米オハイオ州のケース・ウエスタン・リザーブ大学(CWRU)はマイクロソフトのホロレンズ(独立型ホログラフィックコンピュータ)テクノロジーを導入し、人体解剖学の学び方を刷新しました。
CWRU放射線学部教授マーク・グリズウォルド氏は、次のように述べています。「私たちは、MR(複合現実)空間に人体の全身構造を映し出して学生たちに学ばせるHoloAnatomyというソフトウェアを開発しました。新しい医学部構内の広い教室で、一度に40~50名の学生に講義を行った後、学生たちは4~6人のグループに分かれて、バーチャル人体を囲んで立ち、課題に取り組みます」
しかし、今年の3月末から新型コロナウィルス感染症の世界的大流行の影響で大学が休校となり、185名の一年生は全員自宅から人体解剖学のバーチャル講義に参加しています。それがCWRUにとって、HoloAnatomyを世界規模で遠隔利用する初めての機会となりました。
人体の構成要素は8千を超えますが、このソフトウェアではあらゆる組み合わせを表示して、部位ごと、器官ごと、臓器ごとなどのさまざまな3Dビューを作成できる上に、自動化やラベル編集はもちろんのこと、オブジェクトをハイライト表示する機能もあります。
グリズウォルド教授は、次のように語っています。「私たちはアニメーションを用いた実験を行い、心臓の鼓動や呼吸時の肺の動きをHoloLensで観察しましたが、本当に素晴らしい出来でした。しかし、HoloAnatomyソフトウェアの機能はこれだけではありません。放射線学や理学診断などの他のモジュールと組み合わせることで、学生たちは、将来的に臨床の現場で役立つ人体解剖学の知識を、より包括的に得られるようになります」
HoloAnatomyには、講義前にラップトップ・コンピュータにセットアップして、各グループの学生に公開する3Dスライドショー機能があります。自宅でHoloLensを装着して講義に参加している各学生には、講師の説明しているところが正確に確認できるようになっています。「講師が『腎動脈から腎臓まで横方向に観察してください。その動脈が皮質に到達する手前で分岐している様子がわかります』と説明したとき、HoloLensのバーチャル空間では、講師の見ているところにカーソルが表示され、すべての学生が確認することができます。学生たちはホログラムで表現された3D人体の周りを移動して、体内の構造を確認しながら、同時に講義の内容を理解することができるのです」
生徒の一人である23歳のSanjana Madishettyさんは、米ミシガン州ノースビルにある両親宅の小さなオフィススペースに立ち、3Dイメージに身を乗り出すように別の角度から同じ構造を見ていました。「この方法と実際の解剖とでは、大きな違いがあります。どちらも重要ですが、HoloAnatomyの場合、構造をシースルー表示にしたり、元に戻したりできるので、臓器は無傷のままです。解剖の場合はそうはいきませんし、自宅で解剖して学ぶのも不可能です」と、彼女は言います。
CWRUでは、医学生の協力のもと10回以上にも及ぶHoloAnatomyの試験運用を実施し、その有効性を評価してきました。「私たちのデータによると、学生たちはおよそ半分の時間で、これまでと同レベルまたはそれ以上のレベルで学んでいます」と、グリズウォルド教授は語っています。