コロナ禍に立ち向かう製造業

バーチャルエクスペリエンス技術の活用で、コロナ禍での需給ギャップに立ち向かう

Jacqui Griffiths
16 November 2020

世界的なパンデミックによって、製造業者はほとんど一夜のうちに試練に見舞われました。工場は閉鎖され、世界のサプライチェーンは崩壊し、苦労して作り上げた生産計画が無意味になったのです。しかしアジャイルな企業は速やかに適応し、新たな機会を獲得してライバルとの差を広げました。

COVID-19がオーストラリアを襲うと、同国クイーンズランド州を拠点として通信会社や電力会社向けに特殊な収納庫、棚、キャビネットを供給するB&R Enclosures社は速やかな対応を迫られました。

同社のエグゼクティブディレクターであるChris Bridges-Taylor氏は次のように話します。「パンデミックによって当社のサプライチェーンは混乱し、需要の不確実性が高まりました。しかし、コミュニティにおける通信や電力の使われ方が変化して事態がますます緊迫する中でも、インフラプロジェクトや大規模な特注プロジェクトのニーズは依然として存在しました。私たちはリソース管理や運用管理の順応性と柔軟性を維持することに集中しなければなりませんでした」

B&R Enclosures社は綿密な計画に基づいたデジタル・トランスフォーメーションをすでに実行中だったため、新しい働き方を支援するべく、戦略を調整して加速させました。同社はロックダウンの打撃を軽減するために、すべての現場に総合的な健康と安全対策を展開しました。そして現地リソースの活用や、見積もり、発注、設計処理の透明性向上を促すプロセスを導入し、サプライチェーン管理を調整し、バーチャルなチーム管理システムも実施しました。

Bridges-Taylor氏はこう話します。「情報に基づいたより的確な判断、より迅速な対応、よりスマートなリソース管理を実現するために、ビジネスを横断したリアルタイムのデータ活用を目指す各種プロジェクトの実行スピードを上げることができました。リモートデスクトップサービスのプロジェクトが加速した結果、当社の設計チームは自宅にいながらにして、多要素認証を備えたセキュアな環境で複数の画面を使って作業したり、当社のコンピューター支援型設計・工学プログラムで大規模な3Dモデルにアクセスしたりすることができました。報告やプロセス管理のペーパーレス化のスピードも劇的に向上しました」

明るい兆し

B&R Enclosures社の例はデジタル化によって機会が変化したことを表します。同社は競争力、品質、リードタイムで妥協することなく、供給の強化を求める顧客の声に対応できているのです。B&R Enclosuresは、予測不能な困難に対し顧客がレジリエンスを強化できるように支援することを通して、実際に自社の業績見通しを改善しました。

「情報に基づいたより的確な判断、より迅速な対応、よりスマートなリソース管理を実現するために、ビジネスを横断したリアルタイムのデータ活用を目指す各種プロジェクトの実行スピードを上げることができました」

Chris Bridges-Taylor氏 B&R Enclosures社 エグゼクティブディレクター

米国を拠点とするコンサルタントで、『Future-proofing manufacturing & the supply chain post COVID-19』の著者であるLisa Anderson氏は、デジタル対応し、またレジリエンスが高いことを実証したサプライヤーを探すバイヤーがますます増えるだろうと考えています。

同氏は次のように述べます。「COVID-19がもたらした新たな現実では、企業幹部はよりいっそうリスクに注意し、顧客が目まぐるしく変化する状況に向けてどう備えるか検討するようになるでしょう。私たちが見てきた企業の中には、迅速に改革を行い、柔軟性と顧客の新たな要求への対応力があることを打ち出し、自社のコアな強みを土台にすることで、シナジー効果のある製品の開発、サプライヤーの補充、変化する顧客状況への積極的な対応を実現したところもあります。そうした企業には、変化する状況を鋭く見つめる目、イノベーションの文化、そして結束したコミュニティがあり、これらが組み合わさることで顧客の要求の変化に速やかに対応できます」

B&R Enclosuresの例が示すように、混乱対応の成功例の核になるのが、デジタル化によって可能になるオペレーションや最新のコラボレーションプラットフォームです。

安全で生産的

COVID-19が製造業に突きつけた重要な課題、例えば感染対策をした安全な職場を作ったり、現場スタッフを減らして業務を遂行したりする必要性を前に、多くの企業が、自社にそのような能力がないという危機的状況に気づきました。

アクセンチュア・チャイナのインダストリーX.0担当マネージングディレクターのKe Wang氏は「製造業者は労働者を守るために安全関連プロセスを標準化する必要があります。そして『プロセスを実践』し、生産的な方法でオペレーションを行うためには、動員可能な労働者を支援するテクノロジーを提供する必要がある」と言います。

このような目標を達成するには、組織全体の透明性に加えて、目まぐるしく変わるシナリオを速やかに分析し、対応する能力が求められます。

Wang氏は次のように述べます。「すべての社内システムのデータを1ヵ所に統合し、そこにすべての機器を接続し、その機器にオペレーターを配置することで、製造業者はアジャイルな管理に必要な透明性を獲得できます。例えばこのデータを計画最適化ソフトウェアで使用すれば、最も効率的な生産スケジュールを提案できます。このデータを人工知能で使用すれば、品質検査の自動化や予知保全を実現できます。そして自律的ロジスティクスのソリューションは、このデータを活用して、リモートで自動化したインテリジェントなオペレーションの能力を強化できます」

Wang氏はさらに「制約が課されて専門家による訪問保守・修理が不可能な場合、拡張現実(AR)メガネを使って視覚化したり、関連データを共有したりする能力を持っていれば、外部の有識者とつないで現場スタッフの作業を誘導することができる」と指摘します。

94%

フォーチュン1000企業の94%が、2020年3月までにCOVID-19を原因とするサプライチェーンの混乱を経験

アクセンチュア:『Building supply chain resilience: What to do now and next during COVID-19』

理想は、企業のすべてのプロセスやデータにバーチャルツイン(シミュレーションが可能な、科学的に極めて正確な3Dモデル)で視覚的にアクセスでき、新たなプロセスや手続き(ソーシャルディスタンスの確保など)のテストや検証を、実際に工場に導入する前に実施できるようになることです。

例えば、工業オートメーションのプロセスとテクノロジーを提供するカナダの企業CenterLine (Windsor) Limitedは、顧客のために構築する組立ラインのバーチャルツインを作成し、実際に組立ラインを構築する前に、それを用いてロボットの動きを検証したり、作業場の空間利用や資材の流れ、人間工学的な安全性を最適化したり、自社製マシンの機能を顧客にデモンストレーションしたりしています。このテクノロジーのおかげで、機械設備関係の課題や変更作業が最大90%減少し、作業場でのプログラミング時間が75%短縮されました。  

CenterLine社のロボティクス シミュレーション責任者のLuciano Mancini氏は、「お客様がコンセプトやマシンをバーチャルで視覚化してから、我々が実際にそれを構築します。お客様が作った組立ラインのシミュレーションモデルがあるおかげで、現行の生産活動に影響を与えずに、エンドユーザーが新製品の実現可能性や変更点を評価することができます」と話します。

バリューチェーンを結びつける

真のレジリエンスを実現するためには、アジャイルな管理を支える透明性をサプライチェーンにまで拡大しなければなりません。

Wang氏はこう話します。「注文から供給品の入手可能性、そして自社の生産やロジスティクスのキャパシティまで、バリューチェーン全体に対するインサイトがあってはじめて製造業者はサプライチェーンを調整し、あらゆる困難に迅速かつ的確に対応できます。それを実現するためにはサプライヤーとの徹底した協力が必要です。例えばサプライヤーの在庫、生産計画、原材料の入手可能性から、各サプライヤーが自身のサプライチェーンの一部が途切れたときの安定化をどう計画しているかといった点のインサイトも含めて、サプライチェーン全体をはっきりと把握することが非常に大切です」

リオ・ティント社の、モンゴルにあるオユ・トルゴイ鉱山向けの特殊収納庫の詳細を検討するB&R Enclosures社のEric Stoker氏とChris Bridges-Taylor氏。後方は仕様の二重チェックを行うSuede Varrica氏。パンデミックに見舞われたとき、B&R Enclosuresは遂行中のデジタル・トランスフォーメーション・プロジェクトのおかげで、世界中の企業からより多くのビジネスを勝ち取ることができました。(Image © B&R Enclosures)

COVID-19の状況が目まぐるしく変化する中、こうしたデータを従来の手作業で収集・分析していては最新状況についていけないということを、製造業者はすぐに学びました。B&R Enclosuresはデジタル・トランスフォーメーションを加速させることにより、パンデミックを乗り越えて変化の激しい未来に成功するために必要な、サプライチェーンの可視性という点で大きく前進しました。

Bridges-Taylor氏は次のように述べます。「当社はテクニカルサービスと生産エリアの全域で、ほぼリアルタイムのアクセスと重要な最新情報を利用できます。そしてオンラインミーティングやプラットフォームを使って、重要な顧客、サプライヤー、州をまたいだ事業とのコラボレーションを実現しています。このコラボレーションは先進的なプロジェクト管理ツールに支えられており、スタッフが各自リモートで勤務しているにもかかわらず、アジリティ、効率的な並行作業、より優れた問題解決が促進されています。輸送インフラ、鉱山、通信といった大規模プロジェクトを手掛けるオーストラリア有数の大企業の変化するニーズを、当社がサポートできていることは幸いです」

ビジョンを現実のものに

様々な形の混乱が発生する、予測のつかない未来の需要に応えるうえで、アジャイルな企業がライバルに差をつける一方、デジタルな準備を行っていない企業はさらに後れを取るリスクがあります。

Anderson氏は次のように述べます。「新たな現実において成功するのは、イノベーション、アジリティ、地域協力に力を入れる製造業者です。どの企業も、地域のエコシステムを支えるための差別化要素の開発や、変化する顧客の状況をサポートするためのスピードや反応の良さを求められるでしょう。適切な技術インフラの整備、プロセス制御の策定、イノベーションや創造性を重視する企業文化の育成が鍵になります」

Wang氏は前進の道を模索する企業に対し、短期的な課題(プロジェクトのコストなど)と長期戦略のバランスを取るようにアドバイスします。

「ビジネスの個々のポイントを改革すれば多少の改善は見込めるでしょうが、COVID-19のような危機的シナリオにおいて、それだけでは不十分かもしれません。体系的な改革を行わない限り、やはり統合が不十分で、全体的な透明性も不足するでしょう。将来の衝撃に備えてレジリエンスを発揮できるようにするためには、ビジネスにとってテクノロジー投資がなぜ重要かを示す明確なビジョンと、改革のロードマップに対する深い理解が必要です」

B&R Enclosures社の場合、パンデミックに対するアジャイルな対応を可能にした戦略が、今、同社の新たな現実を具体化することに役立っています。

Bridges-Taylor氏は次のように述べます。「COVID-19が引き起こす混乱は誰も予測できませんでしたが、今やどの企業にとっても、これに匹敵する規模の現象を戦略に織り込むことが不可欠です。当社にとってはお客様がビジネスの中心であり、迅速で情報に基づいた意思決定とコラボレーションを実現することによって、すべてのスタッフがお客様とつながることができます。このことは、当社が機会をうまく活用し、最初から適切な方法をとり、真の付加価値を生み出すことに役立っています」

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