変化のうねりがあちこちで起き、アマゾンやグーグル、アリババといった物的資産を持たない強力なプラットフォーム企業が業界をけん引しています。こうした企業は、私たちの生活様式を大きく変えうる自動運転車やコネクテッドオブジェクトを発明しています。
世界中のファブラボでは、誰もがスマートなコネクテッドオブジェクトを数時間で作れます。ウーバーやエアビーアンドビーといったスタートアップ企業が業界全体を揺るがしている一方、ボーイングのような歴史ある企業も、サービスを主眼においた新しいビジネスモデルで自らを変革しようとしています。OEMはサプライヤーとデジタルで密につながり、サプライチェーンをバリューネットワークに変えようとしています。
デジタルトランスフォーメーションといった概念で説明できる以上の、「何か」が起ころうとしています。実際、それこそがグローバルなインダストリー・ルネサンスにほかならず、その変革において、ユーザーは完全にデジタル化されたエコシステムを通じて、バーチャルな世界で現実の世界を拡張し改善できるのです。人類はその歴史において初めて、全く新しい環境を皆が同時に想像し、マッピング、モデリング、設計できるようになるのです。デジタル・エクスペリエンス・プラットフォームはこうしたバーチャルな世界の基盤であり、場所、人、アイデア、ソリューションの間に横たわる距離をなくし、思考、学習、行動、インタラクションの新しい方法を可能にします。
米ミズーリ州カンザスシティにある建築事務所であるZAHNERでCOOを務めるTom Zahner氏は以下のように述べています。「バーチャルな世界とエクスペリエンス・プラットフォームの組み合わせがルネサンスなのです。そこでは新しい情熱の対象が見つかると同時に、人々が効率よく、早く、安価にその目的を達成できるのです。情熱にかられた人は信じられない力を発揮します」
「バーチャルな世界とエクスペリエンス・プラットフォームの組み合わせがルネサンスなのです。[...]そこでは人々が効率よく、早く、安価にその目的を達成できるのです」
TOM ZAHNER氏
ZAHNER COO
この力により、産業界の性質、定義が生産手段から価値創造プロセスへと変わろうとしているのです。リアルとバーチャルが融合し、持続可能なエクスペリエンスが作成、生産、やり取りされる、付加価値の高いバリューネットワーク上でそれが実現します。
IT専門調査会社IDCでワールドワイド・デジタル・トランスフォーメーション戦略担当リサーチディレクターを務める、Shawn Fitzgerald氏は以下のように述べています。「2020年までには、少なくとも55%の組織が、デジタル化を完了し、新しいビジネスモデルとデジタルにより実現される製品やサービスを通じて市場を変え、未来の新しい概念を提起するようになるでしょう
産業の新しいカテゴリー
Fitzgerald氏も指摘するように、インダストリー・ルネサンスでは新しいカテゴリーの企業が新しいカテゴリーの顧客に新しいカテゴリーのソリューションを作ることができるようになるのです。この変革はグーグル、アマゾン、アリババ、ウーバー、エアビーアンドビーに対する世界的注目よりもはるかに大きなうねりをもたらします。
スロバキアにあるAeroMobilでは例えば、垂直離発着飛行自動車の事前注文を受け付けています。これは、自動車と飛行機の長所を組み合わせた新しいカテゴリーのモビリティで、同社は車のパイロットという全く新しいカテゴリーの顧客を、これまで限られた人にしか許されていなかった、オンデマンドでの飛行移動という、全く新しいエクスペリエンスで惹きつけることができます。
同社のコーポレート・デベロップメント担当バイスプレジデントであるJonathan Carrier氏は以下のように述べています。「当社ではいつでもどこでもドアツードアでお客様を運ぶ飛行機能により、パーソナル飛行の裾野を広げようとしています」
航空機、自動車の専門家40人が設計に関わり、AeroMobilのバーチャル・エクスペリエンス・プラットフォーム上でバーチャルにつながりました。「複数のデータの流れとエクスペリエンスを統合プラットフォームにつなぎ、集約できたのは大きかったです」とCarrier氏は言います。
一方、デンマークのシューズメーカーである ECCOは、バーチャル・エクスペリエンス・プラットフォームを活用して、独自の実験的顧客エクスペリエンスを創り出しています。3Dプリンティングでミッドソールを顧客の足に合わせて1時間以内にカスタマイズするのです。
「2020年までには、少なくとも55%の組織が、デジタル化を完了し、市場を変え、未来の新しい概念を提起するようになるでしょう」
SHAWN FITZGERALD氏
IDC ワールドワイド・デジタル・トランスフォーメーション戦略担当リサーチディレクター
ECCOの Quant-U エクスペリエンスでは、スキャナーとセンサーを組み合わせ、個人の歩幅や歩行を測定し、最終製品である靴のミッドソールをカスタマイズします。ECCOはシューズと職人技が交差する場所にエクスペリエンスを据え、全く新しい市場への参入機会を創造すると同時に、新しい顧客層へのアプローチを可能にしています。
ECCOのイノベーションラボの責任者であるPatrizio Carlucci氏は以下のように述べています。「個々人に向けたエクスペリエンスの提案は非常に重要です。ここまで入り組んだ、シームレスな技術上の相乗効果が存在しなかった過去には、こうした取り組みは不可能でした」
ドイツの農機メーカー、CLAASはバーチャル・エクスペリエンス・プラットフォームを使用して、最新製品を設計しています。また、顧客である農業従事者が新しい製品を購入、カスタマイズできる、バーチャル環境を同社の顧客ポータルである「CLAAS Connect」を通じて提供しています。今後新製品の試運転もこのポータルで実現予定です。
顧客が閲覧、体験している間、CLAASはそのフィードバックを収集します。同社のバーチャル・エクスペリエンス・プラットフォームはこうしたフィードバックを分析し、次世代製品開発で取り込むべきヒントを生成します。顧客が製品を購入したのちは、IoT接続された装置を搭載した刈り取り機や脱穀機から、生成データが絶え間なくCLAASに還流されていきます。このデータはお金を生み、新しいビジネスモデルをCLAASにもたらします。
知識とノウハウ
こうした例が提示するように、産業界の性質そのものが変化しています。何世紀にもわたる標準的なモノを生産する方法から、早い勢いで進化する顧客の嗜好にこたえるための、価値を生み出すプロセスへと変化しているのです。
イギリスのマーケットリサーチ会社、Vanson Bourneの報告で以下が確認されています。「今日、企業のデジタルビジネス戦略の牽引者は消費者であるという回答が返ってきます。新しい世代の消費者はより早く、洗練され、パーソナライズ化されたサービスを際限なく追い求め、それが情報主導型の動きの速い企業を成功させる、肥沃な土壌を創り出しています。
迅速で、情報主導型の企業が未来を担っているとすると、成功へのカギはインダストリー4.0で強調しているような生産能力ではなく、豊富で利用しやすい知識とノウハウです。最終的に製造は工場との契約により委託できます。しかし、知識とノウハウはイノベーションの原材料であり、これまで解決不可能であったグローバルな課題への解となる、持続可能なソリューションを発明する人類の能力を決定づけます。
人類の批判的思考を刺激するデジタルに支えられたこの学習の復興は、生産の手段から価値生成のプロセスへ産業界を変革しました。これを実現するのはリアルの世界とバーチャルの世界が融合し、そこで持続可能なエクスペリエンスが創造、生産、やりとりされる、付加価値の高いバリューネットワークです。
バーチャル・エクスペリエンス・プラットフォームは知識とノウハウを収集、共有、実験、学習、適用するという、人類の能力を加速、拡張し、イノベーションというブルーオーシャンを解き放ちます。知識とノウハウの優位性が勝者と敗者を分けるとき、過去のインフラという重荷を抱えた企業は後塵を拝することになります。
「複数のデータの流れとエクスペリエンスを統合プラットフォームにつなぎ、集約することができたのが大きかったです」
JONATHAN CARRIER氏
AEROMOBIL コーポレート・デベロップメント担当バイスプレジデント
McKinsey & Companyは2017年の研究: “Perpetual Evolution: The Management Approach Required for Digital Transformation.(仮題:絶え間ない進化:デジタル・トランスフォーメーションに必要とされる経営手法)”で以下の考察をまとめています。「伝統的な企業のエンタープライズアーキテクチャでは企業が戦略を転換し、新しい製品やサービスを早いスピードで生み出し、ビジネスプロセスに組み込む必要のなかった過去の時代ばかりが参考とされます。
今日生き残るにはバーチャル・エクスペリエンス・プラットフォーム上のバーチャルな世界がもたらす、スピードが必須なのです。
インダストリー・ルネサンス・イン・アクション
Kreisel Electricはオーストリアを拠点とする、e-モビリティのスタートアップ企業で、電気自動車(以下EV)向けバッテリーの開発を目的として設立されました。しかし、まもなく同社は早い加速、限られた空間での高速運転、電気エンジンとの適合性といったEV固有の要件に合わせた駆動系を開発している会社が存在しないことに気づきます。そこで同社ならEV性能を劇的に改善できる駆動系を開発できると確信を持ち、駆動系のバーチャルなマッピング、開発を始めました。
Kreisel Electricの専門はバッテリーでしたが、バーチャル・エクスペリエンス・プラットフォームを通じて、EV駆動系の要件に精通したエンジニアとの協業が実現しました。
Kreiselで機械・電気工学部門長を務めるHelmut Kastler氏は以下のように述べています。「バーチャルな世界でプロトタイピングの重要性が証明され、ミスを低減でき、結果として開発プロセスでの不具合が減少しました。バーチャルな世界でミスを特定することで、生産担当者はどの部品が問題の原因となるかを確認し、設計にフィードバックし」問題の解決を図れるのです。
Kreisel Electricの例が示す通り、バーチャル・エクスペリエンス・プラットフォームは協業の範囲を社内外の関係者全員が関わるエコシステム、サプライヤー、パートナー、お客様、見込み客のバーチャルネットワークへと拡大します。これによりデジタル・エクスペリエンス・プラットフォームはインダストリー・ルネサンスのインフラとなるのです。
都市国家全体のバーチャル・ツイン(別名:デジタル・ツイン)である、バーチャル・シンガポールがそれに当てはまります。この4年、シンガポール国立研究財団(NRF)は精度の高い、歩道や通り、公園の木々に至るまでの2Dと3Dを使用してシンガポールのバーチャル・ツインを構築してきました。
シンガポールはバーチャルな世界を様々な関係機関が協業する場として活用している、と言うのは、NRFでこのプログラムの責任者を務めるGeorge Loh氏です。氏は例として、複数の規制当局や政府機関への許可申請が必要となる、シンガポールでのドローンの飛行を挙げます。
各省庁に別々に申請する代わりに、ドローンのオペレーターは提案飛行経路をバーチャル・シンガポール上で提出し、規制当局に検証のアラートを挙げ、質問をし、承認を得ることができます。その間、他の関係機関は同じ飛行経路に関するデータを自分のプロジェクト用に収集できます。
例えば、新しい地下鉄の路線の建設をモニタリングしたい、市街地の公園の植樹、といったリクエストを飛行経路に追加し、1度の飛行で複数機関のニーズにこたえることができます。
「デジタルツインは新しいコンセプトで、パラダイムシフトを必要とします。知識獲得、学習の全く新しい方法です」とLoh氏は言います。
自らを「芸術と建築の交差点」と自称するZAHNERは、バーチャルな世界のバーチャルなエクスペリエンスがいかに変革をもたらすかを示すもう1つの例です。
ZAHNERは瞠目するような形状の建物を建築することで有名で、ロサンゼルスのピーターソン自動車博物館では人目を惹く鉄製のリボンが波状に建物の外形を覆っています。この劇的なねじりと曲げはバーチャル・エクスペリエンスによってはじめて可能になったと言うのは、ZAHNERのTom Zahner氏です。
「制作しようとしていた曲がりくねった形状は、バーチャル・エクスペリエンスとしての3Dモデルにより、要素を選択、建物内のどこへでも動かすことができます。これを従来の技術で実現しようとすれば、形状が構造要件、製造性を満たしているかを都度確認するのに、永遠に近い時間がかかります。しかし、バーチャル世界により、建物内のどこへでも金属形状を動かすことができ、プロセスの指数関数的なスピードアップが図れます」
未来の働き方
インダストリー・ルネサンスは新しい知識体系により形成されます。20世紀の成功は限られた原材料の処理、限られた知識の量、サイロ化した経済といった持続可能性を担保できない土台の上に成り立っています。21世紀の産業界は、製品と自然、人々の生活を調和しようとする試みのほとんどがバーチャルな世界でおこなわれ、イノベーションに学際的、かつマルチスケール手法が必要とされるという、はるかに複雑な課題に直面しています。
「伝統的な企業のエンタープライズアーキテクチャでは企業が戦略を転換し、新しい製品やサービスを早いスピードで生み出し、ビジネスプロセスに組み込む必要のなかった過去の時代ばかりが参考とされます」
MCKINSEY & COMPANY
産業界が、絶え間ない発明と、再発明のプロセスとなる中、誰もが知識とノウハウを活用できるようにならなくてはなりません。21世紀の書物、活版印刷術にあたるのが、バーチャル・エクスペリエンス・プラットフォームです。それが実現するバーチャルな世界により、人々は知識とノウハウを活用し、リアルとバーチャルの双方で包括的なエクスペリエンスを協力して想像、創出、テスト、運用できるようになるのです。一般的に考えられているような学習量の低下ではなく、逆に、人々はルーチンワークから解放され、より多くを実践から学ぶようになるのです。エクスペリエンスにより築かれたノウハウは知識を拡張するようになるでしょう。
McKinseyの報告では以下の言及があります。「機械との連携を通じ、人のリソース調整能力、実践学習能力が高まります。かわりに、業務に対する期待が刷新され、企業構造を人と機械の混成チームが持つ拡張した能力に合わせて変える必要があります。次の時代の人と機械のパートナーシップです」
多くの国際的なプロジェクトを手掛ける、中国鄭州にある建築設計事務所Yellow River Engineering Consultingの活動はまさにこれにあてはまります。
同社の設計アカデミーのリーダーを務めるShunqun Yang氏は言います。「従来の設計ではミスや見落とし、干渉を避けるには複数階層の人による確認が必要でした。しかし、当社のエクスペリエンス・プラットフォーム上で可能となった情報の一元管理、リアルタイムコラボレーションにより、一度の確認で問題を早期に特定、解決でき、編集の繰り返しを避け、設計時間を短縮し、設計の効率性と製品の品質を上げることができます」
Yellow River Engineering Consultingの例が示したように、人材とバリューネットワークを知識とノウハウで強化し、新しいカテゴリーの持続可能なソリューションを提供する企業が未来のリーダー企業となるのです。
「知識とノウハウが当社の最も重要な成功要因です」
HELMUT KASTLER氏
KREISEL ELECTRIC 機械・電気工学部門長
Kastler氏は言います。「知識とノウハウが当社の最も重要な成功要因です。急速に成長する企業にとって、従業員全員が業務に必要な情報にアクセスできるようにすること、また従業員の知識とノウハウを共有することが大変重要となります」
バーチャルな世界はライブラリーとして、ワークショップとして、オペレーティングシステムとしてこの目的の達成を助けます。バーチャル・プラットフォームはまた、関連する知識とノウハウを従業員が取得、検索するのを助け、そこから再利用、学習、実験できるようにします。
NRFのLoh氏は言います。「書物を読むことで知識を学ぶことができます。しかし、デジタルツインでは理解の促進を助けるイマーシブなエクスペリエンスである、可視化を通じて新しい知識を習得します」
「アメリカ合衆国労働省労働統計局では、今日の学生が38歳を迎えるとき、8つから10の職を兼務することになると予測しています。バーチャル・エクスペリエンスが学習方法、特に職業における学習方法に大きな転換をもたらすことを示唆しています。
未来研究所は予見します。「2030年までに、労働者は業務を成功裏に実行するのに必要なスキルと知識を習得するための職業インフラを構築することになるでしょう。実践学習が仕事の流儀となり、新しい知識を習得する能力に、既にもっている知識よりも重い価値がおかれることになります」
バーチャル・エクスペリエンス・プラットフォームがバーチャルな世界を支え、労働者が企業の知識とノウハウを使えるようにし、教育や政府、ファブラボ、イノベーションハブでのパートナーによるトレーニングを補完します。
変革という命題
バーチャルイノベーションは既存のビジネスと運用モデルに破壊的な変革をもたらし、豊富な新しい機会をビジネスと社会に創り出すことで業界の形を変えつつあります。
知識とノウハウと同様、こうした機会は全員が活用できます。インダストリー・ルネサンスとバーチャル・エクスペリエンス・プラットフォームで実現するバーチャルな世界を通じてもたらされるプロミスが焦点となる中、ビジネスリーダーには今やより豊かで、自足可能な未来を創り出しそこから恩恵を享受するための道のりが明確に示されているのです。
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