プラットフォーム・ビジネスの台頭

デジタルネットワークが企業間競争を変える

Charles Wallace
7 June 2017

1 min read

アマゾンで本を買う、ユーチューブで動画を見るなど、誰でも一度はデジタル・プラットフォームを使ったことがあるでしょう。デジタル・プラットフォームとは、社会や市場のインタラクション(相互作用、交流)を支えるオンラインのフレームワークです。アリババ、イーベイ、グーグル といったプラットフォーム上の取引は、今や消費者の生活の一部になりました。現在、多くの企業がこうした価値の高い取引環境を生み出し、双方向のインタラクションを活性化させています。その結果、企業間競争のあり方にも一大転換が起きています。

デジタル・プラットフォーム革命を見逃した人がいるとすれば、インターネットのない離島やジャングル奥地の住人くらいでしょうか。タクシーに大打撃を与えて名を広めた 「ウーバー」から、独自の宿泊ビジネスを編み出した「エアビーンドビー」 まで、デジタル・プラットフォームは暮らしのさまざまな場面に変化をもたらしました。そして今、デジタル・プラットフォームの商取引は B2C (企業対消費者)を越え、B2B (企業対企業)の世界にも広がりつつあります。

国際的なコンサルティング会社であるアクセンチュア社は、同社の調査レポート『テクノロジービジョン 2016』の中で、「デジタル・エコノミーは前例のない成長軌道に乗っており、世界経済に占める割合は 2005 年の 15% から 2020年までに 25% に上昇する」、「この総計の急増分はプラットフォーム・ビジネスモデルによるもの」と予測しています。

米国カリフォルニア州サンノゼのアクセンチュア・テクノロジー・ラボでマネージング・ディレクターを務め、プラットフォーム開発に関する企業コンサルティングを担当する Michael Biltz 氏は、次のように述べています。「プラットフォーム・ビジネスモデルが複数の大手企業の将来設計に大きく関わっていることが見て取れます。すべての企業がプラットフォームを自社開発するわけではありません。大半の企業では、開発が始まったばかりの新しいエコシステムに参画し、有望で有益な役割を手にすることを目指しています」

アップルや フェイスブック といった B2C プラットフォームは暮らしの一部になっているものの、B2B プラットフォームの知名度はそれほど高いとは言えません。例えば、米国の暖房・空調機器メーカーであるジョンソン・コントロールズ社は、 Panoptix を展開しています。Panoptix はデベロッパーを支援する革新的なプラットフォームで、エネルギー効率化などのビル管理の諸問題に対応するアプリケーションを開発、販売できるほか、アプリケーションをユーザーにオンラインを通じて販売することも可能です。また、オーストラリアのある銀行は、中小企業がキャッシュフローを監視できるプラットフォームを、インドネシアで立ち上げました。オンラインツールを無償で提供する代わりに、銀行はデータを収集し、融資を必要とする企業やその信用度などを把握することができます。

米国マサチューセッツ州にあるテクノロジー専門の市場調査会社 IDC Research では、B2B プラットフォームを「産業特化型クラウド」と呼び、消費者主体のプラットフォームと区別します。IDC でクラウド、SaaS、およびインダストリー・クラウド関連担当プログラム・バイス・プレジデントを務めるエリック・ニューマーク氏によると、現在の B2B プラットフォームの収益は年間 20 億米ドルから 40 億米ドルと推定されておりB2C プラットフォームの、時価総額 2.6 兆米ドルには遠く及びません。ところが、B2B 企業が B2C プラットフォーム並みの収益を目指して邁進する結果、B2B プラットフォームは今後 5~6 年で急成長を遂げ、年間売上高は 250 億~300 億米ドルに達する見込みだといいます。

米国テキサス州に拠点を置くテクノロジー系コンサルティング会社のフロスト&サリバンは、B2B プラットフォームに関して、さらに強気の見方を示しています。2020 年までに v、B2B プラットフォームはB2C ビジネスの 2 倍に跳ね上がり、6.7 兆米ドルに達するというのです。特に、アリババをはじめとする中国のプラットフォーム企業が成長を牽引しています。これらのプラットフォームによって実店舗の必要がなくなり、中国都市部の中小メーカーでは地方の卸売業者や小売業者からの仕入れも可能になりました。

どちらの予測を信じるかはさておき、多くの企業が B2B プラットフォームの予算を計上していることは確実ですし、B2C プラットフォームの成長を後押ししたようなベンチャーキャピタルも(B2B プラットフォームは)必要としていません。B2B プラットフォームは小規模でも採算が取れるため、数百万人どころか、わずか数百人のユーザーで運用することもできます。つまり、中小企業であっても既存のパイプラインからプラットフォームのエコシステムに切り替えることは十分に可能なわけです。

ゆっくりと着実に

B2B プラットフォームはスロースターターだったとニューマーク氏は指摘します。当初、大手企業はクラウドインフラストラクチャーの導入に難色を示していました。クラウドの場合、遠隔地のサーバーファーム内でソフトウェアやデータを稼働するため、高額なソフトウェアや人件費が不要になる一方で、プラットフォームの専門知識をプロバイダーに一任することになります。

「セキュリティとプライバシーの懸念を払拭するまでに、かなりの時間を要しました」とニューマーク氏は振り返ります。「それが今では、とにかくクラウド第一の戦略になりました」

ニューヨークに拠点を置く研究機関、 Center for Global Enterprise によると、シリコンバレーや資金力の高いベンチャーキャピタリストを抱える北米は、全種類のプラットフォーム開発で首位に立っており、大手のグローバルなプラットフォームブランドをほぼ独占しています。わずかな差でアジアが続きますが、その大部分は中国のアリババの功績です。ヨーロッパは第 3 位につけているものの、言語の多様性や小規模に分散した市場が足かせとなり、2 位に大きく引き離されています。

最適な市場を見極める

英国ギルフォードのサリー大学デジタル経済センターで共同ディレクターを務めるAnnabelle Gawer氏は、プラットフォームを大まかに 二 つのカテゴリーに分けています。一方はトランザクション用のプラットフォーム、もう一方はイノベーション用のプラットフォームです。トランザクション用のプラットフォームとは、Amazon マーケットプレイスのように二 者間の商取引を促進するもの、イノベーション用のプラットフォームとは、アップルの アップストア のように第三者に補完的なテクノロジーの開発基盤を提供するものです。

B2B プラットフォームで目にする数字は比較的小さいかもしれませんが、そこで実行できるトランザクションには圧倒的な価値があります

Geoffrey G. Parker 博士
ダートマス大学セイヤー工科大学院工学教授

いずれのカテゴリーでも、プラットフォームが成功するか否かは「ネットワーク効果」にかかっています。ネットワーク効果とは、作り手が買い手を引き寄せ、それがさらなる作り手を引き寄せ、それがさらにユーザーを引き寄せるという上向きの成長スパイラルです。このスパイラルが発揮されると、瞬く間に無数のつながりが生まれ、指数関数的に増殖していきます。この特徴からプラットフォームは「マッチング・エンジン」とも呼ばれます。ただし、「真のプラットフォーム・イノベーターは単なる市場のマッチメーカーではありません。ふさわしい買い手と売り手をデータ駆動型アルゴリズムで仲介するだけではないのです」と、ハーバード・ビジネス・レビュー誌は2016年8月号に書いています。「彼らは新しい価値の創出にも尽力しています。プラットフォーム市場では、取引コストの削減はもちろん重要ですが、ユーザーの信頼構築も戦略としては同じくらい重要です。ユーザーに活力を与えるプラットフォームが成功を収めます」

David S. Evans氏とRichard Schmalensee氏が著書Matchmakers: The New Economics of Multisided Platformsの中で言うところの「摩擦」を取り除くことも、プラットフォーム成功の条件と言えます。経済学の「摩擦」とは、売り手と買い手の関係を築きにくくする取引コストを指しますが、結び付きを築く際の遅れを指す場合もあります。例えば、レストランの営業時間外(あるいは電話を取れない多忙な時間帯)に レストラン予約サイトのオープン・テーブル でディナーを予約した場合、時間の無駄が省けたことになります。つまり、時間の摩擦が取り除かれたのです。解消できる摩擦が大きいほど、プラットフォームのユーザーが増える可能性も高くなります。

利益を確保する

B2C プラットフォームと B2B プラットフォームの大きな違いは規模にあります。B2C プラットフォームで利益を確保するには、一般的に数十万人のユーザーが必要とされますが、B2B プラットフォームの場合、はるかに小規模でも順調に運用することができます。

「B2B プラットフォームのユーザーは相当少数の場合もあるのですが、20数社程度の企業が価値を見出し、プラットフォームの 一つに参加してくれれば、おそらく成立するでしょう」と IDC のNewmark氏は話します。

この単純計算から、さまざまな専門分野別の B2B プラットフォームが誕生してきました。例えば、コンテナ輸送業です。何千台もの輸送用コンテナが何日も置かれたままになることがあります。そこで、世界最大のコンテナ海運会社マースク社は、2016 年にアリババ傘下の OneTouch プラットフォームと提携し、中国企業を対象としたオンラインのコンテナ予約サービスを立ち上げました。その結果、海貨業者の仲介がなくなり、時間の摩擦とコストが軽減されました。

米国ニューハンプシャー州のダートマス大学セイヤー工科大学院で工学教授を務め、Platform Revolution: How Networked Markets are Transforming the Economy – and How to Make Them Work for Youを共同執筆したGeoffrey G. Parker 博士によれば、B2C プラットフォームで正のネットワーク効果を保つには価格の低さが重要です。一方、B2B プラットフォームでは価格よりも利便性が重視される傾向にあります。「B2B プラットフォームで目にする数字は比較的小さいかもしれませんが、そこで実行できるトランザクションには圧倒的な価値があります」

発想を見直す

やはりプラットフォーム開発を目指したいという企業は、従来のビジネスモデルを見直し、初期ユーザーを自社のプラットフォームに惹きつけるための餌を考える必要があります。

世界的会計事務所 KPMGでイノベーション・ソリューションズ主任を務める Peter Evans 氏は、次のように指摘します。「プラットフォームのビジネスは特に複雑です。市場自体の指揮を執り、適切なつながりを見極め、自社の関わり方を決めなければならないのです」

プラットフォーム・ビジネスに移行する利点は、ネットワーク効果がトランザクションやインタラクションに関する情報を大量にもたらしてくれることです。オーストラリアの銀行のように、データの集約とインサイトの抽出が可能になります。また、グーグルが検索エンジンの生成データを収益化しているように、データによる副収入も徐々に増えていきます。例えば、病院に導入されたプラットフォームは、病気や治療についての膨大なデータを収集しています。このデータへのアクセス代金なら、製薬会社などの部外者も率先して支払うのではないでしょうか。
シンガポールのプラットフォームコンサルティング会社 Platformation Labs の経営者であり、Platform Revolutionの共同執筆者であるSangeet Paul Choudary Choudary氏は、インドの マヒンドラ・トラクターズを例に挙げています。マヒンドラは元々、製品の製造から販売までを一手に担うパイプライン型ビジネスを行っていましたが、プラットフォーム開発を手掛けることになりました。顧客である農家が別の農家と結び付き、休耕期に農機具をリースできるプラットフォームは、エアビーアンドビーのユーザーが自宅の空き部屋を旅行者に貸す仕組みと似ています。マヒンドラのプラットフォームはユーザーを増やし、利益を上げています。顧客に貢献したいという善意から、副収入とデータバンクが生まれたのです。

プラットフォームのビジネスは特に複雑です。市場自体の指揮を執り、適切なつながりを見極め、自社の関わり方を決めなければならないのです

Peter Evans 氏
KPMGイノベーション・ソリューションズ主任

Choudary氏によると、競合相手が参加しているプラットフォームと、競合相手が運営しているプラットフォームのいずれかを選ぶのは、多くの B2B 企業にとって最大の懸念だといいます。

相互利益のために競合他社と協力することは、懸念の有無にかかわらず、「コーペティション(coopetition)」と呼ばれています。一部の企業にとって「競合相手が運営しているプラットフォームに参加するのは並大抵のことではありません。とは言え、業界最大手のプラットフォーム企業が圧倒的な市場シェアを獲得したときには、そこに参加する以外に選択肢はないでしょう。その企業が業界標準とみなされていれば、市場全体の形も変わり、従わざるをえないのです」と、Choudary氏は述べています。

プラットフォーム・ビジネスで多少変化はしたものの、この種のビジネスモデルは昔から存在しています。例えば、かつての米国では各銀行が支店ごとに POS 機器を導入しており、実用的とは言えない状況でした。そこで 1958 年に各行が共同で VISA ネットワークを形成し、ほとんどの銀行のクレジットカードを 一つの機器で使えるようにしました。

専門家たちも口を揃えるように、すべての好調なプラットフォームに共通要素を一つ持たせておくことは、実に周到なガバナンス方針と言えます。B2B ではトランザクションが大規模になりがちなため、ガバナンスは特に重要です。

「市場のインタラクションを円滑化したければ、人々に褒美を与えればよいのです」と、ダートマス大学のParker 博士は話します。「そして、悪事を働いた者は処罰するか追放します」

役割を見出す

プラットフォームは魅力的ではありますが、立ち上げ時の初期投資は法外な額になりかねません。オンライン決済サービス 、ペイパルの創業者の一人であるイーロン・マスク氏は、2013 年にカーンアカデミーのインタビューの中で、サービスにユーザーを惹きつけるまでに 6,000~7,000 万米ドルを費やしたと答えています。

巨額を投じてプラットフォームを自社開発するよりも、他社のエコシステムに参画する方が賢明だろうと、アクセンチュアの Biltz 氏は提案します。

「全員が次のウーバー や アマゾンになれるわけではないため、新しいエコシステムの中で果たせる役割を見つけようと誰もが必死になっています。その大部分はエコシステムのいずれかに参画することになります」

B2C プラットフォームがそうであったように、B2B プラットフォームでも、急成長とともに想像を超える新しい使い方が登場してくるはずです。何千人ものユーザーを遠隔地から呼び込めるインターネット、あらゆる種類の商取引でユーザーを結び付けるプラットフォーム、そして、重要なデータを大量に収集して振り分ける人工知能。これだけ揃っているのですから、B2B プラットフォームには、この上なく明るい未来が開けています。次の アマゾンやウーバーがいずれ頭角を現すでしょう。

For more information: http://3ds.one/3DEXPERIENCEplatform

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