空港は長い間、航空、テクノロジー、都市開発が相互に作用する旅客イノベーションの試験場の役割を果たしてきました。今や空港は大胆な新時代の幕開けを迎え、乗客に最適なエクスペリエンスを提供する、最適化された交通とインフラを結ぶシステムとしての役割を求められています。
スマート空港と呼ばれるこの施設は、まだ例外的な存在ではあるものの、その数を増やしてきています。国際航空運送協会の推測では、全世界に25余りの施設が存在すると見ています。空港管理会社が世界的な航空交通需要の大幅な増加に備える中、同協会ではこうした施設の数が今後の20年間で2倍に増加すると予測しています。
1960年代にジェット機時代が始まって以来、空港管理会社は安全と定刻どおりの運行を最大の課題として取り組んできました。しかし、今日の「アジャイル・エアポート」では、デジタル時代のテクノロジーを乗客のエクスペリエンスを向上させるために利用しています。
アジャイル・エアポートの例としては、ラスベガス・マッカラン国際空港、ロンドン・ヒースロー空港、香港国際空港などが挙げられます。すべてに共通する特徴は、航空会社、小売店、輸送業者などを含む空港エコシステム内の協力関係を利用することに重点を置き、広範なプロセスを統合して、乗客や運行に関するデータをシームレスにやり取りすることで個別化サービスを提供していることです。こうしたスマート空港の動きは、人々が効率的に空港内を移動できるように考えられたウェイ・ファインディングなど、インテリジェンスや位置情報を活用したサービスの開発に向かっています。それにより、遅延を最小限にとどめてレストランや店舗での消費を最大限に高め、旅行に関する確かなアドバイスや乗客区分に基づいた優遇サービスを提供できます。
スマート空港に向けた取り組みを促す要因の1つには、リアルタイム情報や個別化サービスに無制限にアクセスしたいという乗客の欲求を刺激する消費者向けテクノロジーが次々と生み出されていることが挙げられます。もう1つの要因は、各航空会社が10年前には想像すらできなかった利益を計上しており、航空業界の関係者がその業績を維持しようとしていることです。
スマート空港は、この2つの重要な要件を満たすために無くてはならない役割を果たします。
2000年以降世界で最も旅客数が多いハーツフィールド・ジャクソン・アトランタ国際空港で、イノベーションとパフォーマンスの責任者を務めるDawn Gregory氏は、次のように述べています。「ハーツフィールド・ジャクソン・アトランタ国際空港のような施設では、最高のものをさらに改善して、乗客エクスペリエンスを未知の高みに引き上げるチャンスを常に探していくことになるでしょう」
乗客の関心を引き付ける
世界中に広がるデジタル網を通じて航空旅客とつながり、空港はいつでもどこでも連続したリアルタイム通信を行うことができます。これを利用することで、空港や提携企業は乗客に関連する魅力的な情報やオファーを提供して関心を引き付けることができます。こうしたつながりによって、スマート空港が破壊的革新をもたらす新規参入者にも素早く対応できるようになると、Gregory氏は言います。
ライドシェア・サービスという現象は、最近に起こった破壊的革新の一つです。
「それはすべての空港に関わることです」と、同氏は続けます。「こうしたサービスのいくつかは、まだ存在すらしていませんが、我々は既にビジネスモデルに及ぶ影響について調査し、それに対してどのように準備を進めるべきか検討しています。それには、エアー・タクシーの登場により、ハーツフィールド・ジャクソン・アトランタ国際空港を利用する人々の期待がどのように変化するかも含まれます」
テクノロジーは、ビジネスを高みに引き上げる手段となります
DAWN GREGORY氏
ハーツフィールド・ジャクソン・アトランタ国際空港 イノベーション&パフォーマンス責任者
スマート空港が発展するにつれて、物理的な境界線をはるかに越えて、乗客エクスペリエンスを強化することができます。たとえば、ハーツフィールド・ジャクソン・アトランタ国際空港は、空港やターミナルとのつながりがさらに強化されることを見越して、アトランタ市のアーバンランド・インスティテュートと協力し、空港周辺に設置する自動運転車用通路の可能性を検討しています。
いくつかの先進的な空港では、施設をリビングラボ化して、イノベーションを生み出すインキュベ―ション施設を作り、試験的なホスト空港という新しいコンセプトでスタートアップ・ビジネスを成長させています。ミュンヘン空港と、パリ近郊のオレリー空港やロワシー・シャルルドゴール空港を含む Aeroport de Paris Group に加えて、シンガポールのチャンギ国際空港も同様にインキュベーション施設を運営しています。後者は、シンガポール経済開発庁とパートナーシップを結び、「リビングラボ・プログラム」に5000万ドル(4450万ユーロ)を出資しました。目標は、自動化、データアナリティクス、モノのインターネット、非侵入型セキュリティ、スマート・インフラなどを活用したテクノロジー・ソリューションの開発と実装です。
「イノベーターには、ぜひとも我々が知らないことを見せて欲しいですし、今後具体的に重視すべき分野についても可能性を示して欲しいと思っています」と、カリフォルニア州のサンディエゴ国際空港のイノベーション&スモール・ビジネス・デベロップメントのディレクター、Rick Belliotti氏は語ります。この施設のエアポート・イノベーション・ラボでは、最近、2回目のアクセレレーター・プログラムに応募したイノベーターたちを受け入れました。彼らは16週間のプログラムを受けることになります。
最初の起業家クラスでは、駐車スペースと乗客による乗り継ぎエクスペリエンスの包括的な向上について取り上げました。2回目のクラスでは運営費用の削減について取り上げます。
水準の引き上げ
アクセラレーター・プログラムはまだ始まったばかりですが、サンディエゴ空港のラボからは、いくつかの成功例が挙がっています。たとえば、旅行者が空港内の店舗やレストランからモバイル端末を使用してオンライン購入した食べものや品物を出発ゲートまで配達してもらうことができる AtYourGateアプリがあります。
サンディエゴのインキュベーション施設で開発されたイノベーションが成功すれば、サンディエゴだけでなく、他の空港やショッピングモール、コンベンションセンター、その他の輸送拠点といったアナログなビジネスへの展開が考えられる、と Belliotti 氏は言います。AtYourGateアプリがサンディエコ国際空港内で成功裏に展開された後、ニュージャージー州のニューアーク・リバティー国際空港内にも展開されたことが良い例です。
「我々は顧客満足度の水準を高める方法を絶えず探しています。その一つの方法として、新しいテクノロジーを積極的に取り入れています」とBelliotti 氏は語ります。「AtYourGateのやり方で、乗客が今までとは異なる空の旅を体験できる質の高いサービスを届けられることが実証されました。それがイノベーション・ラボの礎になっています」
それに負けじとばかりにハーツフィールド・ジャクソン・アトランタ国際空港でも、人工知能と拡張現実を使用して視覚障害のある旅行者の支援を行っています。そのサービスでは、利用者がアシストする係員とつながり、192ゲートが無秩序に広がる空港内を目的地までナビゲートしてもらえます。
状況に変化をもたらす
こうしたテクノロジーを最大限に活用して、乗客エクスペリエンスの向上、コスト削減、運用効率の改善などの効果を引き出すには、各空港が利用可能なリソースを最適化できるプロセスを導入する必要があると、ワシントンDCを本拠地とする国際空港協議会(ACI)のエアーポリシー・マネージング・ディレクターAneil Patel氏は言います。
ソフトウェア・ベースの計画策定システムは、プロセスと利用可能なリソースをKPIに連動させて、目標に対する進捗状況の測定を行っている空港に大きな成果をもたらします。空港のKPIには、セキュリティでの待ち時間、航空会社のターンアラウンドタイム、手荷物が旅客機の貨物室から回転式コンベヤーに乗せられるまでにかかる時間などが含まれることもあります。需要ベースのソフトウェア製品を少なくとも1つ使用することで、空港は提携会社と連携して、チェックインする乗客数を予測し、いくつのチェックイン・デスクとセキュリティ・ラインを、何時にどれくらいの時間オープンさせるかを事前に決めておくことができます。
しかしPatel 氏は、運営の変革に意欲的な空港に対し、違いを区別するよう注意を促します。
「スマート空港になるには、テクノロジーを導入すれば良いというわけではありません」と同氏は述べます。「スマート空港のインフラ・センサーから生成されるデータをどう活用するかなのです」
ハーツフィールド・ジャクソン空港のDawn Gregory氏は、次のように締めくくります。「テクノロジーは、ビジネスを高みに引き上げる手段となります。最も重要なことは、単なる目的達成の手段にすぎないテクノロジーをどう実装するかなのです」
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