持続可能な医薬品開発

製薬業界におけるイノベーションとサステナビリティの両立

Rebecca Lambert
14 June 2019

世界中の規制当局の支援を受けて、デジタル・テクノロジーを進んで活用する製薬会社が増えてきています。さらに効率の高い持続可能な経営を目指すと同時に、より多くの命を救うためにヘルスケア・イノベーションも推し進めています。

2018年の暮れ、エディンバラ大学ロスリン研究所の科学者が、遺伝子操作したニワトリの繁殖に成功したことを正式に発表しました。このニワトリは、創薬やバイオテクノロジーの分野で広く使用されているタンパク質を豊富に含んだ卵を産むことができ、そのプロセスを利用すると工場生産の100分の1の費用で済む上に、持続可能性にも優れています。

このプロセスから治療に使用できる薬を生産できるようになるまでに、あと数年は研究を続けなければならず、規制当局の承認を得るのにも数十年かかる可能性もあります。それでも研究者たちはこの研究によって、さらに効率的な創薬への道を拓くことになるかもしれない「将来性のある概念実証」が可能になると言います。

こうしたロスリン研究所のプロジェクトは、新薬の開発プロセスの短縮に重点を置いた画期的な研究の一例にすぎません。世界の人口は増え続け、高齢化も進み、慢性疾患の罹患率も上昇する中、製薬会社は待ったなしの状態にあり、もっと多くの治療法をいち早く見つけ出し、薬剤の収率や品質も高めなければなりません。それと同時に、創薬にかかるコストを抑えて、環境への影響を軽減する必要もあります。

こうしたすべてのことに対処するのは大変なことです。医薬品・医療機器業界で分析サービスを提供するAxendia社の社長Daniel Matlis氏は、ライフサイエンス分野において競争優位性をもたらす差別化要因として、イノベーションとサステナビリティを組み合わせた集中的な取り組むが非常に有効だと考えています。

「環境に対する意識が高まったときにこそ、コストを管理しながら結果を改善する機会があります」と同氏は述べます。「患者や従業員とその取り巻く環境に配慮した行動と、価値の向上による関係者や株主への貢献のあり方を追求していくことで、率先してイノベーションとサステナビリティに取り組むその時に、企業は素晴らしい結果を目にすることができるのです」

持続可能な企業とは

『Corporate Knights』誌が毎年公表している「Global 100」インデックスは、世界で最も持続可能な企業をランク付けしたものです。再生可能エネルギーの使用状況や廃棄物発生状況、サプライチェーンの持続可能性など、さまざまな基準に照らして企業がランク付けされています。

要するに持続可能な企業とは「利益の追求と生活・社会・環境に対する責任を両立させている企業」のことだと、カナダのトロントを拠点にメディアや投資顧問に携わる企業、Corporate Knights社の調査責任者であるMichael Yow氏は言います。

2019年に4年連続ランクインした日本のバイオ医薬品メーカー、武田薬品工業が良い例です。

同社の社長兼CEOのChristophe Weber氏はこの一報を受けて、「患者さんを中心に考えるというバリュー(価値観)を根幹とする、グローバルな研究開発型のバイオ医薬品カンパニーとして、そして責任あるグローバル企業市民として、我々のやるべきことは必然的に人生を変える薬を提供することから持続可能な価値を築くことまでに及びます」と述べています。数あるサステナビリティの成果の中で『Corporate Knights』誌がとりわけ評価したのは、武田薬品工業がイノベーション能力のある企業の上位25%に入っていることです。

デジタル化の進展

こうした企業の多くにとっては、科学的なモデリングやシミュレーションの分野における高度なテクノロジーの発展は、薬やワクチン、医療機器などの発見を早めるだけでなく、製造効率を改善する可能性も秘めています。

医薬品・医療機器分野では、シミュレーションがますます強力なオプションになってきており、人を危険にさらすことなく新薬の処方を試すことが可能です。たとえば、カリフォルニア州のスタンフォード大学の科学者たちが「リビングハートプロジェクト」に参加しています。このプロジェクトでは、科学的に正確なデジタル3D心臓モデルを用いて、臓器全体に及ぶ薬の影響をシミュレーションし、致死性不整脈など薬の副作用も予測できます。この副作用のリスクが、米国食品医薬品局(FDA)が新薬を承認しない最大の理由になっています。

「患者や従業員とその取り巻く環境に配慮した行動と、価値の向上による関係者や株主への貢献のあり方を追求していくことで、企業は素晴らしい結果を目にすることができるのです」

「患者や従業員とその取り巻く環境に配慮した行動と、価値の向上による関係者や株主への貢献のあり方を追求していくことで、企業は素晴らしい結果を目にすることができるのです」

DANIEL MATLIS氏
AXENDIA社 社長

2017年7月、FDA長官Scott Gottlieb氏は、消費者が科学の進歩をフルに活用できるように支援する計画の概要を説明した時に、次のとおり述べています。「モデリングとシミュレーションは、それぞれ異なるデータセットを体系づけて、代わりとなる試験デザインを検討する上で非常に重要な役割を果たします。こうした機能を活用することで、臨床試験のさまざまな段階において、安全で効果のある新しい治療法をもっと効率的に発展させることができる」

たとえば、2019年4月には、世界的なバイオ医薬品メーカーのアストラゼネカ社が、慢性的な腎臓疾患を含む複雑な病気の新しい治療法を発見して開発するために、人工知能と機械学習を使用することを正式に発表しました。同社はこうしたテクノロジーを活用することで複雑な病気の基本的なメカニズムをさらに理解し、もっと早い段階で潜在的な創薬ターゲットの候補を特定する計画をしていると言います。

同社のプレスリリースにおいて、バイオ医薬品研究開発部門エグゼクティブ・バイス・プレジデント兼プレジデントであるMene Pangalos氏は「研究に携わる科学者たちが利用できる膨大な量のデータは、年を追うごとにすさまじい勢いで増加しています。こうした大量のデータに秘められた可能性を引き出せば、複雑な病気の生物学的理解を深めることができ、消耗性疾患を治療できる創薬ターゲットを特定することができる」と述べています。

シミュレーションによって、医薬品・医療機器業界の企業はプロセスを最適化して、薬剤の製造を発展させることができます。

「バイオ医薬品の製造におけるスケールアップは、線形のプロセスではありません」とMatlis氏は言います。「製品を15リットル(約4ガロン)の容器で製造する方法を知っているからと言って、1,500リットル(約400ガロン)にスケールアップするときに、単にすべてを100倍にすればいいというわけではありません。さまざまなプロセス変数を考慮して製品の品質や収率を確保する必要があります」

「従来の企業では、持続可能な安定した状態の製造を実現するために、実際にスケールアップした試めし製造を行い、プロセス変数や製造設備の精度を高めていました」とMatlis氏は語ります。「今日の革新的な企業では、製品、プロセス、設備のデジタルツインを活用して、プロセスのモデル化とシミュレーションを行っています。それによって、スケールアップしても品質、効果、効率の高い持続可能な製造を実現し、必要な物理的な試験や検証の実施を最小限に抑えることができます」

前向きな変化を後押し

FDAのような規制機関は、業界で技術革新を利用することを推奨するか否かにおいて、中心的な役割を果たします。

2018年に開催されたコンファレンスにおいて、「現時点では、実際、コンピューターによるモデリングやシミュレーションが規制に関する意思決定を促進する役割を果たしているわけではありませんが、そういう方向に向かってほしいと思います」と、FDAの応用力学部門の次長Tina Morrison氏は述べています。「臨床試験や動物実験の裏付けにかかる負担を軽減したいのです。単に20年間やってきたから必要だと思っている仕事ではなく、必要な仕事をやりたいのです」

Matlis氏によると、製薬会社は最終的には製品ライフサイクル全体にわたって包括的な方法で、創薬と医薬品製造における持続可能性に目を向ける必要があると言います。

「これは単に廃棄物や梱包を減らせばいいという話ではなく、イノベーションや持続可能性に関する考え方を企業文化に深く浸透させた上で、テクノロジーを導入して目標を達成させるということです」

新薬の発見、開発、製造でモデリングやシミュレーションを利用することで強力かつリアルな結果が得られるということを、製薬会社の経営陣に納得してもらうことが最大の課題の1つだと、同氏は言います。

「会社の役員と話をするときに、リビングハートプロジェクトを引き合いに出してモデリングやシミュレーションについて説明すると、そのリアクションのほとんどが、『ありえない。こんなことできるわけない』という感じです」とMatlis氏は述べ、次のように締めくくります。「こうしたテクノロジーが単なる流行ではないことを認識してもらう必要があります。さまざまなテクノロジーが物語の中の空想と考えらえていた時代から、科学によって実現する時代へとパラダイムをシフトさせる必要があるのです」

For more information on applying simulation to life sciences, please visit: https://go.3ds.com/fL9

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