「エクスペリエンス」の声

米航空宇宙局(NASA)長官、Charles F. Bolden Jr.氏 人が宇宙で過ごす時間が「エクスペリエンスのインターネット」について私たちに教えてくれること

Charles F. Bolden Jr.
23 October 2015

アルキメデスは近代天文学と発明の偉大な先人の1人です。彼はヒエロン王に、「てこ」と「立つ場所」さえあれば地球を動かすことができると豪語したと言い伝えられています。お手並み拝見と考えた王は、浜に乗り上げた船を海に戻すようにアルキメデスに命じました。アルキメデスはひるむことなく、てこや支点、滑車を使用したシステムを考案して自分一人の力でその船を動かしました。

人類のイノベーションは、全力を尽くして方法を見つけ出し、夢を持って実行する人々の物語です。また、宇宙探査の分野では、人類は公式や実験、方程式だけでなく想像力や独創性、コラボレーションも駆使して、全力を尽くしても成し得ないようなことを乗り越えました。それは、不可能に思えるアイデアを思いつき、実際にそれを実行する人々の物語です。

私たちが認識する「現実の概念」は、それによる制限を拒む人々によって日々拡張されています。アルキメデスが「地球を動かす」と豪語してから二千年以上経過した今日、彼の子孫たちは、地表から離れたところに革新的なラボを作り出しました。国際宇宙ステーション(ISS)は人類のエンジニアリングとイノベーションの驚異と言えるものであり、NASAが2030年代に火星へ宇宙飛行士を送り込む計画を含め、人類にとって太陽系の他の惑星への足掛かりとなるものです。ISSでは、地球から離れたところで宇宙飛行士たちが地球のために、科学の進歩を促進し、私たちの生活の質や健康状態を高め、きれいな水や空気を維持する画期的な技術に関する仕事をしています。

国際宇宙ステーションはサッカー場がまるまる一つ必要なほどの長さと幅を持つ軌道上の実験室であり、まさに文字通り「大きな」夢なのです。六つのベッドルームを備えた伝統的な家よりも広く、一日の移動距離は地球から月までの距離に匹敵します。これまでに訪れた人の数は200名以上にのぼります。

驚くべきことは、この宇宙ステーションはどこかの国においてではなく、実際に宇宙で組み立てられたということです。10年以上にわたる組立作業を経て誕生したもので、宇宙での組み立てミッションは41におよび、五種類の異なる打ち上げロケットを使って実施された115回以上の宇宙飛行と、数では表せないほどの想像力と人間の知恵によるものでした。ISSが軌道上で使用しているソフトウェアは、およそ35万個のセンサーを監視しています。米国のセグメントだけでも、150万行におよぶコードで書かれた飛行用ソフトウェアが44台のコンピュータで実行されており、100のデータネットワークを介して40万におよぶ信号を伝達しています。

「私たちが”エクスペリエンスの インターネット”の エンジニアリングを 進めれば進めるほど、 可能性の間口を 広げることになります」

CHARLES F. BOLDEN JR.氏
米航空宇宙局(NASA)長官

この地上約400km上空を周回するISSは、男女を問わず、16の国々と米国の37の州から集結した創造力あふれる10万人以上の人々の努力の賜物であり、彼らは、既存の概念を甘受することを拒み、人類の可能性や進歩の概念を変えることを選択したイノベーターです。

ISSはインターネットとよく似ており、連動する一連のシステムで構築されています。個々のシステムはそれぞれが極めて複雑で、それらを一つにまとめることで非常に複雑でパワフルなシステムを構築し、人類の可能性の限界に挑みます。実際のところ、ISSはインターネットの前身であるARPAnetとよく似ており、考案した人々が考えもしなかったようなあらゆる種類の画期的な技術を生み出してきました。

● 今日、宇宙ステーションでの実験に使う正常な細胞組織を培養するバイオリアクターで育てられた細胞をどのように利用すれば、糖尿病や心臓病、鎌状赤血球貧血などの病気に対処できるのかを研究しています。
● 宇宙で生活し、作業する目的で開発されたテクノロジーを応用して、世界中の人々が安全できれいな水を飲んでいます。
● 「モノのインターネット(IoT)」の設計に携わっている技術者たちは、NASAのテクノロジーを利用して、インターネットで制御する台所用器具やサーモスタット、車などを開発しています。こうした製品ではいわゆる「ウェブ・テクノロジー」が活用されており、離れた場所からの更新や連携が可能なスマートなモノを接続してネットワークを構築し、「エクスペリエンスのインターネット」を実現します。

もちろん、これらは一例にすぎません。重要なことは、宇宙飛行士が宇宙で仕事をして太陽系における人類の存在感を高めれば高めるほど、彼らは私たちが地球上でできることの間口も広げているということです。

こうしたことは総体的に、「モノのインターネット(IoT)」の設計やそれによって実現される「エクスペリエンスのインターネット」に携わる人たちに何を教えてくれるのでしょうか。

第一に、「それは不可能だ」という言葉は、自ら失敗を招くということです。また、私たちが国境を超えて人類のために協力し合えば、可能性は無限だということです。そして、私たちが常に技術的進歩を追求していれば、さらなるイノベーションや新たな発見、人類にとってのメリットに関してとてつもなく大きな相乗効果が生まれるということです。

宇宙での存在感を高めれば高めるほど、私たちは自分たちのことや、自分たちの居場所についてより深く知ることになります。そして私たちが「エクスペリエンスのインターネット」のエンジニアリングを進めれば進めるほど、生活の質や互いの絆を深めながら、私たちの可能性の間口も広げることになるのです。

プロフィール

Charles Frank Bolden Jr.(Charlie Bolden)氏は、2009年に米航空宇宙局(NASA)の第12代長官に就任しました。アメリカ海兵隊での34年間のキャリアには、NASAでの14年間の宇宙飛行士としての職務や計4回のISSのミッション(2回は船長として、2回は操縦手として)も含まれています。Bolden氏が参加したミッションには、ハッブル宇宙望遠鏡の配備や、アメリカとロシア合同での初めてのシャトルミッションも含まれています。Bolden氏はサウスカロライナ州コロンビアの出身で、電気科学の学士号とシステム管理の修士号を取得しています。

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