)の実践例で、テクノロジーが都市モビリティの個別の課題を包括的にマネジメントできる可能性を示しています。
「ただモノにセンサーを取り付けて接続すれば良いという話ではありません。それらを現実的かつ測定可能な形で、都市の人々の体験の改善につなげていくことが重要です」 Heikki Laine氏
Cognata 製品&マーケティング担当バイスプレジデント
フィンランドを拠点とするMaaS Globalの創業者でCEOのSampo Hietanen氏は、「今やクラウドサービス、API、システムの統合といったテクニカルな要素は便利でシームレスな方法であらゆる交通手段を結びつける役割を果たしており、車を持つことで得られる自由と張り合えるところまで来ています」と語ります。
変化を加速させる
ヘルシンキにおけるWhimの成功――そしてベルギーやイギリスの都市への同アプリの展開――は、モバイルでの利用が浸透しつつあるテクノロジーを駆使することによって、これまで長い間、車を持つことでしか得られなかった自由と選択肢を都市交通が提供できる可能性を示しています。
Hietanen氏は次のように述べます。「携帯電話の契約と同じような、個人契約型の都市モビリティが進化するでしょう。都市部では10年以上前から若者の自動車免許取得年齢が上がっていて、一部の都市では車の所有率が低下しています。ミレニアル世代はもはや、自分の車を持つのが夢だとは思っていません。彼らはMaaSの体験を求めていますが、今のところその望みはまったく満たされていません」
一方、イングランドの都市州の1つであるウェスト・ミッドランズでは、データ共有を活用して人々と主な行き先(職場、家、教育機関など)を結びつける、レスポンスが早くて便利な交通網というビジョンが浮上しています。
同州の交通サービスの調整を担う公共機関、トランスポート・フォー・ウェスト・ミッドランズ(TfWM)でマネージングディレクターを務めるLaura Shoaf氏は、「車両間のデータ共有は、交通の混乱や需要の変化に交通網が素早く対応することに役立つ可能性があります。今後は交通網の中で車両がデータを共有しあってルートを最適化できるようになる見通しで、コネクテッドな自動運転車などのテクノロジーは、この可能性を踏まえて開発されています」
最終的にはMaaSによって、都市で移動する人々に、複数の交通手段を結びつけてドア・ツー・ドアで目的地までたどり着けるシームレスな体験を提供することが期待されています。駐車場を探したり、列に並んだり、ターミナルまで、あるいはターミナルから移動したりする煩わしさから解放されるのです。実際、MaaSは月額約616ユーロ(689米ドル)で移動の機会を広げます。LeasePlanが毎年報告する自動車コスト指数の2018年版によると、この金額は欧州における1カ月当たりの平均自動車所有コストと同じです。米国自動車協会の2017年のデータによると、米国の1カ月当たりの平均自動車所有コストは706米ドル(628ユーロ)で、こちらもほぼ同水準です。
MaaS GlobalのHietanen氏は「平均的な自動車所有コストと同じ金額で、鉄道、バス、路面電車、タクシー、シェアバイクによる無限のモビリティと、必要に応じて自動車に乗る選択肢を提供することが、国内だけでなく世界中の都市で可能になるかもしれません」と述べます。
人々の自主性を尊重する
とはいえ、都市モビリティ改善のための重点領域は公共交通だけではありません。市街地で運転するのは好きでなくても、自動車を愛する人はたくさんいます。コンサルティング会社McKinsey & Companyは2019年の記事「Mobility’s second great inflection point(モビリティが迎える2度目の大きな転機)」の中で、ハイテクな自動運転の時代には、複数のテクノロジーが統合されることにより、自動車が「生産的なデータセンター、最終的には、より大きなモビリティネットワークの構成要素」に変貌すると予測しています。
電気自動車の登場は、自動化と併せて大きなイネーブラーとなっています。
人工知能を使った自動運転車用の仮想テスト環境を提供するイスラエル企業Cognataで、製品&マーケティング担当バイスプレジデントを務めるHeikki Laine氏は、次のように話します。「電気自動車の可用性は、自動運転車やインテリジェントな道路網の開発と時を同じくして発展してきました。その大きな原動力となっているのが大手ハイテク企業です。これらの企業は同分野に進出し、スタートアップ企業や自動車メーカーと協力して、商品やサービスを人々に届ける方法を変革しています」
自動運転車(AV)を市街地で普通に目にするようになるのはまだ先の話かもしれませんが、進歩は続いています。
Laine氏は「米国のいくつかの州でAVの試験が行われています。そして中国は自動運転のイノベーションを強力に推進しています。重要なことに、規制当局の動きも加速しています。例えばシンガポールでは、AV利用に関する規則が制定されています」と述べます。
すでにスマートな都市や高速道路、コネクテッドな車両はコンセプトとして確立していますが、Laine氏によると、パズルの最後のピース――ヒトの要素――も、うまくはまろうとしています。「ただモノにセンサーを取り付けて接続すれば良いという話ではありません。それらを現実的かつ測定可能な形で、都市の人々の体験の改善につなげていくことが重要です」と同氏は述べます。
安全性、クリーンさ、信頼性
都市における交通体験は、徒歩、二輪車、自動車を問わず、移動するすべての人々にとって、より安全でクリーンで信頼できるものになる必要があります。
Laine氏は「私は車を所有して運転することが好きですが、自動化によって自分の生活がもっと安全で便利になり、効率化を通して自分が世界に与えるフットプリントが減るという考え方には心を奪われます。こうした点は、私が生きている間に大幅に進歩するでしょう。それを考えると心が躍ります」
DesignNews.comの2019年1月の記事「5 Predictions of Tech Disruptions in the Next Decade(今後10年でテクノロジーがもたらす破壊的混乱に関する5つの予測)」によると、コネクテッドな自動車は実質的に交通量を増やすかもしれませんが、自動車をより速く、間隔を詰めて走らせることを可能にするため、既存の交通インフラをフル活用することに役立ちます。
同記事は「つまり幹線道路の拡幅を繰り返さなくても、道路の有効キャパシティが2倍にも3倍にもなる。すべての車両が連携して走るようになれば、車線幅、交通信号、長い合流路、その他もろもろの機能で使用している空間を、走行用に使えるようになるだろう」と指摘します。
気候変動レポートに関する欧州委員会の研究によると、欧州では交通による温室効果ガスの排出量が全体の4分の1近くを占め、都市の大気汚染の主な原因になっているため、環境にインパクトを与える余地は大いにあります。
Laine氏は次のように述べます。「モビリティの自動化では効率と(自動車の動力源としての)電力が密接に関連しているため、炭素排出量に現実的で測定可能なインパクトを与えることができます。例えばすでに欧州の都市は、自動車の交通量、特にクリーンエネルギーを使わない車両の交通量を制限しています。エンドポイントでの炭素排出を回避できる電気化は、都市レベルで炭素排出量を抑制します。マクロレベルで見ても、エネルギー効率と、再生可能エネルギーを用いたクリーンなエネルギー生産を組み合わせることで生まれるインパクトは、都市の枠を超えて、より広範な環境へと広がります」
サステナブルなモビリティ
移動する人々が持つ携帯電話や、公私に使われる車両に搭載されたテクノロジーによって、都市モビリティの課題の包括的なマネジメントが可能になると、シームレスなマルチモーダルの交通を妨げる障害が次々に解消されます。しかし、まだ足りない部分があります。
Hietanen氏は次のように述べます。「サステナブルな都市モビリティのモデルを作るためには、大量のAVが道路を走るようになる前にMaaSを実現する必要があります。一人ひとりが満足できるような、個別の選択肢を与えるモデルを見つけなければなりません。このことは都市の最大の課題の1つになるでしょう。都市に求められるのは、複数の交通手段をシームレスに利用でき、それに付随するイノベーションをすべて実現できるような方向で、今すぐに計画策定に取りかかることです」
また、Laine氏によると都市部のAVの受け入れはゆっくりと進む見込みですが、その基礎はすでに整っています。
Laine氏は次のように述べます。「AV導入の一番手は、やはり圧倒的に速くインフラを構築できる大学や企業のキャンパスです。そこで確認されている変化――例えばロボタクシーが走行しやすい立体交差や、乗車と降車の場所の指定――は、ゆくゆくは都市全体で見られるようになるであろう変化のミニチュア版と言えます。より大規模な試みとして、ロサンゼルスでは自動運転トラックで港湾と鉄道車両基地を結ぶ方法が検討されています。例えば、AV専用の車線を作る必要があるでしょうか。それともAVは一般の車両に混ざって走行できるでしょうか」
フランスでは、リール大学で電気自動運転シャトルサービスが始まりました。そして米国では、不動産運用管理会社のBrookfield Propertiesが、バージニア州レストンのオフィスパーク開発プロジェクトであるHalley Riseで、入居者がオフィスビルと駐車場の間を移動するための自動運転車を提供しています。
モデルが成功を収めるためには、移動する人々の利益と、交通手段のプロバイダーなど、競争力を損なうとして連携に反対してきた関係者の利益との間で、微妙なバランスを取ることが求められるでしょう。Hietanen氏は次のように述べます。「モビリティ・アズ・ア・サービスというコンセプトの実現を願う人はたくさんいますが、その実現方法を支配して、エンドユーザーとの関係の主導権を握りたいと考える人もまた多いのです。しかしエンドユーザーが望むのは、すべてのサービスが一元化されて、そこに自分の好きな方法でアクセスできることです。どの企業にも独力でこれを実現できるほどの規模はありません。調整された協調的な取り組みが大いに求められます。エコシステムが必要なのです」
TfWMのShoaf氏は、そのようなエコシステムが開発されれば、都市で移動する人々と交通手段のプロバイダーの両方に恩恵があると言います。同氏は次のように述べます。「コネクテッドな自動運転車は、混雑や汚染に関するデータを送受信するようになるでしょう。こうしたデータを車両の所有者、メーカー、公共機関が共有することにより、ルートを最適化して、大気環境の改善や移動時間の短縮を図れる可能性があります。それだけでなく、エンドユーザーに重点的にフォーカスを当てて、移動の需要や使用状況に関するデータを適切に共有すれば、公共機関や輸送手段のプロバイダーが新たな構想を的確に計画しやすくなるため、交通システムへの投資がユーザーのニーズを満たすサービスに行き届くようになるでしょう。
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