製造は、製品の製造方法を計画する 段階と、その計画を実行する段階と いう、2つの重要な段階で構成され ます。主要メーカーは、これら両方の段階で 没入型バーチャリティ(iV)を応用しています。
「自動車産業や航空宇宙産業では、製品設 計以外にも、工場および作業現場向けプロ セスの設計にCAVEを活用しています」国際 的に認められている仮想現実分野の専門家 であり、ダッソー・システムズの没入型バー チャリティ担当ディレクターを務めるDavid Nahonは、そう述べています。「iVは、製造業 にとっては非常に重要です。なぜならば、あ るプロダクトを実際に製造する上での難易 度がどのぐらいであり、そもそもその製品の 生産が可能かどうかを、設計段階で把握し ておく必要があるからです。これらの点を設 計プロセスの早期に特定しておくことで、後 工程に大きな影響を及ぼすかもしれない 様々な要因を排除できます」
「当社では、あらゆる製造プロセスを対象とした計画および シミュレーション用デジタル・ファクトリーの開発に仮想現実を応用しています」
PAULO PIRES氏
エンブラエル社エンジニアリング&テクノロジーセンター、マネージング・ディレクター
「設計の間違いが製造プロセスでも繰り返さ れた結果、実際に組み立てた座席が車体に 収まらなかった場合を考えてみてください。」 Nahonは述べます。「製造段階で見つかる間 違いほど、コストの高くつくものはありません。製造プロセスそのものを見直すか、座席 を2つに分けて組み立てられるよう製品を設 計し直すことが必要となる可能性があります。 この問題の解決に時間をとられている間、生 産量が減少するためコストが上昇し、製品を 市場に投入できないため売上が減少します」
コラボレーションによる 質の向上
iVでは、実物大の3Dモデルを検証できるた め、製品設計とそれに関連した製造プロセ スの問題を容易に特定できます。世界第3位 の規模を誇る、様々なジェット機を設計・製 造する総合ジェット機メーカーのエンブラエ ル社(ブラジル)では、製品設計と同じ没入 型レビューを製造計画にも適用しています。
「当社では、あらゆる製造プロセスを対象と した計画およびシミュレーション用デジタ ル・ファクトリーの開発に仮想現実(VR)を応 用しています」。フロリダ州にあるエンブラ エル社のエンジニアリング&テクノロジー センターのマネージング・ディレクター、 Paulo Pires氏はそう述べています。
エンブラエル社で採用している新しい複合 現実(MR)プロセスでは、一度に最大12人 が同じモデルを見て、コメントすることがで きます。そのため、製造を専門とする人員が 設計・エンジニアリングを専門とする人員と 共同でモデルをレビューし、問題を特定し て、生産が開始されるよりもかなり前の段階 で、解決策について各担当の意見を一致さ せておくことが容易になります。
ARがアセンブリーを簡略化
製造が開始された後は、製造現場の作業員 が手際よく正確に作業を行えるよう、拡張現 実(AR)が役立てられます。、自動車、航空宇 宙、石油化学の各産業向けにARアプリケー ションを開発しているDiota社(フランス) は、2010年以降、製造各社との連携を深め ています。
「ARにより、データ・モニタリングの 間違いだけでなく、 ヒューマン・エラーも減らせることが 確認されています」
LIONNEL JOUSSEMET氏
Diota社、共同創立者
「今日、多くの工場の作業員が、大量のジョ ブ・カードに書かれた説明を頼りに製造作業 を行っています」。Diota社の共同創立者であ るLionnel Joussemet氏は、そう述べていま す。「たとえば航空宇宙産業のメーカーの作 業員は、正しいジョブ・カードを見つけて、そ こに書かれた情報を理解し、頭の中ですべ てのプロセスを思い描かなければなりませ ん。これは決して容易なことではありません」Diota社のソフトウェアは、製造業の産業情 報システム(PLMシステムなど)を利用し、製 品の設計時に生成されたデータと同じデー タに基づいて、その製品をどのように組み立 てるべきかを作業員に指示します。
「パネルを組み立てる際に、作業員は両手を 自由に使えなければなりません」Joussemet 氏はそう述べています。「作業指示書書を 握っていては作業できないため、以前は、マ ジックペンで作業指示をアセンブリーに書 き写していたものです。このことは、時間が かかるだけでなく、多くの間違いを生み出す 原因にもなっていました」
「Diota社のARソリューションでは、作業員は ARメガネを装着して作業します。作業員が アセンブリーを見ると作業指示が目の前に 表示されるか、必要な作業手順がアセンブ リーに直接投射されるので、作業員は何を すべきかをすぐに理解し、作業に要する時 間を短縮することができます」。ある作業が 完了すると、その次に行うべき作業が自動的 に表示されます。
品質管理が容易に
作業が終了したら、今度は検査官が、紙で はなくタブレットを持って作業を確認します。 「拡張現実を応用すると、品質検査担当は、 タブレットの画面越しにアセンブリーを直接 観察し、実際に組み立てられた部品を設計 上のデジタル・モックアップと比較することができます」とJossemet氏は述べています。 「このようなシステムでは、ばらつきをすば やく特定できます」
Diota社では、同社のアプリケーションの利 用者が設計者やエンジニアではなく組立作 業員であるという認識のもと、使いやすく、 理解しやすいソリューションの開発に重点を 置いています。Joussemet氏は次のように述べています。「VRは専門家向けであるのに対 し、ARは誰でも利用できる技術です」。また、 Diota社は、幅広い産業用途に応用できるよ うソリューションの標準化も図っています。
「ARにより、データ・モニタリングの間違いだ けでなく、ヒューマン・エラーも減らせること が確認されています」Joussemet氏は自信 を持って述べています。「このことは、ARの信 頼性がいかに高いかを物語っています。こ れまでとはまったく異なるビジネスモデル の誕生です」◆
See AR at work on the factory floor: http://3ds.one/ARWorkInstructions