ワルシャワ・ゲットーでホロコーストを生き延びたとして、よく知られている2組のユダヤ人家族がいます。創薬化学者(メディシナルケミスト)であり、パリ大学で研究ディレクターを務めるFrancine Acher氏は、そのユダヤ人一家を祖先に持ちます。一千万人ものパーキンソン病患者の生活を改善することになる彼女の不屈の精神は、このことから培われたといいます。
「家族は私に、尽きることのない活力と意欲を与えてくれました。戦時中に過酷な生活を強いられた母にとっては、その日を生き抜く力が重要だったのです。母から受け継いだ強い熱意が私に根付いており、私は何かをするときに全力を尽くします」
Acher氏は、これまで幾度もの逆境に前向きな姿勢で臨んできました。父親を亡くしたのは、わずか14歳のときです。また、フランス生まれの第一世代だった彼女は、常に友だちから浮いていたといいます。
「いやな経験をしても、そんなことで人生の成功をあきらめる気はありませんでした。私は周囲から浮いていましたが、それでますます、やってやろうという決意を強くしたのです」
Acher氏は優秀な学生となり、早くから科学に夢中になりました。そして博士課程で取り組んだ生化学の生産技術研究が認められ、パリの政府研究機関であるフランス国立科学研究センター(CNRS)に採用されます。そのCNRSの支援を得て、カリフォルニア大学バークレー校で研究を続けました。パリに戻ってからは、パリ大学に新設された生物学のための化学の研究施設に所属し、32年間にわたって勤務しています。
Acher氏による初期の取り組みの一つは、研究者が血液凝固の仕組みを理解するための分子を作り出すことでした。
「もし [この薬が] うまくいけば、一千万人を超える [パーキンソン病の] 患者さんの生活を変えることができるでしょう。そうなれば、私のライフワークは実を結びます」
Francine Acher氏
創薬化学者(メディシナルケミスト) パリ大学研究ディレクター
私が創出しようとした分子は、意図した目的は果たしませんでした。しかし、中枢神経系への応用ができそうだと気づいたのです。私は、モンペリエのCNRSでこの分野を手がける、Jean-Philippe Pin氏が率いる研究者グループに声をかけました。今もこのグループと研究を続けています。この計画の始まりからかかわっており、それが私にとってとても重要なことです」
Acher氏と同僚の研究者たちはPin氏のチームとともに、パーキンソン病、精神疾患、痛み、依存症、てんかんなどの中枢神経疾患に重要な意義を持つ、画期的な発見をいくつも成し遂げました。
「化学者、薬理学者、分子生物学者、行動生物学者で構成される、さまざまな分野が協力し合うチームです。3Dモデリング・ソフトウェアとシミュレーション技術を利用することで、まず受容体が活性化する仕組みの研究が大幅に進みました。さらにバーチャル・スクリーニングで、ある分子を発見し、そこから特に有望で厳選された誘導体をいくつも開発することができました。この誘導体により、狙った受容体(mGluR)が、パーキンソン病、精神疾患、痛み、依存症、てんかんの治療ターゲットになりうるかどうかを検証することができました。mGluRの研究には製薬会社も参加していました。この研究はほかの分子の開発にもつながり、その一つは今、パーキンソン病治療の臨床試験で使用されています」
この研究は、既存の中枢神経治療による副作用の緩和に寄与するとして、大きな期待が寄せられています。
「現在、パーキンソン病患者の70~80%がレボドパを服用しています。これは1960年代に開発された薬で、パーキンソン病のさまざまな症状の治療に有効なのですが、障害ももたらします」とAcher氏は言います。
「私たちが初期に発見した分子から派生した薬によって、そうした副作用の多くを緩和できる可能性があります。そんな薬の一つが、多数の患者に対する有効性が証明されれば、[米国] 食品医薬品局の承認を得られる段階まで来ています。うまくいけば、一千万人を超える患者さんの生活を変えることができるでしょう。そうなれば、私のライフワークは実を結びます」
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