エクスペリエンスの声

Kevin Hallock氏 ファイザー社ビジュアリゼーション/モデリング研究者


20 November 2016

化 学 者 、生 物 学 者 、臨 床 医 の 3 人 が 一 緒に部屋に入り、あるタンパク質を どのように説明するのかについて、 意見をまとめようとします。ちょっと聞いただ けでは、何かの冗談と思うかもしれません。

ただしファイザー社にあるその部屋には、タ ンパク質や人間の生理学的なモデルを3Dの 巨大なバーチャル映像で表示し、研究者たち が映像の中に没入できる設備が備わってい ます。その成果は冗談どころか素晴らしいも のです。研究者たちは複雑なデータがもたら すものへの理解を深め、課題を共有できる ため、研究をより効率的に進めることができ ます。その結果が成功であれ失敗であれ、VR を 使 わ な か っ た と き よ り も 、ず っ と 早 く 結 果 が分かるため、何らかの発見に至るまでに、 うまくいかないものを速やかに排除していく ことができます。

見ることで認識を共有できる

タンパク質は創薬に必要不可欠です。こうし た複雑な立体分子構造には、多くの場合「活 性 部 位 」と呼 ば れる 部 位 が 存 在しま す。この 部位では、必須の化学反応が起こる中でタン パク質の標的への結合が形成されたり破壊 さ れ た り し ま す 。医 薬 品 の 開 発 過 程 で は 、活 性部位の挙動を変えたいという場合も多い のですが、タンパク質のしくみを解明するの は容易ではありません。さまざまな専門分野 の同僚たちとこうした反応について議論する のも、同じように大変な作業です。なぜなら、 化学者、生物学者も臨床医も、それぞれが同 じ問題を異なる切り口から話すからです。

そ こで、タンパク質のあらゆる部分を全員が同 時 に 見 ら れ る よ う に す れ ば 、2 次 元 画 像 を た くさん使って複雑な説明をする必要がなくな り、コラボレーションが促進されます。VRを介 してお互いに新しい知識も提供しあえるた め、プロジェクトでそれぞれが担当する作業 を全員が共同で素早く進められます。

臨場感あふれるVRの登場によって、既存の ツールも活きてきます。研究者はX線結晶構 造解析法や分子力学シミュレーションを用い てタンパク質の構造をコンピュータのディス プレイに表示できますが、タンパク質の立体 構造全体を一度に見ることはできません。し かしVRを使えば、こうしたデータもすべて表 示できます。VRを活用することで、研究者たち は分子を自動車の大きさにまで拡大表示し、 さまざまな角度から捉えて検証できます。シ ミュレーションも繰り返し実行し、さまざまな 角度から表示できます。複数のタンパク質構 造を重ね合わせれば、微妙な違いも適切に把 握できます。そして臨場感あふれるシミュレー ションを同僚と一緒に見ながら、「ここを見て。 わかる?」といった会話ができるのです。

2次元情報の不足を補う

科学的な研究でバーチャル・リアリティが活 きてくるもう一つの分野が神経解剖学です。 人間の脳には数十億に及ぶニューロンに よって神経回路が構成されており、それぞれ の接続部の数は桁違いです。

MR(I 磁気共鳴 画 像 法 )を 用 い る と 脳 の 構 造 や 機 能 を 見 る こ とができますが、立体的な脳も現状では二 次 元 の 断 面 図 で し か 表 示 で き ま せ ん 。そ の た め 、全 体 を 把 握 す る に は 、二 次 元 の 断 面 図 を 順 次 確 認 し て い き 、 ど こ で ど の よ う に パ タ ー ンが出ているのかを頭の中で考える必要が あります。優れた放射線専門医であればこう した考察も可能ですが、建築家や建設業者 が二次元図を頭の中で立体的な建物に移し 換えられるのと同じで、長年の経験と慣れを 要します。

MRIからVRへの変換は自動的には行われま せんが可能です。何十年も経験を積んだ脳 外科医でも、臨場感あふれるVR環境で初め て脳を見ると驚きます。VRが臨場感あふれる ものであれば、自分が壁に囲まれた部屋の 中にいることを忘れてしまい、興味を持った アイテムに向かって動きながら壁にぶつかっ てしまう人は一人や二人ではありません。そ れは誇張された映画のようですが、あなたは 観客席に座っているのではなく、映画の真っ 只中にいます。

VRを使えば、自分の身長がわ ずか2ナノメートルだったら、あるいは身長が 20フィート(6.1.メートル)あったら、分子がど のように見えるのかを体感できます。視点を 変 え て 理 解 を 深 め ら れ る よ う に し て 、新 た に 進むべき道を見極めようと努力している研 究者を後押しします。

ラーニングカーブに沿って 全速力で飛ばす

フ ァ イ ザ ー 社 が バ ー チ ャ ル ・ リ ア リ テ ィ( V R ) 研究室を開設した当初の目標は、テクノロ ジーに何ができるのかを学ぶことでした。経 験による強みも欲しかったのですが、今では あらゆる専門分野を超えてバーチャル・リア リティにますます注力し、それを十分に活用 する態勢が整っています。非常に多くの社員 が 臨 場 感 あ ふ れ る バ ー チ ャ ル ・リ ア リ テ ィ に 向き合い、その優位性を広く人々に啓蒙する こ と に よ り 、社 会 的 意 義 も も 見 出 し て い る か もしれません。

始めたころはヘッドマウントディスプレイ ( H M D )が 間 も な く 発 売 さ れ る と こ ろ だ っ た の で 、や っ て み る こ と が 大 切 だ と 認 識 し て い ました。今は機材が整い、本当にわくわくして
います。

科学を基盤とする多くの企業がVRを使えば、 より多くのソフトウェア企業がそれをサポー ト す る よ う に な り 、誰 も が 自 分 の デ ー タ を 簡 単 に 視 覚 化 で き る よ う に な り ま す 。そ う な れ ば 、研 究 者 は 自 由 に 利 用 で き る 膨 大 な 量 の 情 報 を よ り 簡 単 に 、そ し て よ り 迅 速 に 取 捨 選 択 し 、 調 査 ・ 認 識 で き る で し ょ う 。「 発 見 す る こ と」の意味が変わり続けていく可能性があり ま す 。そ し て そ れ は 創 薬 だ け で な く 、教 育 や コミュニケーション、人知の未来にとっても、 わくわくするような展望なのです。◆

Kevin Hallock is Lead Modeling and Visualization Scientist at Pfizer, and a senior manager in the company's Quantitative Medicine line. (Image © Pfizer)

プロフィール

Kevin Hallock氏はファイザー社の Quantitative Medicineラインのシニ ア・マネージャーです。Hallock氏はモデ リン グ や ビ ジュアリ ゼ ー ション を 主 導 し 、 ファイ ザ ー 社 の ビ ジュアリゼ ー ション セ ン タ ー や そ の 他 の モ デ リン グ プ ロ ジェク
トも率いています。

Hallock氏は、固体核磁気共鳴法を用い て機械的に並んだ脂質二重層で自然発 生 す る 抗 菌 ペ プ チ ド を 研 究 し 、米 国 ミ シ ガン大学で物理化学と生物物理学の博 士 号 を 取 得 し ま し た 。米 国 ボ ス ト ン 大 学 医学部で博士課程終了者向けの磁気共 鳴顕微鏡法や磁気共鳴映像法のトレー ニングを受け、磁気共鳴法を発展させて ミ バ エ か ら ヒト ま で を 対 象 と す る 生 体 の 研究を行ってきました。

Watch Pfizer’s VR lab in action :
http://3ds.one/PfizerVR

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