3dプリンティング

製造業を一変させる、その破壊的パワー

William J. Holstein
25 April 2013

3Dプリンティングは、金属やプラスチックを切削、成形するのではなく、薄いレイヤー(層)を重ねることで製品を形作るテクノロジーで、世界クラスの大手メーカーでも日常的に使用されるようになってきました。このテクノロジーがより実用的かつ安価になるにつれて、小規模の工場を事実上、世界のどこにでも配置できるようになってきました。そのターゲットも自動車からファッション、個客市場(マーケット・オブ・ワン)にまで及んでいます。

2012年の後半、3Dプリンティング革命に至る長い道のりの中で特に重要な二つの出来事が、静かに実現していました。その一つは、General Electric(GE)社が、米国オハイオ州シンシナティ近郊に拠点を置く小規模な精密工学企業、Morris Technologies社を買収し、同社の3Dプリンティング機械を使用してジェットエンジンの部品を製造する予定だと発表したことです。続いて、エアバス機の製造で最もよく知られている、欧州航空宇宙企業グループのEADS社の研究者が、3Dプリンターを使ってチタン製の着陸装置ブラケットを製造中であり、大型旅客機の翼全体をそっくり「プリントアウト」する予定であることが、『The Economist』誌によって明らかにされました。どちらの企業も、高価な金属の塊からチタン部品を削り出して大量の切り屑を出すより、一度に一層ずつ積層させて部品を作っていく方が格段に経済的であると述べています。

世界屈指の規模と技術を誇る二つのメーカーで類似した開発がおこなわれているのは、積層造形とも呼ばれる3Dプリンティングが、商業利用の段階に移行していることを示唆しています。

米国サウスカロライナ州ロックヒルに拠点を置く3Dプリンターの主要プロバイダー、3D Systems社の社長兼最高経営責任者であるAbe N. Reichental氏は、次のように述べています。「GE社とAirbus社だけではありません。こうしたテクノロジーは今後ビジネスモデルを変えることになるでしょう」同社によると、今では販売するプリンターの半数が製造設備に導入されています。

メーカーからの信頼の獲得

3D Systems社やStratasys社などの企業は3Dプリンターのコストを引き下げており、現在3Dプリンティングで対応できる材料は、エンジニアリング・プラスチック、ゴム、ワックス、金属、複合材など、100種類を超えています。2月下旬には、スコットランドのヘリオット・ワット大学の科学者たちが、3Dプリンティングの手法によって生きた幹細胞をさまざまな構成に積層させることに成功したと発表しており、将来的に、このテクノロジーを使って人間の臓器をプリントできるようになる可能性が高まっています。


企業統合によって、3Dシステムを提供する企業の数は減っていますが、技術力は高まっています。それに伴い、メーカーがより自信を持って、製品の設計および製造のクリティカルパスに3Dプリンティングを導入するのに十分な条件が整ってきています。たとえば、米国ミネソタ州エデンプレイリーに拠点を置くStratasys社は、イスラエルに拠点を置くObjet社と2012年後期に合併し、新会社を設立しました。2011年の両社の売上高は見積ベースで2億7,700万ドルでしたが、合併後には年率で20~30%増加しています。Stratasys社とObjet社では、それぞれが欧州、米国、アジアの同じ主要自動車メーカーや航空宇宙関連企業などに3Dプリンターを販売しているケースが多数ありました。

「こうしたテクノロジーは、今のビジネスモデルを変えてしまうのです」

Enver Yucesan氏
INSEADビジネススクール教授

Stratasys社の戦略的提携担当ディレクターであるAmir Veresh氏は、次のように述べています。「同じ会社から二つのテクノロジーをご提供することで、お客様が受けるサービスの質が向上し、お客様が抱える実際のニーズにより的確に対応することができるため、お客様の潜在能力が拡大します」

3Dプリンティングが新たな局面を迎えているという見解には、独立系のコンサルタントたちも同意しています。Booz & Co.社の上級管理者顧問で、米国オハイオ州クリーブランドに拠点を置く製造分野の専門家でもあるTom Mayor氏は、次のように述べています。「3Dプリンティングは、実験室の興味深いおもちゃであった5年前から飛躍的に発展しました。残る疑問は、技術上の壁をあといくつ突き破れば、ホンダ・アコードに組み込まれる何かをプリントできるようになるかという点だけです」

3Dプリンターで出力したレンチ。実際に使うことができる。(写真提供:3D Systems)

拠点を増やし、より柔軟な製造を実現

Mayor氏は、3Dプリンティングが今後、経営者が世界各地の製造拠点をどう編成するかに多大な影響を及ぼすと予測しています。今は一か所の製造拠点で中国全土への製品を供給可能であると結論づけていても、3Dプリンティングの導入によって、中国国内に小規模な工場を20カ所設け、言語と文化の面で多様な選択がありうるこの国で製品をカスタマイズできるようになる、としています。

Mayor氏は、「3Dテクノロジーは、長期的には製造工場の規模縮小をもたらします。これは、顧客企業のすぐ近くに工場を配置できることを意味します」と述べています。そして、製造ネットワークの再構成が必要になるターニング・ポイントを見逃さないように社内の準備を進めるべきである、と経営層に提言しています。

究極的には、3Dプリンティングが一部の製造業界のビジネスモデルをまるごと破壊する可能性もあると述べたのは、フランスのフォンテーヌブローにキャンパスを構えるINSEADビジネス・スクールの業務管理学教授で、グ
ローバル製造ネットワークを専門とするEnver Yucesan氏です。Yucesan氏は、書籍、音楽、ビデオのデジタル化が比較的容易であったため、これらの業界のサプライ
チェーンが痛みを伴う変革に追い込まれることになったと指摘しています。

音楽、書籍、新聞の制作と流通の方法を見ると、今日可能になっていることは、10年、15年前に主流であったモデルとはまったく異なっています。個人的には、3Dプリンティングは工業製品にこれとまったく同じ変化をもたらすと考えています」(Yucesan氏)

Yucesan氏は、デジタル化の波がすでに到来している業界を精査し、自社のビジネスに適用できる教訓を得ることを企業の経営者に提言しています。「こうしたテクノロジーは、20年間実施してきた業務を助け、効率化と迅速化をもたらすだけのものではありません。今のビジネスモデルを変えてしまうのです」

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