米国および欧州では現在、合計約700万人 がトラックの運転手として働いています。こ れらの人々の雇用に対し、将来どのような影 響が及ぶ可能性があるのかについては、ま だ結論が出ていません。プッシュボタンがエ レベーター係に取って代わり、ATMが銀行 窓口係と入れ替わり、オンライン予約サービ スが旅行代理店の従業員を失業させたの に続き、自動運転車もトラック運転手の仕事 を奪ってしまうのでしょうか。また、医療診断や屋上太陽光発電の自動調整など、強力な コンピューター・アルゴリズムで代用可能な それ以外の仕事についてはどうなのでしょ うか。
あなたの仕事が反復的で、創造的思考を必 要とせず、プロセスとして書き出せるような ものならば、ロボットに乗っ取られる恐れが あります」と語るのは、『The Future of Work』 (未邦訳)の著者であるJacob Morgan氏で す。「そのような状況はいささか不安ですし、 不安に思うべきです。そこで被雇用者は、自 分のスキルを再構築することを考えなけれ ばなりません
第4次産業革命
18世紀末、産業革命によって機械が人を置 き換え始めて以来、テクノロジーは仕事の性 質を変えてきました。とはいえ、誰かが失業 するたびに、経済は多くの場合、それと同じ だけの、あるいはそれ以上に多くの雇用を、 より先進的な産業で新たに創出してきまし た。失業者が新しい仕事に就くためには再 び訓練を受ける必要があったとはいえ、新 たなスキルを身に付ける意欲のある人々に とって、まだ仕事は存在していました。
議論の的となっている主な問題は、新たな経 済の実態が、かつてテクノロジーが移行した ときの例をどの程度まで踏襲するのかという ことです。破壊される雇用と同じだけの雇用 が新たに生まれるのでしょうか。あるいは、 雇用なき未来が迫っているのでしょうか。つ まり、高度な教育と訓練を受けた少数の労働 者の集団だけが豊かに暮らし、残りの労働者 人は求職者の列に並ぶか、低賃金のパート タイムの仕事に就き、苦しい生活を送る。そ んなディストピア(暗黒郷)の世界が訪れよう としているのでしょうか。
多くの人は、ディストピアのモデルが最も 起こりうるのでは、と考えています。たとえ ば、スイスのダボスで開催された2016年の 世界経済フォーラム(WEF)では、世界中の 大手多国籍企業の人事担当役員を対象に した最近の調査結果が公表されました。こ の調査結果では、今後5年間で失われる雇 用の数は710万件にのぼり、その3分の2は オートメーションによって不要となる事務や 総務の仕事であると予測されています。ま た、蒸気機関、電気、コンピューターの登場 によって起こった3つの産業革命に続き、世 界は第4次産業革命に突入しつつあるとさ れ、テクノロジーの進歩と経済成長によって 新たに生じる雇用は200万件にとどまると も予測されています。言い換えれば、5年間 で正味500万件以上の雇用が失われるとい う事です。
710万件
今後5年間で失われることが 予測されている雇用の数。 出典はスイスのダボスで開催された 2016年の世界経済フォーラムで 公表された報告書。 この報告書の予測によれば、 経済成長によって新たに生まれる 雇用の数は200万件にとどまり、 5年間で500万件以上の雇用が 純減するという。
世界の最大手企業371社の人事担当役員を 対象にしたWEFの調査によれば、「回答者の 予想では、世界の労働力は職種・職能の間 で大幅な入れ替わりが起こり、総務職と定型 事務職は激減する恐れ」があり、コンピュー ター、数学、建築、エンジニアリングの分野は 安定して成長するといいます。
Jerry Kaplan氏は、1987年にタブレット型コ ンピューター分野の草分け的企業であるGO を設立し、のちにテクノロジーが社会に及 ぼす影響について研究した人物です。その Kaplan氏は、今回のテクノロジーの変化が 長期的には多くの経済的利益を生むと期待されるものの、短期的には過酷な影響をも たらす可能性があると予測しています。「ロボット、機械学習、コンピューターの分 野における最近の進歩により、人間の能力 に匹敵するか、それを上回るような新世代 のシステムが可能になりつつあります」と、 『Humans Need Not Apply: A Guide to Wealth and Work in the Age of Artificial Intelligence』(未邦訳)の著者であるKaplan 氏は述べています。「その理由は二つ。オート メーションの分野でイノベーションのペース が上がっていることと、人工知能の分野でい くつか大きな進歩があったことです」こうし た変化の多くは社会に利益をもたらします が、「私たちは長期にわたる社会的な混乱に 直面するかもしれません」
危機にさらされる専門職
今後数年以内に起こりうる大きな変化の例と して、Kaplan氏は医師とパイロットを引き合 いに出します。どちらも、簡単に替えが効くは ずはないとほとんどの人は思い込んでいる 専門職ですが、Kaplan氏はこう反論します。 細心の注意を要するような手術の一部は、す でにロボットによって行われており、多くの 病気の診断については、人間よりもアルゴリ ズムのほうが得意である。そして、航空機に 搭載されるのオートメーション機能は、人間 のパイロットよりも、安全面ではるかに優れ た実績を残していると説明します。
ドイツ・シュトゥットガルトにあるフラウン ホーファー製造技術・オ自動化研究所(IPA) でロボット・支援システム部門を統括する Martin Haegele氏は、職場のロボットは今 後、現行のモデルよりもさらにスマートかつ 柔軟になるのではないかと述べています。 今日のロボットはほとんどの場合、生産現場 で1種類の反復作業を行うにとどまっていま す。次世代のロボットは、人間の上半身に似 た腕の付いたボディを持つことになるでしょ う。これらのロボットは人間と協力して働き ます。そして人間は、実際に作業を進めなが らそれぞれのロボットを訓練することがで き、プログラミングをする必要はないという のです。
テクノロジーの変化はまた、前述のJacob Morgan氏が「フリーランス経済」と呼び、他 方では個人タクシー配車サービスの名称に ちなんで「ウーバー(Uber)経済」ともいわ れているものをもたらすとも考えられます。 ウーバーのサービスに対しては、いくつかの 都市でタクシー運転手による抗議運動が広 がりました。これは、19世紀の英国で自動織 機に職を奪われた繊維産業の労働者がラッ ダイト運動を起こしたことを彷彿させます。 Morgan氏が言うには、スマートフォンやイン ターネットのようなイノベーションを利用す ることで、フリーランスワーカーは一つのオ フィスに縛られることなく、働きたい分だけ 働くことができます。その結果、企業は労働 力の半数をフリーランスワーカーに置き換 えるだろうとMorgan氏は予測しています。フ リーランスワーカーのアウトプットは監視し やすく、報酬の支払いも容易で、間接費の削 減につながるからです。しかも、不況時にレ イオフを発表して悪評が立つこともなくなり ます。
楽観的な見方
とはいえ、誰もが雇用について暗澹たる未 来像を思い描いているというわけではあり ません。ロンドン・スクール・オブ・エコノミク スに在籍する経済学者のGuy Michaels氏は 2015年、ロボットを導入済みの、主に製造部 門の14業種における雇用について調査した 論文を発表しました。Michaels氏は、ロボッ トによって雇用がある程度は失われたもの の、それらの業種で新たな雇用が生じたこと により、喪失分がほぼ相殺されたことを明ら かにしています。ただし、失業者一人ひとり の生活が経済的に向上したのか悪化したの かを確認することはできませんでした。この 調査は、世界17カ国の企業を対象に実施さ れたものです。
“「あなたの仕事が反復的で、創造的思考を必要とせず、プロセスとして 書き出せるようなものならば、ボットやロボットに乗っ取られる恐れがあります」”
JACOB MORGAN氏
“The Future of Work(” 未邦訳)著者