シリコン、複合材料、チタニウム、タッチ感応ガラスに加え、その他の多くの革新的な素材が、複合材料のボディを持つ航空機からコンピュータのように機能する携帯電話まで、現在の最も創意に富んだ製品を可能にしてきました。
将来の画期的な素材は、何をもたらしてくれるでしょうか。素材の専門家は、2013年の三大トレンドとして、バイオマテリアル、新機能素材、軽量車両向けの素材を挙げています。
キノコの第二の人生
この約10年間、バイオテクノロジーを利用して作られた素材が素材研究の中心を占める状況が続いています。たとえば接着剤で知られる技術系の多国籍企業である3M社は最近、石油化学系発泡体の代替品として、菌糸体(「キノコの根」)を利用した自己集合性の接着剤を製造する新興企業、Evocative Design社に出資しました。
素材の専門家は、2013年の三大トレンドとして、バイオマテリアル、新機能素材、軽量車両向けの素材を挙げています。
3M New Venture社の社長であるStefan Gabriel氏は次のようにコメントしています。「Ecovative社のビジネスアイデアは、持続可能な高分子技術における3Mの実績を高めることになります。これは、自動車、建設、建築などのさまざまな業界に大変革をもたらす可能性がある、ある種の画期的かつ破壊的技術です」
Ecovative社は、キノコの胞子からEcoCradlesと呼ばれる包装材を製造しています。Steelcase社やDell社を含む「フォーチュン500」の多数の顧客企業が、費用効果が高く環境に優しい、プラスチック包装材の代替品として、EcoCradlesを使用しています。Ecovative社のディレクターであるJerry Weinstein氏は、「EcoCradlesは、既存の工程よりも大幅に少ないエネルギーで、農業副産物から製造されます。従来の発泡体としての役割を果たしつつ家庭で堆肥にすることもできるのです」と語ります。
ポパイ方式で電力を生産
米国テネシー州ナッシュビル市のヴァンダービルト大学で開発中の別のバイオ素材では、ボルタ電池の製造に、ほうれん草のタンパク質が使われています。これは、ほうれん草を食べるとパワーアップする漫画のキャラクター、ポパイも満足するイノベーションでしょう。
「開発者は材料の扱いも、新素材のコンセプトも 環境に優しいものにすることに重点を置いています」
Sascha Peters博士
Haute Innovation社CEO
植物は光合成として知られる作用で太陽光をエネルギーに変換しています。この作用に基づくハイブリッド太陽電池は、従来の光起電力素子ほど変換効率が高くありませんが、ヴァンダービルト大学の研究者たちは、このボルタ電池は3年以内に採算が取れるようになると考えています。
一方、シュトゥットガルト大学(ドイツ)の材料科学研究所は、貝殻や藻の物質合成を模倣した高性能セラミックスを製造しています。このバイオミネラル化の作用では、エレクトロニクスや医学での応用を含め、高機能密度のデバイス向けのセラミック成分が作られます。
「バイオミネラル化を利用して高機能セラミックスを作ると、素材に新たな性質が加わり、従来の方法で製造したものよりずっと環境に優しい素材になります」と解説してくれたのは、数十年間にわたりセラミックスを研究してきた、シュトゥットガルト大学材料科学研究所のJoachim Bill教授です。
リサイクル管理
多くのバイオマテリアル研究プロジェクトでは、環境への配慮が大きな推進力となっています。材料研究のコンサルティング会社Haute Innovation社のCEOであるSascha Peters博士は、バイオポリマー(再生可能な原料から製造され、生物学的に分解する合成材料)が、まもなく材料研究の主流になると予測しています。「化石燃料の供給には限りがあることが後押しになって、開発者は材料の扱いも、新素材のコンセプトも環境に優しいものにすることに重点を置いています」とPeter氏は語ります。
しかし、「バイオ」イコール「地球に優しい」という意見に異を唱える人もいます。材料研究を専門とする国際的なコンサルティング会社であるMaterial Connection社の、ライブラリー&マテリアルリサーチ担当ディレクター、Karsten Bleymehl氏は、この考えには危険が潜んでいると指摘します。
新しい外観を実現する 高性能な面素材
Bleymehl氏は、新素材における二つめの大きなトレンド、つまり、よく知られている素材に機能を付加し、応用範囲を広げていくことも (バイオマテリアルと)同じくらい重要だと述べています。
機能の追加について特に有望な材料の一つはコンクリートです。コンクリートは、耐圧性や耐久性を含む品質面で高く評価されてきましたが、柔軟性がないことでも知られています。ただそれも、これまでのことです。現在では、柔軟性のあるロール状のコンクリートが米国の繊維企業、Milliken社から提供されています。Milliken社は、製造元であるConcrete Canvas Ltd.社のスタートアップ時に同社と提携しました。
コンクリートの優れた特性は、BlingCreteと名付けられた、新しい材料分野を生み出すきっかけにもなりました。BlingCreteは、下地となる材料にガラスの微小球を埋め込んで製造した、逆反射表面を持つコンクリートです。ガラスの微小球が、入ってくる光を光源へ直接反射し、二次元の平面に三次元の幻影を作り出します。
BlingCreteの有望な用途としては、建設時に危険な場所を示す安全関連の標識が挙げられます。統一的な案内システムのデザインや、建物のファサード、床、天井などの新しい表面材料として使用することもできます。メーカーのHering International社は、ドイツのジーゲンに近いブルバハにあり、最近、その革新的材料に対して、ドイツデザイン評議会からDesignPlus賞を授与されました。審査員は、コンクリートが姿を変える力に特に感銘を受けたと語りました。
軽量車向けの材料競争
環境への配慮に後押しされた三つ目の重要なトレンドは、自動車製造用の軽量素材を追求する動きです。スポーツカーや高級車の車体には、繊維強化複合材料が長年使われてきましたが、研究者たちは、軽量素材をより広範囲に開発しようとしています。
この部類の有望な新素材の一つが発泡アルミニウムです。超軽量で音を減衰させ、衝突時の運動エネルギーを吸収する素材であり、ドイツ・ブレーメンにあるFraunhofer Institute for Manufacturing Technology and Advanced Materials(IFAM)のJoachim Baumeister氏が発明しました。「金属でできた発泡体は、最初は意外に思われますが、乗り物の軽量構造用途には最も理にかなった発明の一つです」と、Baumeister氏は語ります。
この発泡体を製造するには、まず粉末アルミニウムと発泡剤(通常は水素化チタン)の混合物を圧縮成形し、次にその成形体を融点まで加熱して膨張させます。最初の適用例の一つに、アウディQ7のラゲッジネットがあります。衝突時には、荷物の前方への動きをアルミニウムが減速させます。アウディQ7のラゲッジネットの部品は、オーストリアのAlu Light社が、完全に自動化された工程で年間10万個製造しています。
発泡アルミニウムは、車の部品以外にもさまざまな工業製品に使われる可能性を秘めています。たとえば、高所作業車や鉄道車両でも、発泡アルミニウムの減衰能力を活かすことができます。
「高剛性とエネルギー吸収が重要な応用では、通常の場合、金属発泡体を使用するのが合理的です。金属発泡体のもう一つの特性は、熱伝導率が低いことです。そのため、断熱用途にも適しています」とBaumeister氏は述べています。
既知の元素の特性を変化させたり、有機物の新しい用途を見つけたりするこうしたプロセスによって、材料科学は可能性の限界に挑み、製品のイノベーションが実現される世界への扉を開いています。