可能性は無限大

デジタル分野の最前線で顧客価値を生み出す

B. Joseph Pine II
17 October 2012

「コーヒー業界では過去15年間にイノベーションがまったく起こっていない。」世界的なコーヒー製造会社のエグゼクティブが私にこう言ったことがあります。それに対して私は、「Starbucks社のことを忘れていませんか」と答えました。この方は、イノベーションを物理的な商品でしか考えられないため、Starbucks社がもたらした、挽いたコーヒーからコーヒーを飲むエクスペリエンスへのシフトというイノベーションを完全に見落としていたのです。

デジタル技術の力を 存分に活用すれば、 チャンスは無限大に広がります。 チャンスの限界を決めるのは私たちの想像力だけだからです。

B. Joseph Pine II

残念なことに、こうした見方に囚われているのは彼に限ったことではありません。経済危機が続いているにもかかわらず、企業のトップや政策立案者の思考回路に、「エクスペリエンス・エコノミー」の時代が既に始まっているという事実が十分には浸透しておらず、真に新しく、しかも切実に必要とされている経済秩序が完全に確立されるには至っていません。商品やサービスばかりが重視される時代が続き、より活力に満ちた企業、より安定した経済へのシフトが阻害されています。経済成長を促して、雇用機会を創出し、経済的繁栄を維持するためには、エクスペリエンスを経済生産物の1つの形として認識する必要があります。

デジタル技術が、ほぼあらゆる業界の状況に新しい局面をもたらしていることも無視できません。企業は、現実と仮想を融合させるデジタル分野の最前線で、エクスペリエンスにイノベーションをもたらすことを追求していかなければなりません。どこへ行くにもiPod、iPhone、iPadなどのハイテク・デバイスを携行する人の数はますます増えています。企業はこれらの人々にデバイスをタップさせるだけで、彼らの時間、関心、金銭を自分たちに向けさせることができるのです。 

たとえば、拡張現実(AR)によって世界旅行のエクスペリエンスがどのように変化するかを考えてみましょう。スマートフォンを使えば、眼前の光景の上に情報、物体、さらには人物を仮想的に重ね合わせて表示できます。また、ARが学習にもたらす影響を考えてみてください。たとえば歴史学であれば、史跡が時代ごとに変遷する姿や大昔に起きた戦闘の様子を見る、植物学であれば、植物園にある植物の属や種、薬効などを見分ける、といったことが可能になります。 

最もリッチなエクスペリエンスをもたらすのが現実であることは今後も変わりません。しかし、仮想化技術の浸透が進む中、企業にはますます、現実と仮想の2つを融合させ、今まで想像されたこともない革新的なエクスペリエンスを生み出すことが求められています。今日利用できるようになったデジタル技術の力を存分に活用すれば、チャンスは無限大に広がります。チャンスの限界を決めるのは私たちの想像力だけであり、想像力に終わりはないからです。

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