変化が早く、加速を続けるビジネスサイクルの課題に、夜も眠らずに取り組んでいるCEOたちにとって、クラウド・コンピューティングは、価値ある優位性をもたらします。学習、適応、さらには損失にもすぐに対応できる柔軟性があり、損失を最小限に抑え、次の機会を模索できます。
米国コロラド州ボールダーのクラウド・サービス企業、Enterprise Management Associates(EMA)でリサーチ、ビジネス・インテリジェンス、およびデータ・ウェアハウス担当バイスプレジデントを務めるShawn Rogersは次のように述べています。「失敗しても、そこから学び、前に進むことができれば、問題ありません。しかし2年かけて失敗というのは許されません。怖いのは失敗ではなく、緩慢な失敗なのです」
クラウド・コンピューティングで企業はこれまでのコンピューティング・モデルと比べ、新しい戦略をより速く展開できるようになり、スピードの速いデジタル化された情報中心の世界で競争を優位にすすめることができるとRogers氏は言います。一夜にしてライバル企業が台頭するような、市場ニーズの変化が激しい環境ではスピードが非常に重要です。
柔軟なITインフラ、データやアプリケーションの素早い展開、生産性の向上、コスト管理の改善、モビリティの支援など、クラウド・コンピューティングには様々な利点がありますが、そうした中で新しい戦略を迅速に実行し、成功に導くという利点は決して小さなものではありません。
品質、スピード、堅牢性の追及
化粧品メーカーのRevlonで、オペレーショングローバル化プロジェクトを立ち上げた際、シニアバイスプレジデント兼チーフ・インフォメーション・オフィサー(CIO)であるDavid Giambruno氏が取り組んだのは、外部のクラウド・ベンダーによるすべてのIT業務の仮想化でした。「これは高すぎるIT予算(収入14億米ドルの2%)に対する懸念からではなく単純にRevlonのオペレーションをよりよく、シンプルにしたかった」Giambruno氏はその動機について語っています。
「現在、多くの企業は クラウドがITに革命を もたらしたことを 理解しています」
Stephane Maarek氏
Outscale社
Revlonは2011年、全業務の98%にあたる、500以上のITアプリケーションをプライベート・クラウド・サービスに移行しました。この移行によりRevlonは7000万ドルの削減、プロジェクト処理能力の300%向上、ダウンタイム・ゼロ、データセンター工数の70%削減を実現しました。Revlonのクラウドベースのオペレーションが真の俊敏性を発揮したのは、ベネズエラのデータセンターが火事にあった時のことです。そのとき、Revlonはわずか2時間でIT機能をニュージャージーに移行させました。
クラウドは多様で、インストールベースとコスト比較をするのは容易ではありません。例えば、グローバルIT調査会社のGartnerの想定では、ソフトウエア・アプリケーションの年間所有、管理コストは初期購入費の4倍です。しかし、クラウドベースのサービス型ソフトウエア(SaaS)の総所有コスト(TCO)はカスタマイズ費や拡張性、既存アプリケーションとの連携、教育、サポートを入れるとSaaSライセンスの初期投資をはるかに超えるため、単純比較はほぼ不可能だと思われます。
クラウドでのハードウエア・レンタルの方がより直接的な傾向にあります。グローバル・マネージメント・コンサルタント企業であるMcKinsey Global Institute(MGI)によると、社内機器の購入と保守費用を3分の1に抑えられるといいます。クラウドのグローバル・トラフィックが2019年までに6倍になるというCisco Global Cloud Indexの予測もうなずけます。
予測:クラウド・コンピューティング
@CiscoがIntelと2013年合同で実施したグローバル調査「Impact of Cloud on IT Consumption Models(邦題:クラウドがIT消費モデルにもたらす影響)」によると、データ・セキュリティがクラウドの最も大きな懸念事項であると同時に、クラウド採用を促す3大ビジネス促進要因の1つでもあることが確認されています。これは、クラウド・プロバイダーが一企業よりもずっと優れたデータ・セキュリティを提供できると、回答者が慎重ながらも前向に考えていることを示唆しています。18業界、9か国の4,226人のITリーダーを対象にした調査でも、強固なセキュリティとデータ保護機能がクラウド・サービス企業を選ぶうえで最も重要な要素であるという回答が確認されており、クラウド・プロバイダー側でもそうした期待に応えるソリューションを提供しようと躍起になっています。
今日のクラウド・サービス
クラウド・コンピューティングを真のスカイ・コンピューティングとしてとらえている業界ウォッチャーもいます。多くのクラウドがそれぞれ異なるアウトソースITサービス・カテゴリに属し、必要に応じて選択できます。:
6.2兆米ドル
2013年に出版されたMGIレポートでは、2025年までにほとんどのIT、ウェブ・アプリケーションおよびサービスがクラウドで提供されるようになる可能性があり、その経済効果は6.2兆米ドルと予測されています。
◦ NaaS(Network as aService):柔軟かつ拡張可能なバーチャル・プライベート・ネットワーク(VPN)やオンデマンド帯域といった接続サービスへのアクセスを提供。
◦ IaaS(Infrastructure as aService):IaaSではインターネットやVPNと接続した大規模物理データセンターからデータ格納、ソフトウエア、ファイアウォール、IPアドレスといったコンピューター、その他のリソースを提供。
◦ SaaS(Software as aService):アプリケーション・ソフトウエア、データ
ベースへのアクセスを購入できるサービス。通常は登録費と使用量に応じたサービスで提供される。
◦ PaaS(Platform as aService):OS、データベース、ウェブ・サーバーへのアクセスを通じ、コストやハードウエア、ソフトウエアの導入費用、管理する負荷から解放され、業務を進められる。パブリック、コミュニティ、プライベートといった形態を有する。インターネットのようなパブリック・ネットワークからクラウド・サービスにアクセスする場合はパブリック、複数組織に属する1つのグループがクラウド・インフラを共有する場合はコミュニティ、クラウド・アーキテクチャが単一の組織専用に使用される場合はプライベート。ハイブリッドはプライベート、コミュニティ、またはパブリック・クラウドを複数で組み合わせたもの。
OutscaleのMaarek氏は提言します。「10年前、人々はまだクラウドに懐疑的でした。現在、多くの企業はクラウドがITに革命をもたらしたことを理解しています。コスト削減に加え、クラウドで革命的なのは新しいシナリオが可能になるという点です。これまで投資できなかったプロジェクトに投資できるようになります。成功も失敗も加速します。すべてがスピードアップする必要があります。」
「クラウドの素晴らしい点は、 ソフトウエアの カスタマイズができないため、 使用する側が必然的に自分を 律する必要があるところです」
Jeanne Ross氏
マサチューセッツ工科大学スローン経営学大学院
Maarek氏はクラウド・サービスをすすめる最善の方法については未だ慎重な企業が多い中、全体的に採用の方向に向かっているのは間違いないと言います。「いったんサービスの中に入れば、みんなが後に続きます」
クラウド化の波がすすみ、クラウド・サービスを提供する企業が数多く出現する中、経営トップとして何を確認しておくべきか、心構えが必要です。EMAのShawn Rogers氏は、以下を考慮すべき10項目を挙げています: ◦ 価格:総所有コストという観点から、クラウドは内製よりコストが高くなることもあります。試算、比較が必要です。 アーキテクチャ:ニーズの理解。小規模クラウド企業の場合、企業ニーズに合致した機能を提供出来ない場合もあります。サービス管理:サービス契約を注意深く精査してください。 ◦ 透明度: 失敗を躊躇せずに伝えてくれるクラウド企業が好ましいです。クラウド企業に完璧を求めるのは合理的ではありません。 ◦ API : アプリケーション・プログラミング・インターフェースによるアプリケーション間の通信の品質を確保してください。 ◦ セキュリティ : クラウド企業側でも、この課題に取り組み、大きな前進を遂げていますが、採用する企業側でも確認する必要があります。 ◦ 検証:無料のトライアルを要請し、拡張テスト、統合テストも実施してください。 ◦ 教育:セミナー、オンサイト教育、会議といった実施形式も含め、プロバイダー側の教育サポートについて確認してください。ベンダーの体制:プロバイダーの管理体制や組織、企業としての安定性を確認してください。 ◦ 出口戦略: 通常、撤退する時のことは考えないものですが、撤退時に問題が発生することもあります。撤退に際して罰金を科す契約もあります。クラウドで考慮すべきトップ10項目