フランス北西部の海岸沿いにある港湾都市ブレストでは、水流内を「泳ぐ」ことのできる波動膜を利用した潮力発電用タービンの初の海上試験が、研究者によって最近実施されました。潮汐水が波動膜を動かすと、特殊な電子機器がその動きを有効なエネルギーに変える仕組みです。
この再生可能エネルギー技術を開発しているフランス企業のEEL Energy社によると、潮汐流が持つ運動エネルギーは、太陽光や風力が持つエネルギーよりも効率的で、公害や廃棄物を生み出さず、景観に与える視覚的影響や騒音、野生生物に対する危険もなければ、船舶交通のじゃまにもなりません。コンピュータ・シミュレーションにより、エンジニアはこの複雑な構造物の全体像を把握できるようになります。
EEL Energy社の科学者であるAstrid Deporte氏は、次のように述べています。「デジタル・シミュレーションのおかげで、誤りを防いで、テストにかかるコストを制限し、最適化を実行することが可能です。設計とシミュレーション間のすべてが相互依存の関係にあるため、部品単位の最適化だけではなく、設計全体の最適化もすばやく行えます」
EEL Energy社の研究者は、シミュレーションを利用して遊泳膜をバーチャル環境でテストすることによって、その性能と実用性、費用対効果を、実際の製造前に確認しておくことができます。これによりEEL Energy社は、複数の持続可能性目標を達成するために物理的なプロトタイプを一つ作ってテストするのにかかるのと同じ時間で、数千種類のバーチャル・プロトタイプをコンピュータ上でテストすることが可能になります。
「デジタル・シミュレーションのおかげで、誤りを防いで、テストにかかるコストを制限し、最適化を実行することが可能です」
ASTRID DEPORTE氏
EEL Energy 科学者
Deporte氏は次のように述べています。「シミュレーションを行うと、コストと時間を節減しながら多数の『バーチャル』テストを実施できます。潮力発電用タービンの信頼性を向上させるとともに、特にテストに関連したコストを最小限に抑制しながらリスクを分析できます」
シミュレーションは、計画を迅速化してコストを削減し、高精度の情報で意思決定を支援します。研究者は、設計をテストおよび検証し、すばやく最適化することによって、製造適応性を高めて材料を減らし、製造時の安全性を高めて作業員を保護するとともに、長期保守性を高めて製品の耐用年数を延ばすことができます。また、環境への影響を配慮して、材料の合計消費量を最小化したり、有害物質に代わる材料を見つけたり、リサイクルを容易化する設計を考案したりすることも可能になります。
「厄介」な課題
国連の環境と開発に関する世界委員会の説明によれば、持続可能性とは将来のニーズを妥協することなく今日のニーズを満たすこととあり、一見したところ簡単に見えます。ところが、持続可能性を実現することは少しも簡単ではありません。実際、持続可能性の複雑性のことを、ピッツバーグ大学で経営戦略論を教えているJohn C. Camillus教授は「厄介」な課題と表現しています。これは、絶えず変化が起こり、先例のない課題が生じて、解決策を見つける作業がまったく進まない状態を指します。
それにもかかわらず、持続可能性は、あらゆる規模の組織が唱える共通のスローガンになっています。なぜならば、このコンセプトが健全な統治、収益性、生産性と同じ意味を持つようになっているからです。ところが、企業と政府は、持続可能性を正しく実現するため、時間とともに変化する動的プロセスや様々な変動要因を評価、管理、予測するのに手こずっています。
さらに、持続可能性を実践すると、考慮しなければならない要因の数が増えるため、その分複雑性が増すという一面もあります。
バルセロナに拠点を置く、システム理論と複雑性理論を専門とするeラーニングWebサイトのComplexity Labsは、自社Webサイトで次のように説明しています。「以前は、経済的測定基準などの一つの要因に従ってシステムが管理および設計されていました。ところが今は、より複雑で非直線的な測定基準として、社会、経済、環境のいわゆるトリプル・ボトムラインが企業によって採用されるようになっており、製品およびサービスの開発者はこれらの要因の間でバランスをとることができなければなりません」
エンジニアは、コンピュータを使用してシステムの動作を再現することで、数理モデルに基づいて結果をシミュレーションし、製品設計を最適化できます。
コンピュータ・シミュレーションは、コンピュータ支援エンジニアリング(CAE)とも呼ばれ、1950年代にフライト・シミュレータで使われて以来存在しています。
134億5,000万米ドル
マーケッツ&マーケッツ社では、シミュレーション・ソフトウェアのグローバル市場がわずか5年で2倍以上に成長し、取引総額が2017年の62億6,000万米ドルから2022年までに134億5,000万米ドルに増加すると予測しています。
当時と異なるのは、データ量が膨大になり、シミュレーションが著しく高度化していることです。このことを踏まえると、インドに拠点を置くB2B市場調査・分析のグローバル企業、マーケッツ&マーケッツ社が、シミュレーション・ソフトウェアのグローバル市場がわずか5年で2倍以上に成長し、取引総額が2017年の62億6,000万米ドル(55億ユーロ)から2022年までに134億5,000万米ドル(118億ユーロ)に増加すると予測している理由がわかります。
シミュレーションは極めて高い生産性をもたらします。適切なソフトウェアを使えば、コンピュータが作動している世界中のどこででも、シミュレーションを24時間365日実行できます。従来の設計手法はこれよりも時間がかかり、また、入手するのが困難で複雑、かつ高額のテスト機器が必要となることも少なくありません。
シミュレーション・ソリューション
シンシナティ大学(UC)で航空宇宙工学および機械工学を教えるShaaban Abdallah教授は、次のように述べています。「今日、設計にシミュレーションを使用しない人はいません」Abdallah教授は、ロサンゼルスとサンフランシスコを結ぶ全長1,448km(900マイル)のチューブ・システム「ハイパーループ」を設計するための、スペースX社のコンテストに参加しているUC学生チームの教員顧問を務めています。乗客と車両カプセルはいつの日か、最大時速1,127km(700マイル)で高速走行する可能性を秘めています。「まさに別次元の複雑さです」
ハイパーループは、通常であれば車輪の使用の弊害となる摩擦力を除去するために、磁気誘導型加速器と圧縮空気軸受を取り入れています。これらの方式は回転運動を伴わないため、問題のダイナミクスが変わりますが、問題解決にはシミュレーションを役立てることができます。
この設計では、維持管理の側面に加え、地震、停電、乗客数の変動といった測定の困難な変動要因も予想されます。設計は安全で信頼性に優れ、コストを抑え、自己駆動式でなければならず、要するに複雑です。
ハイパーループUCチームは、複雑性が実際にはシミュレーションを向上させるという意外な事実に気づきました。ハイパーループはオープンソース設計プロジェクトであるため、あらゆる場所のエンジニアとデータ・アナリストが設計に貢献できます。チームは、以前の複雑なシミュレーションや問題、設計から学ぶことで、将来のシミュレーションを改善させ、さらに困難な問題に取り組めるようになります。これによって、ハイパーループとは無関係のことが多い斬新なアイデアも生まれます。
ハイパーループUCチームで構造解析シミュレーションを指揮するJorge Betancourt氏は、次のように述べています。「シミュレーションを行うことで、さらに多くの反復的設計変更を実行し、結果を示すことが可能になりました。これにより、広範なリソースを持ち合わせていない、より多くの人たちが複雑な設計を利用できるようになります。シミュレーションによって、様々なグループが各自のアイデアが優れていることを実証できるようになります」
2018年、ダッソー・システムズは、コーポレートナイツ社が選ぶ「世界で最も持続可能性の高い100社」の首位にランクインしました。このリストへのダッソー・システムズの選出は7年連続となりますが、今回トップに躍進した背景には、製品の持続可能性という、新しい評価基準が追加されたことがあります。バーチャル世界は持続可能なイノベーションの要です。ダッソー・システムズが首位に選出されたのは、製品、自然環境、人々の生活の調和を保つことによって私たちを取り巻く世界をより良いものにする、3DEXPERIENCEプラットフォームの機能が高く評価されたことの表れであり、シミュレーションはその一つです。世界で最も持続可能性の高い企業
For more information on sustainability solutions, please visit: go.3ds.com/0Ne