バーチャルな臨床試験が医療機器の許認可プロセスを一新

Tina Morrison氏: FDA(アメリカ食品医薬品局)Regulatory Science and Innovation部門の部門長


7 July 2020

画期的な医療技術を患者に迅速に提供するには何をすべきでしょうか。私たち、アメリカ食品医薬品局(FDA)の医療機器・放射線保健センター(CDRH)の局員は、毎日このことを自問しながら取り組みを続けていま

私たちの役割は、高品質で安全かつ効果的な医療機器へのアクセスを提供することによって、公衆衛生を保護し促進することです。これは決して容易なことではありません。当センターでは、米国で販売されている約175,000台の医療機器を監督し、新技術の承認申請を毎年約22,000件受理しています。規制対象の医療機器は、リスクの低い製品から、心臓弁、人工股関節全置換術、血管用ステント、血液ポンプなどの救命機器に至るまで多岐にわたります。

これらの機器の開発とテストは厳格なプロセスですが、費用と時間のかかる臨床試験や動物実験は煩雑で、革新的な技術の規制評価を遅らせる可能性があります。そして、この遅れが患者の生死を分ける場合もあります。私たちはこれらの遅れをなくすことに尽力していますが、スピードは安全を確保した上で実現しなければなりません。

シミュレーションが切り開く変革への道

ここで鍵を握るのが、科学に基づいた高度なコンピュータシミュレーションです。シミュレーション機能と精度の進歩により、主に単一のデータソース(たとえば、代表的な患者集団の安全性と有効性を理解することを目的とした単一の臨床試験)に基づく承認プロセスから脱却し、将来的には過去のデータと予想データ、そしてリアルタイムのデータを使用するとともに、計算モデリングなどのデジタルエビデンスのデータから確証を得て、医療機器の有効性と性能を理解できるようになります。

それに加え、患者の仮想シミュレーションにより、実際の生体の重要な局面を正確に再現できることが証明されれば、将来の臨床試験は、少なくとも部分的にでも、被験者の仮想シミュレーションに依拠できる可能性があります。これにより、新しい機器を実際の人間を対象にテストする必要性が減り、動物実験の必要性も減ります。

in silico(コンピュータを使った)試験として知られる臨床試験のシミュレーションは、すでに将来性を大きく期待されています。たとえば、FDAに最近承認申請された先進的な乳房スクリーニングシステムは、400人の女性被験者を何年間にもわたって電離放射線に二重曝露する臨床試験に頼るしかありませんでした。しかしFDAが開発したコンピュータ・シミュレーションツールを使用して、2,986人の仮想被験者を対象に、完全にin silicoのシミュレーション試験を実施したところ、仮想臨床試験のシミュレーション結果が実際の臨床試験と一致していることが判明しました。シミュレーションが現実と一致したのです。

最近では、新しい次世代ペースメーカーの安全性を確認することや、さまざまな皮膚疾患の治療用の局所ゲルであるMirvasoの承認をサポートすることを目的としたin silico試験も実施しています。

イノベーションの新たな波

私たちの次なる取り組みは、重要なものです。当センターでは今、個別化された極めて正確な人間のデジタル心臓モデルを開発して、心臓血管系in silico医療の基盤を確立しようとする画期的なイニシアティブの「リビングハート・プロジェクト」に、心臓血管の研究者、教育者、医療機器開発者、規制当局、ソフトウェア開発者、心臓病専門医と協力して取り組んでいます。  

このイニシアティブでは、ペースメーカー用のリード等の心臓血管ソリューションの設計、製造、テストを、実環境と仮想環境の両方で行います。臨床試験には、仮想の患者集団を再現して構築された、物理学をもとにした計算モデルと機器のシミュレーションを使用します。臨床試験の設計は、実際の被験者から収集した情報を使用してバーチャルな環境で行います。

Tina Morrison氏

最終的な目標は、仮想の患者のデータに基づくデジタルエビデンスへの道を開いて、必要に応じて臨床エビデンスの代わりに使用することです。これによって、人体を用いた臨床試験に伴う時間、コスト、リスクを大幅に軽減し、救命のための医療機器や医薬品をより短期間で市場に投入できるようになります。

審査プロセスの変革

医療機器の現行の審査プロセスは、これまで数々の改善を重ねてきましたが、メーカーが発展性のない紙ベースの承認申請を行う、一方的なシステムであるという点で非効率的です。

それとは対照的に、メーカーがFDAの規制当局者をクラウド上のコラボレーティブな製品イノベーションプラットフォームに招待できるとしたらどうでしょうか。このプラットフォームでは、規制当局者がARヘッドセットを装着し、シミュレーション環境で機器を操作または「体験」できるため、より確かで効率的かつ明快な審査プロセスが実現できます。

in silico試験に基づく審査によって、確かなエビデンスを生成し質の高い意思決定を確保しつつ、規制当局による審査の各段階に要する時間を短縮できるため、患者が安全で効果的な医療技術にすばやくアクセスできるようになります。また、人体でのテストや in vivo(主に動物の生体を用いた)検査の必要性が減り、患者と動物の両方の負担が軽減します。

現実環境から仮想環境への移行は簡単にすばやく行えるわけではありません。正確なモデルを作成するには、臨床現場からの知見が必要であり、私たちはこの長い道のりの一歩を踏み出したばかりです。しかしそれは、動物と人間の両方を被験者とする必要性を減らすことや無くすことになり、より良い治療オプションをより早く患者に届ける可能性を秘めています。

私はFDAがこの変革を主導していることを誇りに思うと同時に、この取り組みから学んだことを世界中の規制当局や業界の専門家と共有できることを楽しみにしています。

プロフィール: Tina Morrison氏は、アメリカ食品医薬品局(FDA)のRegulatory Science and Innovation部門の部門長です。同氏は2016年、モデリングとシミュレーションを対象としたFDA全体の作業部会を主導し、医療機器承認申請のモデリングに関する画期的なガイダンスを策定しました。2019年には、米国機械学会のチームを率いて医療機器の計算モデルを評価する手順書を作成し、FDAのFederal Engineer of the Year (その年の優秀なエンジニア系職員に連邦政府から贈られる賞)に選出されました。  

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