賢者の眼

デジタル・トランスフォーメーションで重要な役割を担う企業間マーケットプレイス

Robert Parker
23 June 2018

企業間デジタルマーケットプレイスにより、産業界の市場やサプライチェーンが変容しています。専門家によると、従来のビジネスモデルを破壊するほどの革命により、サプライチェーン全体にわたって企業には新しい革新的なカスタマー・エクスペリエンスを拡張・創出するチャンスとなっています。

20年前に、私は興味深い新しい技術分野に関する調査に参加しました。「インターネット・マーケットプレイス(Internet Marketplaces)」あるいは「商業取引所(Trading Exchanges)」と呼ばれていたこうしたウェブサイトでは、産業界B2B市場における調達の課題に対してB2C eコマースの技術や戦略が使われていました。

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ドットコム・バブルが弾けた時には、調査対象になっていた企業の多くが閉鎖し、調査も取りやめになりました。しかし、デトロイトの複数の自動車メーカーが共同で開設した自動車部品オークションサイトのCovisint、そして製造業向け電子調達サイトのAribaは、買収や適合によって生き残りました。他にも数社が、たとえばアリババや、早くからB2Cで競合していたアマゾン、JD.comなどが世界的大企業になりました。

今では、IDCが「第3のプラットフォーム」と呼ぶ、ビッグデータ分析とクラウド、ソーシャル、モバイル技術の一体化によって可能になる、新しい世代の企業間マーケットプレイスが登場しています。こうしたクラウド世代のマーケットプレイスでは、あらゆる規模やニッチの企業に新たなビジネスチャンスをもたらしますが、より重要なのは、デジタル・トランスフォーメーションを加速する手段をもたらしていることです。

マーケットプレイスの種類

こうしたマーケットプレイスは、最も高いレベルでは新旧問わず「体験型マーケットプレイス」と「製品マーケットプレイス」の2つに大別されます。体験型マーケットプレイスのカスタマー・エクスペリエンスでは、オープンなエコシステムのイノベーションを実現できます。通常はオープンAPIを使用したデータ中心型プラットフォームであり、パートナーや社内チーム、起業家、さらには顧客をも、自社サービスの拡張や強化に引き込みます。例を挙げると、インテルのDeveloper ZoneやパナソニックのVIERA Developer Portalなどがあります。

製品マーケットプレイスでは、物理的な商品の買い手と売り手をつなぎます。4つの基本タイプ、すなわち、1. コモディティ調達、2. 標準部品カタログ、3. 構成可能製品向けマーケットプレイス、4. 特注品製造ポータルに分けることができます。

コモディティのプラットフォームは、ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)が登場する前に確立されました。こうしたプラットフォームでは電子データ交換(EDI)システムが利用され、牛から天然ガス、鉄鉱石に至るまで、さまざまなコモディティの売買に対応していました。現在は、こうしたプラットフォームに対しては「第3のプラットフォーム」の技術を利用した作り直しや再活性化が行われ、使い勝手も向上し、原材料の直接調達を可能とする企業もあります。

オンラインカタログは、メーカーや販売店がネットに掲載していたPDF形式のカタログが、HTML表示とオンライン・データベースに進化したものです。現在では、最先端のオンラインカタログは調達マーケットプレイスとして利用でき、機械学習によって強化された使いやすい検索機能や、3DマルチCADファイルを直接アップロード/ダウンロードする機能、広範な製品・売り手のメタデータ、直接注文用リンクなどを提供しています。

構成可能マーケットプレイスは、標準製品カタログの拡張版です。さまざまな売り手がおり、規格化されていながら構成可能な製品、たとえばコンピュータなどの選択・構成・注文に状況に応じて対応できるシステムを提供しています。さらに一歩先を行くのが、特注の製品やサービスを扱うマーケットプレイスです。買い手は1つのまたは複数の業界で特注のサービスあるいは製品を求め、売り手は見積依頼に回答することができます。

こうしたマーケットプレイスを利用することで、あらゆる規模の企業は新しい顧客や地域との接触機会が得られ、新しい売り手や条件の良い売り手を探し、時間を節約し、より価値のある買い物ができるようになります。どのタイプのマーケットプレイスが自社のビジネスに有効なのか調べてみることは、どの企業にとっても価値があります。

進化を活用

即座に見返りを得られることが十分な動機づけになる一方で、マーケットプレイスへの参加によりグローバルなデジタル・トランスフォーメーションのスピードアップがどれほど可能になるのかを多くの企業が見過ごしています。

「カスタマー・エクスペリエンスに関しては、マーケットプレイスで広範囲に及ぶエコシステムとのやり取りにより、企業は『インサイドアウトの思考』から斬新な『アウトサイドインの思考』へとシフトします」

ROBERT PARKER氏
IDC社グループ・バイス・プレジデント

IDCではデジタル・トランスフォーメーションのことを、「企業が第3のプラットフォームの技術を利用し、新しい製品やサービスの提供、ビジネスモデル、関わり合いなどを通して価値と競争力を生み出すこと」と定義しています。今日の企業間マーケットプレイスには変革の力があります。なぜなら、こうした技術を使用して従来のプロセスのデジタル化をはるかに凌ぐメリットを実現し、それがすべての人にほぼ瞬時に利用可能になるからです。さらに、この変革は利用者の中核的な業務、たとえばカスタマー・エクスペリエンスの進展、サプライチェーンや調達、販売やマーケティングにまで及びます。

カスタマー・エクスペリエンスに関しては、マーケットプレイスで広範囲に及ぶエコシステムとのやり取りにより、企業は「インサイドアウトの思考」から斬新な「アウトサイドインの思考」へとシフトします。また、オムニチャネルでのスムーズな購入・注文処理に対する顧客の要求も満たせるようになります。

サプライチェーン管理に関しては、マーケットプレイスは、私が「3D」と呼んでいるサプライチェーン(需要指向、データ主導、デジタルな実行)を迅速に実現する方法を提供してくれます。こうした品質は、IDCのデジタル・トランスフォーメーションの成熟度モデルにおける重要な特徴と完全にリンクしています。

特に、企業間マーケットプレイスへの参加によって以下の変革に取り組むことができます。

リーダーシップ: 経営トップによるデジタル・トランスフォーメーションへのコミットメント(さらに進捗)を明確に示します。
オムニエクスペリエンス: 最も使いやすいチャネルを介して、継続性と一貫性、関連性のある方法でエクスペリエンスを確実に実現します。
情報: マーケットプレイスのデータと分析を通して、エビデンスに基づく管理という目標を推進します。
運用モデル: 手作業による階層的な運用モデルから自律的でアジャイルな運用モデルへの移行を支援します。
ワークソース: 経営陣が一時的な労働力や進化するサプライチェーンの舵取りをするのを支援します。

企業間マーケットプレイスに前向きに取り組むことによって、IT部門は時間を浪費するレガシーシステムのサポートからも解放され、デジタル・トランスフォーメーションの促進に注力できます。企業間マーケットプレイス戦略はまた、データセンターの統合に向けたより広範なITのトレンドや、アジャイルでモバイルを優先したクラウドベースのソリューションへのシフトとも軌を一にするものです。

将来に向けての備え

こうしたことから、企業間マーケットプレイスの成長は、向こう数年間は非常に力強いものとなります。私は、多くの企業が1種類以上のプラットフォームに取り組み、そうしたプラットフォームで複合的な役割を果たすと考えています。

こうして参加する企業が増えると、企業間マーケットプレイスの改善も進むでしょう。企業は製品や売り手に関して、より優れた、標準化された可視性を求めるようになります。これは、売り手にとっては買い手を啓発するチャンスです。売り手は長い間この問題に悩まされてきましたが、実際の価値をベースにした販売に向けた足掛かりとなるでしょう。

また、データセキュリティーやIP保護の分野では、ブロックチェーンなどの技術を利用する需要主導型のイノベーションが登場するでしょう。そして、私が考えるにプロジェクトベースのマーケットプレイスが登場するでしょう。このマーケットプレイスでは、プロジェクトの入札から完了まで、協力して行う作業のすべてをプラットフォームがサポートします。

ただし、今後あらゆることが進展する中で忘れないでいただきたいのは、マーケットプレイスではデジタル・トランスフォーメーションにおいて重要な役割を担うことはできますが、デジタル・トランスフォーメーション自体は本質的には技術に関する取り組みではなく、ビジネス戦略だということです。そのため、マーケットプレイスのロードマップを作成する際には、企業はそれをグローバルなビジネス戦略の視点で捉える必要があります。

プロフィール

Robert Parker氏はIDC(International Data Corporation)社のグループ・バイス・プレジデントです。小売、エネルギー、製造、金融サービスの4業界について、グローバルな調査の指揮責任者です。さらに、デジタル・トランスフォーメーションに関するIDC社の調査を統括し、すべてのグループや地域の調査戦略をコーディネートしています。

For more information on IDC’s Third Platform:
http://go.3ds.com/nnRi

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