スマートな働き方

新しいパワフルなツールによって、 テクノロジーが誰でも利用可能に

Dora Laîné著
26 October 2013

ある自動車サプライヤーは、自動車エレクトロニクスの未来像を描くため、世界中の従業員を結ぶソーシャル イノベーション ツールを活用しています。ある鉱山会社では、3Dで未開発の鉱床を「調査」しています。経済開発への融資を行うグローバルな金融機関は、過去のプロジェクトを「掘り起し」、今後のプロジェクトがさらなる成功を収めるための可能性を得るべく、ダイナミックな検索ツールを活用しています。世界各地のイノベーティブな企業は、変化に対するオペレーションの柔軟性を高め、従業員の力を発揮させ、顧客対応を向上するため、直感的に利用できるデジタル ツールの採用を進めています。

ビジネス環境の厳しさが増すなか、多くの業界において、企業は自社の従業員、パートナー、顧客とのつながりを構築し、ロイヤルティをあつめる印象的なエクスペリエンスを創造提供するため、パワフルな新しいテクノロジーを数々を採用しています。ダッシュボードやオンラインコラボレーションなど、様々なデジタルテクノロジーの活用を進めるプロセス産業から鉱業に至る各業界のパイオニアたちは、未加工の情報を、有効に活用できるインテリジェンスへと転換し、競争力を獲得しています。

膨大な情報を分類し、整理するダッシュボード

ビジネスの成功は、顧客が解決を求めている課題を理解することから始まります。そのためには、適切な質問を投げかけ、解決策を得るために膨大な量の情報を分析する必要があります。しかし情報源の拡散が進んだことで、企業はその規模に圧倒されています。そのような状況において、インプットされた情報を整理、分析し、それぞれのユーザーに適した形にカスタマイズするダッシュボードが、企業活動のなかで新たな顧客ニーズやマーケットトレンドを見極めるための効果的な「情報収集拠点」となることが明らかになってきました。

水、廃棄物、エネルギーに関連する環境ビジネスをリードするフランスのグローバルカンパニーのVéolia Water社は、膨大な情報を分類、整理し、ビジネスインテリジェンスとして活かすためにダッシュボードを活用しています。同社で専門知識の管理とモニタリングを行う部門のリーダーを務めるMichèle Champagne氏は次のように述べています。「大量のデータが存在しても、それらが必ずしもより優れた、的確な意思決定を行う上で役に立つとは限りません。すべての情報が重要、あるいは関連するとは限らないからです。そこで我々は、当社の業務に不可欠な専門知識やノウハウだけを特定する管理・モニタリング手法を設計し、導入しました。選別された情報を用い、当社のマーケットトレンドへの対応力を検証したり、競合環境における位置づけを測定したりしています」

「ダッシュボードによって 信頼できる確かなデータを 入手できると同時に、 重要な課題に対する解決策を 見つけるための時間の節約が 可能になるのです」

Michèle Champagne 氏
Véolia Water 社 専門知識管理およびモニタリング部門

2007年以降、Véolia Water 社は他社との差別化を図る目的として、戦略的ナレッジを特定し、管理するためのプログラムを導入しています。本プログラムには、今後の技術的展開や環境トレンドを予測するのに役立つテクノロジー観測や特許サービスも含まれています。Véolia Water社のダッシュボードは特殊なソース(データベース、ウェブサイト、情報機関、競合等)から情報を収集し、分類したうえで、同社の専門家の分析対象となる情報を特定します。モニタリングネットワークは、技術分野ごとに体系化されています。ダッシュボードが最も有力な情報のフィルタリング結果を表示し、その分野の専門家が社内のエンジニアと連携して、情報分析を行います。アクション項目が決定されると、それがエンジニアの業務計画に追加されるのです。

Champagne氏は次のように述べています。「ダッシュボードは250に上る情報源を管理することができ、それらは大切な企業資産となっています。ダッシュボードによって信頼できるデータを選別できると同時に、深刻な課題に対する解決策をいち早く見つけられるため時間の節約が可能となります」

企業ナレッジを見つける ダイナミックサーチ

情報が拡散するにつれて、特定の業務で必要とされる情報を探し出すことはより困難な課題となります。世界中の新興国の開発プロジェクトに対して融資や助言を行う世界銀行では、この課題に対処するため、GoogleやYahoo!、Bingがインターネットの情報を選別するのと同様に、社内情報の分類と優先順位付けを行うための強力な検索エンジンを活用しています。

「世界銀行は様々な役割を担っており、データ検索は常に課題でした」と語るのは、世界銀行のシニアビジネスソリューション
オフィサーであり、検索システムプロジェクトの主任開発リーダーの一人であるRaman Pugalumperumal氏です。銀行データには、信託基金やプロジェクトの管理およびトラッキング、一連の経済データ、実施規制、研究報告、出版物、過去に世界銀行が手掛けた開発プロジェクトの報告書などが含まれます。その他にも世界銀行が主催したシンポジウムの会議記録や、独自の研究活動報告、毎年発表される世界開発指標(WDI)などもありますが、これらは情報源のほんの一部に過ぎません。Pugalumperumal氏は次のように述べています。「検索は、これらの情報すべてを集計するのです」

「財務データや技術データ、プロジェクトデータ、類似する過去のプロジェクトから得た教訓を活かし、誤りの再発を未然に防ぎ、優れたアイデア活用へつなげます。データ集計による検索は、重要なデータサービス機能を果たしてくれます。我々のアプリケーションのインターフェースには一週間に700万件のデータがヒットします」(Pugalumperumal氏)

さらにPugalumperumal氏は、この取り組みの大きな目標は、データに意味をもたせて提供することだと言います。「単純に検索結果を一覧表示するだけでは不十分で、関連性が非常に重要です。つまり、検索を実行すると、検索トピックに関して最も知識の豊富な世界銀行内の専門家の名前を表示するとともに、目的を達成するための役に立つリソースへと導くような情報も表示する、といった具合です」

データ検索は世界銀行の継続的な取り組みであり、今後もそれは変わらないだろう、とPugalumperumal氏は述べています。「世界銀行には膨大な量のデータがあります。データレコードは1,100万件、共有ファイルネットワークには1億のファイルが保管されています。多くのデータを用意すればするほど、多くの人々がそれらを求めます。世界銀行は実に多様な組織であるため、ツールが組織内におけるユーザーの役職を認識し、ニーズに合わせた検索を実現しなければなりません。これらの優れた実例は、我々が大きな前進を遂は段階的実現されるものであり、一気に達成できるわけではありません」

ソーシャルイノベーションが 開拓する従業員のナレッジ

企業のナレッジは、データベース内だけに存在するものではありません。従業員一人一人のナレッジは、さらに豊富に存在します。しかしながら世界各地にチームが分散し、部門同士の業務が分断するにつれ、それらを探索することが一層難しくなっています。Facebook をきっかけとして発展した企業のソーシャル・イノベーションは、その人がもつ固有のナレッジを、場所や所属を問わずに有効活用できるテクノロジーです。自動車部品メーカーのVisteon 社では、新しいコンセプトカーの開発のために部門を横断するグローバルチームを結成し、コラボレーションやアイデアの共有を促し、進捗をトラッキングするためにクラウドベースのソーシャル・イノベーション・アプリケーションを採用しました。アプリケーションには、関連プロジェクトをサポートする数々のサブ・コミュニティを作成する機能も備えられ、地域単位で市場に特化したカスタマイゼーションが可能となりました。

Visteon社のイノベーションおよびデザインのグローバルディレクターを務めるTim Yerdon氏は次のように述べています。「このプロジェクトは、2020年のモビリティにおける真に未来的なエクスペリエンス、というビジョンを目指しています。我々はこのイノベーションを実現するため、世界中のあらゆる部門からメンバーを集結したいと考えました。しかし、全員が同一のIT システムを利用しているというケースは稀です。そこでオンラインのソーシャルイノベーションを活用して、情報を一元化するとともに、すべてのコミュニケーションを見える化し、メンバー全員のインテリジェンスを統合することで、正しい意思決定をスピーディかつ効率的に行えるようにしました」

少人数のグループでスタートしたVisteon 社のソーシャル・イノベーションは、すぐにユーザー数が拡大しました。「上流工程のイノベーション、コンセプトデザイン、実際のデリバリーの間にある境界を取り払うため、研究開発の担当者、設計者、デザイナー、コミュニケーションやマーケティングチームが肩を並べて、積極的にアイデアを出し合い、そこでの発見は、これまで1時間かけて議論していた問題を数分で解決できたことです。全員が同じ環境のなかで交流することによって得られるメリットにとてもワクワクしています。成功するうえで欠かせない企業文化をソーシャルイノベーションで実現することができました」

オンライン・コラボレーションが容易にするチームワーク

日常業務にもコラボレーションは必要です。輸送機械、産業機械、航空宇宙産業のOEM企業向けに油圧部品や電気部品を設計、製造するEaton 社では、オンライン・コラボレーションによって、ヨーロッパ、南北アメリカ、インドの設計者やエンジニアが24時間体制で業務を展開しています。

Eaton 社のインダストリー・セクター、ECOE(エンジニアリング・センター・オブ・エクセレンス)の副社長であるHenri Seynaeve 氏は次のように述べています。「我々のオンライン・コラボレーションには20,000人のユーザーが参加しています。そのうちの4,800人のエンジニアが、24時間体制でグローバルに協働し、ある地域の一日の業務時間が終了すると、その業務を次の地域の担当者に引き継いでいます」

「この取り組みは、新製品を市場に送り出すスピードを加速するため、世界中のどこでも最適な設計を実現する、という我々の企業戦略において重要な位置を占めています。オンラインコラボレーションが当社のバーチャル設計センターのグローバルな展開をサポートすることで、新たに人材を採用することなく、設計スピードを200%以上向上させることができました」(Seynaeve氏)

Seynaeve氏は、同社のプラットフォームのおかげで、リソースの物理的な所在に関係なく、対応可能な人材に業務を割り当てることが可能だと言います。シンプルなウェブブラウザ経由ですべての設計にオンラインでアクセスでき、またEaton社の積極的な買収戦略によって導入された多様なエンジニアリングツールがもたらす課題の解決にも、このソリューションが活用されています。

誰にでも視覚的に伝える、 伝わる3Dコミュニケーション

Seynaeve氏はまた、3Dは一目で情報をその関連性と共に伝え、理解を促すことのできるユニバーサル言語であり、Eaton社のエンジニアは、人から人へとスピードを落とすことなく、業務を引き継ぐことができていると説明します。この利点は多くの業界で活かされています。

鉱業ではボーリングで採取したサンプルデータをもとに作成した3Dモデルで地層を可視化し、掘削開始前の地質調査技士による地層の状態の把握に役立てられています。検証結果に基づいて採鉱計画を立て、その計画を鉱山の投資家から現場の作業員に至る関係者全員に分かりやすく説明することができます。

3Dは、今や製品設計の分野だけでなく、天然資源産業でも利用が広がっています。(写真提供 : Mincor Resources 社)

オーストラリアに拠点を置くMincor Resources社で地質調査チーフを務めるMark Muller氏は、3Dを活用する最大の理由はコミュニケーションに役立てるためであると述べています。「3D モデルは、地質に詳しくない人に対しても計画を効果的に伝えることができます。モデルの向きを変える、ズームインやズームアウトをする、任意の地点で断面図を作成して詳細を見せる、瞬時に拡大や縮小をする、といったことが可能です。何百枚もの2Dの図面を確認しながら、概念的に計画を説明するのではなく、全体像を示す画像をワンクリックで表示することで、人々はデータが示す鉱脈の特性を瞬時に理解することができるのです」とMuller氏。また、3Dモデルは新しいデータを入力するとすぐに更新されます。「直感を検証する、アプローチを変更した場合の影響をテストするといった点において3Dの機能に匹敵するものはありません」(Muller氏)

「 3D モデルは、地質に詳しくない人々に対しても計画を効果的に伝えることができます」

Mark Muller 氏
Mincor Resources 社 地質調査チーフ

エネルギー業界のもう一つの事例としては、スイスを拠点とするAlstom Power社があげられます。Alstom Power社は、天然ガスから太陽光まで、あらゆるエネルギー関連設備を供給し、全世界の発電量の約25%が同社の設備によって生み出されています。Alstom Power社のトレーニングディレクターとして顧客サポート業務の責任者であるJoerg Ackermann氏は、設備が常時稼働するよう自社のフィールド・サービス・スタッフと共に顧客の整備担当者の両者に対し、教育プログラムや資料によるトレーニングを実施しています。
Ackermann 氏の部門では、2D の図によるトレーニング資料や保守マニュアルを何年も使用していた、設備の組み付けや解体、整備を行う手順を説明するのに3D アニメーションに変更しました。Ackermann 氏は次のように述べています。「導入後すぐにトレーニングの講師たちから、もっとアニメーションを用意してほしい、という依頼が殺到しました。また、お客様からも同様の声もあがりました。3D アニメーションが利用できることがわかると、数日後には2D の資料ではなく、3D だけが使われるようになりました」

さらに、3D アニメーションは、文章による指示書をほぼ全面的に排除し、説明文による解説もほぼ不要になりました。「これを回転させ、次にここにそれを挿入してから90度回転させる、という指示を文書で記述するには多くの言葉を必要とし、イメージするのも困難です。3D ではそれらの説明をすべて省けるため、何も解説も必要がありません」
(Ackermann 氏)

設備を解体し、再度組み付ける手順を3D で確認することで、顧客はより迅速に設備を分解、整備、再組立てすることができます。Ackermann 氏は次のように述べています。
「設備整備に費やす間、そのユニットの生産性は損なわれ、お客様の収益も失われます。お客様に手順を言葉で説明するよりも見せるほうが、時間を短縮でき、収益性を高めることができるうえ、安全性も向上します。整備士が実際に整備に取り掛かる前に、手順を見てリスクを理解し、適切な注意を払うことができるからです」

これらの事例は、最新のデジタルソリューションが21世紀のビジネスのあり方を変革し、企業が情報を収集、理解、共有し、コラボレーションを展開することで、顧客に対するより優れたエクスペリエンスの提供を可能にしていることを示しています。

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