独メルク社の子会社メルクセローノ社 で、バイオテクノロジー処理科学部 門の副ディレクターを務める Damien Voisard氏は、研究過程から製造工 程へと技術を移管させる方法をどう改善でき るかが、スピード、利益、高品質な製品を実 現するカギだと考えています。
これまでは、例えばある種のタンパク質を作 る場合、Voisard氏ら研究部門が新たな細胞 株を樹立し、その技術を臨床試験、規制当局 の審査、商業規模の生産に特化したプロセス 開発の専門家に移管していました。その後、 開発部門から製造部門にプロジェクトが移管 されます。
このような部門間の技術移管が滞れば、検証 ができない、あるいは分析手法に製造部門が 対応できないといった様々な問題を引き起こ す可能性があります。要するに、意図した業 績を上げられない製品になってしまうという ことです。
時間とお金
Voisard氏は、メルクセローノ社のプロセスを 改善することを目指し、研究者、プロセス開発者、製造担当者の情報共有を標準化するた めの技術プラットフォームの構築を支援しま した。このプラットフォームは、研究者と工程 設計担当が使用する電子実験ノート(ELN)シ ステムと、製造担当者が使用する製造実行システム(MES)を結びつけました。
このプラットフォームにより、製造担当者とプ ロセス開発者は、新規プロジェクトの効率性 を最大化するために必要な標準化された工 程を使用するように、最初から研究者を導く ことができます。Voisard氏の推計によると、こ のシステムのおかげで全体的な技術移管プ ロセスの効率性が2~4倍に向上したと言い ます。同氏は次のように述べています。「R&D から第1相試験向けの製造までスムーズに進 められます。ここまでで6ヵ月短縮することが できます。つまりお金になるということです」
敵は「可変性」
各社は新製品の投入スピードを劇的に向上 させようとしています。そのためライフサイエ ンス業界では、技術移管プロセスの改善が喫 緊の課題の一つになっています。医薬品の市 場投入が3ヵ月遅れるだけで、利益が15%以 上損なわれる可能性があります。しかしス ピードを上げても品質を犠牲にするわけに はいきません。製品のリコールが発生すれ ば、早期の発売によって得た利益が簡単に吹 き飛んでしまう可能性があります。
「R&Dの研究者が最初の実験をする際に、 同じ作業が工場でどのように行われるかという点を確実に 把握することができます」
PAUL MCKENZIE氏
ヤンセン ファーマスーティカ社製造テクニカル オペレーション担当シニア バイス プレジデント
ジョンソン エンド ジョンソン社傘下のヤン セン ファーマスーティカ社は、「プラット フォーミング」と呼ぶ技術移管プロセスを導 入しました。このプロセスにより、多様な部門 間の情報の流れが改善しています。同社で製 造とテクニカル オペレーションを担当するシ ニア バイス プレジデントのPaul McKenzie 氏によると、標準化されたプロセスや用語 (同社ではプラットフォームと呼ぶ)を作成す ることにより、「R&Dの研究者が最初の実験を する際に、同じ作業が工場でどのように行わ れるかという点を確実に把握することができ る」と言います。
製薬企業の最大の敵は「可変性」です。つま り、製造で使用する原料が何らかの点で臨床 試験で使用したものと異なったり、薬剤の製 造方法が変わって有効性が損なわれたりす る可能性があるということです。
McKenzie氏は次のように述べています。「プ ラットフォーム化により、可変性がある――つ まり製造時の可変性が高い――既知の事項 や、その見込みのある未知の事項を、研究者 が早期にかつ頻繁に調査できるようになりま した」同氏の推計によるとヤンセン社は、製品 をあるステージから次のステージに移行して 安定化させるのに必要な時間を10~40%削 減することができました。
研究者に価値をもたらす
米国マサチューセッツ州フラミンガムを拠点 とするIDCヘルス インサイツ社のリサー チ ディレクターのAlan S.Louie氏によれば、 技術移管システムは必ず、研究者たちが有益 だと思える設計でなければなりません。同氏 は次のように述べています。「研究者が気に 入って、仕事に役立つと実感できるシステム を設計することに本当の価値があるのです。 その逆の場合は、市場で受け入れられないで しょう」
技術移管は突き詰めれば科学的イノベーショ ンを解き放つためのものであり、束縛するた めのものではありません。技術移管は科学者 をルーチン的な検討事項から解放し、クリエ イティブな仕事のための時間を増やしつつ、 技術移管より良い成果を約束するのです.
QRコードをスキャンして 技術移管の詳細をご覧ください。: https://www.youtube.com/watch?v=sXDD_YhpMTw