Cxoの登場

消費者エクスペリエンスを管理する 新たな業務執行役員

Lisa Rivard
25 April 2015

より多くの企業がエクスペリエンス エコノミー(経験経済)を受け入れ るにしたがって消費者により良い経 験を提供する為、最高エクスペリエ ンス担当者(CXO: Chief eXperience Officer)を任命してます。最新の技 術革新を様々な機能に合わせて管 理するのは困難を極めますが、彼ら CXOは生き残るため必要であると語 ります。

企業各社が競合他社との差別化に向 けて努力する中、新たな種類の重 役が生まれつつあります。それは、 最高エクスペリエンス担当者(CXO)です。CXOは変革のリーダーとして、エクスペリ エンスの専門家であるジョー・パイン氏と ジム・ギルモア氏が提唱する「エクスペリエ ンス・エコノミー(経験経済)」に自社を参 入させるという課題に取り組んでいます。

この傾向は、エクスペリエンス・エコノ ミー時代に設立されたWebベースの若い 企業の間で特に顕著です。とはいえ、伝統 的なビジネスに携わる企業の間でも、記憶 に残る体験を顧客に提供することを目指し てCXOを任命するケースは増えています。

「CXOを任命していないのは、たとえば ディズニー社やユニバーサル・スタジオ 社のような、自分たちがエクスペリエン ス・ビジネスを手がけていることを常に 自覚してきた企業です」と述べるのは、ギ ルモア氏と共同で『経験経済』(ダイヤモ ンド社刊)と“Infinite Possibility: Creating Customer Value on the Digital Frontier”( 未 邦訳書)を執筆したパイン氏です。「こうし た企業では、ビジネス全体にエクスペリエ ンスが浸透しています。『CXO』という肩書 きを持った人物を必ずしも必要とはしてい ませんし、たとえCXOを任命したとしても、 企業のありかたに影響はないでしょう」

CXOの誕生

CXOはおそらく、求人サイトのMonster. comに広告が載るようなポジションでは ありません。また、意外かもしれませんが、 30代の人物が務める役職でもありません。 CXOの大半は、自社にCXOの役割を設ける べきだと主張し、地道な昇進を重ねた末に その任務を引き受けた人物です。

例えば、Steelcase社のCXOを務めるMark Greiner氏は同社に40年以上勤務し、28種類 の職務を経てCXOに就任しました。Sharp Healthcare社のCXOであるLynn Skoczelas 氏は15年以上をかけて6種類の部門と一 つのサービス・ラインの管理を手がけた末 に、現在の役割を担っています。Adventist Health社でCXO兼Patient Experience(患者 エクスペリエンス)担当ディレクターを務 めるKC Fowler氏は、約35年前に救急治療 室の事務員としてキャリアをスタートさ せました。Life Celebration社のCXOである Jim Cummings氏は、葬祭業界で25年以上 にわたりマネージャー兼葬祭ディレクター を務めたのち、同社のエクスペリエンスに 基づく葬祭プランニング手法を、ビジネ ス・パートナーのGerry Givnish氏とともに 開拓しています。

こうした変革のリーダーたちはみな、自社 のビジネスモデルをより持続可能なエクス ペリエンスに基づくものに変える必要があ ることを認識していました。そして、変革 を支持しただけでなく、変革のリーダーと しての役割を進んで引き受けたのです。

「それまで18年以上にわたり経営陣の一人 として働いていましたが、会社がCXOの必 要性を認識していたというよりも、私自身 が次はCXOの役割を担いたいと主張した のです」と、Steelcase社のMark Greiner氏 は言います。「CEOに手紙を送り、自分の希 望を伝えました。ビジネスにどのような影 響が及ぶのかを、彼が当時はっきりと予測 していたかどうかは分かりません。いずれ にしても彼は私をパートナーとして信頼 し、ゴーサインを出してくれました」

Steelcase社は当時、創業100年目の一流オ フィス家具メーカーでした。しかし、企業が 在宅勤務を採用してオフィス・スペースを 縮小するようになり、「Steelcase社にとって は、競合他社と明確な一線を画すことがど んどん難しくなっていたのです」と、Greiner 氏。「単純にサービスへ移行するわけにはい きませんでした。弊社の取扱店ネットワー クが各地のプロバイダーとしてすでに地位 を確立していたからです。直接、エクスペリ エンスへと飛躍する必要がありました」

Greiner氏はCXOとして初めて手がけた プロジェクトで、「ワーク・エクスペリエ ンス(仕事体験)」をコンセプトにした Workspringというブランドを立ち上げまし た。これは、Steelcase社の家具を目玉にし たターンキー方式のオフィス・スタジオを 提供するブランドです。ただし、このベン チャー事業の目的は、オフィス家具の売り 上げを増やすことではありません。Greiner 氏によれば、まったく新しい収益源を生み 出すことが、この新たなサービスの意図で あるといいます。

「意図したエクスペリエンスを 生み出すことに 集中しなければ、 意図しないエクスペリエンスを 生み出すことになります」

KC Fowler氏
(Adventist Health社CXO兼 Patient Experienceペイシェント・エクスペリエンス] 担当ディレクター)

「オフサイト・ミーティングの新境地を開く シカゴの第1号店に対して、お客様からは大 きな反響をいただいています」と、Greiner 氏。「既存のビジネスモデルを超える代替案 を検討しなければなりません。さもなけれ ば他社――場合によっては他業種の企業― ―によって、自社の既存の事業が隅に追い やられてしまう恐れがあるからです」

最前線からのアドバイス

CXOに就任した人々は、当然と言えば当然 ですが、既成概念にとらわれない考え方の 持ち主です。Adventist Health社のFowler氏 は、患者・医師・職員の信頼に基づく非営利 のネットワークのために、どうすればより 優れたエクスペリエンスを生み出すことが できるのかを日々考えているといいます。

The Workspring "work experience" concept from Steelcase offers turnkey office studios for rent. (Image © Steelcase)

「意図しているか否かにかかわらず、企業は エクスペリエンスを生み出しているのです。 その中には優れたものもあれば、それほど ではないものもあります」と、Fowler氏。「意 図したエクスペリエンスを生み出すことに 集中しなければ、意図しないエクスペリエ ンスを生み出しかねません。自分がどこへ 行こうとしているのか意識しなければ、ど こへ行き着いたとしても自業自得です」

 他方、Sharp Healthcare社のCXOであるLynn Skoczelas氏は、高いビジョンを掲げていま す。それは、宇宙一優れたヘルスケア・シス テムを実現するという、Sharp社が掲げる ゴールです。Sharp社は常に目標を失うこと のないようにと、このゴールを選びました。 「終わりのない仕事です」と、Skoczelas氏。

「患者さんと従業員の満足度も大幅に向上 しましたが、また過去14年で市場も年々拡 大してきました。収益は上がり、慈善活動 などの支援は増加し、職員の離職率は低下 しました」

ボトムアップの変革

DARE2社の創設者でありCXOを務めるLaila Pawlak氏によれば、CXOは重役の一人とし て、変革を上からただ押し付けるだけにな らないように注意する必要があるといいま す。DARE2社はデンマークに本社を置くコ ンサルティング会社で、企業がエクスペリ エンス・エコノミーを受け入れてそれに対応 するための支援を行っています。「CXOは変 革を支持しなければなりませんが、社内の 賛同を得て、エクスペリエンスの転換に関 与するだけでなく、エクスペリエンスを生 み出すための支援をすることも必要です」

Life Celebration社のCXOであるJim Cummings氏は、ビデオ・フォト・ギャラリーやオーダーメイドの棺など、家族が故人の生涯を称えるためのさま ざまな方法を生み出しています。(Image: Life Celebration社)

例えば、Sharp Healthcare社は従業員に対 し、パフォーマンス改善プロセスを設計 するよう求めました。現場の職員からマ ネージャーやディレクターまでの従業員約 1,000人が100のチームに分かれ、それぞれ のチームが、同社の企業文化を優れたヘル スケア・エクスペリエンスの演出に焦点を 絞ったものへと会社へと移行させる権限を トップ・マネジメントから与えられたので す。「プロセスの主導権を従業員に与えま しょう」と、Skoczelas氏はアドバイスしま す。「従業員を当事者にすれば、プロセスは 成功します。たとえ一歩ずつであっても、 小さな変化にも喜びましょう。そうした変 化が、従業員の力になります」

情熱を持って進め

CXOに、典型的な一日の様子を尋ねたとした ら、だれもがそのようなものは存在しないと いうことを丁寧に説明してくれるはずです。

彼らは非典型的なものごとへの取り組みに 情熱を燃やすいっぽうで、そのあらゆる行動 は科学と方法論に裏付けられています。

「Life Celebration社のプログラムはそっく りそのまま、どんなビジネスにも応用でき るでしょう」と、葬祭プランニング・サービ スを手がける同社のCummings氏は言いま す。「ほぼあらゆるビジネスにおいて、顧客 との最初の接点は十中八九、電話です。エ クスペリエンスはそこからスタートしま す。営業電話をかける際、自分の言いたい ことだけをまくし立てるのではなく、お客 様の話をしっかりと聞く時間も取ります か。それとも、ゴールまで突っ走って、次の 電話に移りますか」 最大の教訓は、最高のエクスペリエンスの 生み出し方はあらゆる業界に当てはまる ということである、とCummings氏は述べ ています。「製品を供給すること、サービ スを提供すること、あるいは、製品とサー ビスをセットにすることもできます。しか し、次のレベルへの壁を打ち破るためには、 人々に変化をもたらすエクスペリエンスを まとめあげなくてはなりません。エクスペ リエンス・エコノミーの一部ではないビジ ネスなど、この世には存在しません。また、 そうであるべきです」

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