世界中の学校で、教室のデジタル化に巨額の投資が行われている一方で、教育評論家たちは、必要不可欠な条件、つまり、テクノロジーの利用方法と授業での活用方法に関する教師への指導が忘れられていることが多いと指摘しています。
英国を本拠地に、英国、サウジアラビア、南アフリカ、スペインでのIT教育カリキュラムの作成 を 手 掛 ける 教 育 コン サ ルタント企 業LearnNewStuffのクリエイティブ ディレクターで、教師経験もあるDickenson氏は、次のように述べています。「たった1度ですが、あるとき学校で、『今までになかったものがこんなにあって、一体どうしろというのか』と教員が疑問の声をあげました。新しいテクノロジーがクラスに導入されるときに、教員たちは支援もなしに順応することを期待されましたが、結局使われなくなってしまいます。」
米国最大の教員組合である米国教育協会(ENA)で、教育政策とその実践を担う部署のシニア ポリシー アナリストを務めるBob Tate氏も同じ意見で「購入する新しいテクノロジーに比べて、その使い手になると予想される現場の教師に向けた専門技能の開発については目が向けられておらず、アプローチに計画性がなかったり、後回しになることがあまりにも多い状況です」と述べています。
テクノロジー利用のパラドックス
世界中が生徒にテクノロジーを身につけさせようと躍起になっているにもかかわらず、多くの調査で、日常授業の一部としてテクノロジーを利用している教師は比較的少数であると示されています。米国ニューヨーク州に本社のある市場調査会社Harris Interactiveによる2013年の調査では、米国で調査対象となった教師の86%がテクノロジーの利用について「重要である」あるいは「絶対に必要である」と回答したものの、教科に特化したコンテンツ ツールを使用している教師はわずか19%で、デジタル カリキュラムの使用率は14%にすぎず、私物のデバイスを持ち込んで利用するBYOD(Bring-Your-Own-Device)プログラムの導入率は10%未満であることが明らかになっています。
欧州、アフリカ、アジアでも、次の通り、同様の結果が出ています。
意図と現実のギャップを埋めるために、教育専門家は教師のトレーニング強化を推奨しています。元教師で、現在は米国ボストンに本拠 を 置 く国 際 的 非 営 利 団 体Education Development Center(EDC)でシニア テクノロジー スペシャリストを務めるMary Burns氏は次のように述べています。「内容、指導、評価から成る学習プロセスの全要素をサポートするテクノロジーの統合に本当の意味で役立てるためには、専門技能の開発を、問題解決、高次の思考スキルの伝達、効果的実施方法のモデル化、異なるタイプの集団に教える教師への支援に重点を置き、実践的に行う必要があります」。
「学校は、適切なトレーニングを実施するためには予算の確保が必要であることを認識しなければなりません。」
ANDY DICKENSON
元教師、LEARNNEWSTUFF社クリエイティブ ディレクター
教育者への教育
米世論調査団体Pew Research Centerの社会科学アナリストが2013年に米国の教師2,462名を対象に実施した調査では、調査対象の教師の85%が、授業にデジタル ツールを効果的に組み込む新たな方法を模索する必要があると明らかにしています。教師の4人に3人は、インターネットや他のデジタル ツールの利用することで、知っておかなければならない授業内容の範囲とスキルが増え、新たな時間が必要になったと答えています。
「学校は、適切なトレーニングを実施するためには予算の確保が必要であることを認識しなければなりません。単発の講習会を数回実施しても役には立ちません。継続的かつ発展的な専門技能の開発が重要です。教員養成大学は適当な授業法を確立し、適切な最新キットを用意する必要があります。教科リーダー向けの専門コースも提供できれば、そこで学んだ教師が指導役を果たせるようになるでしょう」とDickenson氏は述べます。
EUが委託したある調査では、欧州の生徒のうち、必修科目としてITトレーニングを受けた教師に授業を受けている割合はわずか25~30%であるにもかかわらず、プライベートな時間を使い、個人的にIT学習に取り組んだ教師の授業を受けている生徒の割合は、全学年で約70%にも達していることが明らかになっています。
30%
欧州の生徒のうち、必修科目としてITトレーニングを受けた教師に授業を受けている割合はわずか25~30%である。,EUによる調査:「教育におけるIT」
成功のカギは連携にあり
オンラインによる専門家とのコラボレーションも有効な方法です。前述のEUレポートによると、幅広いオンライン リソースとネットワークの利用が可能であるにもかかわらず、そのメリットを活用している教師はごくわずかだと報告されています。その結果として、利用可能なオンラインのプラットフォームと機会についてさらに浸透を図るよう教育管理者に提言しています。
「実践についてのオンライン コミュニティは、大きな成果をもたらす可能性があります」と語るのは、米国カリフォルニア州に本拠を構える世界的教育ネットワークHotChalkのチーフ ラーニング オフィサーであるNicholas Smith氏です。「他の教師が何をしているのか、つまり、何が有効で何がそうでないか簡単にわかるように、一番いい方法がリストの一番上にパッと表示されるようにすれば、教師たちのテクノロジー利用効率の向上に大いに役立つだろうと考えています。」
「自らの教育活動を一新させるためにテクノロジーを利用している教師は、まだ一般的ではなく、例外的だと言えます。」
JONGHWI PARK
ユネスコ、教育における情報通信テクノロジーに関するプログラムの専門家
米国バージニア州にあるヨーク郡学校課の教育長であるEric Williams氏は、オンライン利用時に期待される学習曲線の上を行く成果を上げています。Williams氏はTwitterを利用して(Twitter ID:@ewilliams65)、同郡内で新しい印象的な方法で授業を実施した教師にコンタクトしたり、自身のフィードに書き込む教育関係者のネットワークから情報を得たりしています。
「校長や教育長は、教師と連携して教育と学習に関する共通のビジョンをつくり上げていくことが必要です。一旦ビジョンが共有されれば、優れた教師が効果的なテクノロジー利用モデルを作ることになって、そのビジョンが学校と地域全体に効果的なテクノロジーの利用法を広める推進力として働きます」とWilliams氏は語ります。◆
2012年、英国リンカンシャー州のBucknall小学校では、全生徒に1台ずつiPadが支給されました。同校でキー ステージ2(訳注:7~11歳の生徒の学年区分)の教師を務めるGarry Cassey氏は次のように述べています。「もちろん、最初は課題がありました。テクノロジーを利用することが決まったとき、教師が感じていた自信の程度にはばらつきがありました。そこで、全員が同じ手本にならって導入を進められるようにする必要があったのです。」 Cassey氏は、教師たちにはトレーニングとサポートが必要だった、と振り返ります。「当時の主任教員はApple社主催の教育関連会議に何度か出席し、そこで得た情報を他の教員たちにフィードバックして、このプログラムの大きな支えになってくれました。」また、同校では外部のコンサルタントを定期的に教室に招き入れ、授業の計画や教育的なゲームの作成について協力を仰いでいます。 Cassey氏は、テクノロジーが学校を一新したと確信しています。「テクノロジーは、教師が生徒一人一人の学習ニーズを満たし、より適切な評価を行う助けとなっています。そして何より重要なのは、テクノロジーによって、生徒たちが学習を楽しめるようになっているということでしょう。」成功への道のり
スキャンすると、テクノロジーを授業に取り入れている教師についてご覧いただけます。http://www.youtube.com/watch?v=gwEBWkA1TDA