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油田・ガス田の「デジタルツイン」


22 June 2018

石油・ガス業界の川上部門は、探鉱・生産活動におけるデジタル技術の利用を推進し、プロセス最適化と効率向上を実現することで、ビジネス利益を改善させつつあります。複雑な坑井の設計の再現から、坑井制御システムの改良、暴噴リスクの大幅な削減に至るまで、この業界のデジタル・トランスフォーメーションを後押ししているのが、新たな「デジタルツイン」の概念です。

1967年にボーイング737型旅客機の生産が始まって以来、ジェット機1台の製造に要する期間は当初の数カ月間から、わずか8日間まで短縮されました。ボーイング社は、いかにしてこれを成し遂げたのでしょうか。同社は多くの場合、高性能なコンピューター・ソフトウェアを利用して、製造プロセスや組織、効率を改善するという課題に取り組みました。

今日の石油・ガス業界もまた、同様のデジタル・ソリューションを利用することで、業務リスクの削減と、資産のライフサイクル全体を通じた優れたパフォーマンスの確保を図っています。具体的には、そうしたソリューションは油田の地上と地下のオペレーションを、高度な3Dシミュレーションである「デジタルツイン(デジタル上の双子)」として、リアルタイムで監視・モデル化・表示します。この「デジタルツイン」は、進行中の油田・ガス田プロジェクトから生じる膨大な量のデータが実際のところ何を意味するのか――そして、それに基づいていかに行動すべきなのか――を可視化し、理解するための助けになります。

「事業の正確なデジタルモデルを利用することには、さまざまな利点があります」と話すのは、ドバイを拠点とする経営コンサルティング会社ExcellenceO2社のCEOを務めるNabil Kassem氏です。「最大の利点は、適切なモデルを利用すれば、油田またはガス田に関する重要な意思決定を、複数の専門家が同じ問題に異なる視点で取り組む場合に生じ得る混乱とは無縁の状態で、素早く下せるようになるということです。その結果、より多くの情報に基づいた、より迅速な意思決定を実現できます」

生産性ギャップの縮小

世界的な経営コンサルティング会社のマッキンゼー社が最近発行したレポートによれば、石油・ガスの海上プラットフォームは「最大生産力のおよそ77%で運用されている」のが通例です。この数値は、業界全体で約2,000億米ドル(1,700億ユーロ)のパフォーマンスギャップが存在することを示唆しています。なぜそのようなことが起こっているのでしょうか。それは、現時点で利用可能な、「複雑な処理施設の潜在的な生産力を引き出し、資産投資の利益を高めることができる分析のツールやテクニック」が活用されていないからです。

Kassem氏は、このギャップを埋めるためにデジタルモデリングが役立つ可能性のある段階として、油田開発計画策定(FDP:Field Development Planning)を挙げます。FDPとは、企業が油田プロジェクトの計画を立て、そのプロジェクトの坑井を設計し、石油の生産方法について検討する段階です。

「デジタルモデリングを利用せずに油田を管理するのは、GPSを使わずに道路標識だけを手掛かりにどこかへ行こうとするようなものです」

INDY CHAKRABARTI氏
エマソン オートメーションソリューションズ社 E&Pソフトウェア担当シニア・バイスプレジデント

「この段階におけるほとんどの意思決定は、オペレーションの適切な規模を見きわめることに関係しています。規模は大きすぎても、小さすぎてもいけないのです」と、Kassem氏。「分析に不備があった結果、プロジェクトの規模を過大に設定してしまうと、資本支出に悩まされる可能性があります。同様に、プロジェクトの規模を過小に設定しても、手痛い支出が生じかねません。というのも、後からプロジェクトの規模を拡大するのは、初めから適切な規模を設定するよりも、はるかに高くつくからです。これが、デジタルモデルを利用することが非常に重要である理由です。入手可能なあらゆる情報にアクセスできるため、適切な意思決定を下すことができ、潜在的なミスを避けることができます」

「デジタルツイン」によるシミュレーションの利用をはじめとするデジタルモデリングは、実現が難しい大きな経済的利益をもたらす可能性があります。つまり、専門家によれば、オペレーションの最適化を確かなものにすることで、油田の寿命を延長できる可能性があるのです。

「今日の油田は、情報過多の状態にあります」と話すのは、石油・ガス業界向けにソフトウェアを利用したソリューションを開発するエマソン オートメーションソリューションズ社で、E&P(探査・生産)ソフトウェア担当シニア・バイスプレジデントを務めるIndy Chakrabarti氏です。「これは、考慮すべきデータが多すぎて、油田全体を横断した意思決定をいつまで経っても最適化できないことを意味します。そのため、一度に1つの坑井に集中せざるを得ず、結果的に問題が生じかねません。それよりは、すべての坑井を油田のライフサイクル全体を通じて同じ方法で制御できるほうが、はるかに適切です」

飛躍的に進歩するデジタル技術の採用

Chakrabarti氏いわく、デジタルモデリングを利用せずに油田を管理するのは、GPSを使わずに道路標識だけを手掛かりにどこかへ行こうとするようなものです。「5キロだけ移動するならば、標識だけでも問題ないでしょう」と、Chakrabarti氏。「しかし、5,000キロ移動する場合には、交通問題や迂回の必要性をあらかじめ余裕を持って知っておいたほうが、時間を大幅に節約できます」

Chakrabarti氏によれば、協調型のデジタル・プラットフォームがもたらすメリットは、油田の最適化だけにとどまりません。

「デジタル情報へのアクセスが向上する結果として、健康・安全・環境面のパフォーマンスのすべてが改善する可能性があります」と、Chakrabarti氏。「この種のシステムを導入すれば、測定したいあらゆるKPI[重要業績評価指標]を必要に応じて記録・更新できます。これは付加価値です」

For information on expanding the manageability of oil and gas fields, please visit:
http://go.3ds.com/bUTW 

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