デンマークのThorkil Sonne氏の息子のLars君は、2歳のときに自閉症と診断されました。しかし、Sonne氏はその事実を信じようとはしませんでした。
「家にいるときのLarsは年長の兄弟たちと何ら変わるところもなく、家族の中で実に機嫌よく過ごしていました。ですから、自閉症だと告げられたときには動揺しました。当初は、診断は間違いだ、おそらく別の子供を診察したのだろうと思っていたのです」と、Sonne氏は述べています。
しかし、Lars君が学校へ通うようになると、新しい環境の中では息子が全く別人のようになることをSonne氏は知りました。
「学校ではLarsはほとんど口をきかず、目も合わせず、他の子供とゲームをするのも嫌がりました」(Sonne氏)
先入観をくつがえす
その後何年もの間、Sonne氏は自閉症に関する最新の研究資料を読み漁りました。
「自閉症に対する私の認識が180度変わりました。それまでの私は、駄々をこねている子供を見ると、親が未熟なせいだと決めつけていました。しかし、今はただ彼らを抱きしめてあげたい。自閉症の親がどれほど辛い日々を過ごしているか、私には痛いほど分かるからです」(Sonne氏)
「学校では、自閉症児にあまり目が向けられていないことがよくあります。そのため、彼らの周囲の人たちが自閉症者の才能に気付かないように、自閉症者自身も自分の才能を肯定できないことがほとんどです。一般に、普通とは異なると見なされる人に対して世の中はあまりやさしくありません。そしてこのような周囲の態度が、自閉症者の自己評価に影響を与えています」(Sonne氏)
「成人の自閉症者を適切にサポートすれば、彼らは単に仕事をこなせるという以上に、その仕事に最適な人材にもなれるのです」
THORKIL SONNE氏
SPECIALISTERNE創業者兼会長
この本質を理解したことでSonne氏はひらめきました。「変わるべきはわれわれの社会の側ではないかと気付いたのです。実際、成人の自閉症者を適切にサポートすれば、彼らは単に仕事をこなせるという以上に、その仕事に最適な人材にもなれるのです」(Sonne氏)
デンマークの通信会社、TDCのテクニカルディレクターを務めるSonne氏は、高度に精密な作業に適した個性をもつ就職希望者を探すのが難しいことを知っていました。
「記憶力、認識力、細部への注意力、さらに反復作業の正確さに優れ、誠実かつ素直で、自分のやっていることに誇りを持てる。そういう人材を探すのに我々は四苦八苦していました。これらはまさに自閉症の人たちによくある特質なのです」(Sonne氏)
社会への挑戦
自身の息子からインスピレーションを得たSonne氏は、2003年に行動を開始。自閉症者を理解し、受け入れることに投資をすれば、きわめて大きな価値がもたらされることを企業に証明しようとしました。彼は自宅を担保に資金を調達し、デンマーク語で「スペシャリスト」を意味する会社、Specialisterneを起ち上げました。Sonne氏が目指したのは、自閉症者にとって快適な居場所を職場の中につくることでした。
Sonne氏は、経験からチャンスが生まれることを多数の就職希望者に確信させました。「彼らへの理解を深めるために、5ヵ月間かけて能力調査を実施しました。全員がうまくいったわけではありませんが、ほどなく当社のリストにはかなりの人数がテクニカルスペシャリストとして登録されました」(Sonne氏)
16%
Sonne氏の次の課題は、自閉症が強みになることを雇用者に理解してもらうことでした。「旧態依然とした労働市場で自閉症者を採用してもらうのは困難でした。だからこそ、当社はコンサルタント会社として始動し、自閉症の就職希望者を実際に当社で採用して社内で仕事を見つけました」(Sonne氏)
グローバルへの展開
Sonne氏の評判は高まっていきました。そのうちにSonne氏の元にMicrosoftやSAPを始めとする世界中の大手企業から問い合わせが舞い込み始めました。
それでもまだ前途は多難です。
Sonne氏は次のように語っています。「私はいつもタンポポに例えて話をします。子供にとってタンポポは魔法の花です。ワクワクしながら近づき、この花に願いをかけたものです。ところが大人になった途端、たくさんの喜びをくれたこの花を嫌うようになります。はた迷惑な雑草だと言って」
「うまく扱えば、タンポポは美味しいハーブになります。雑草ではなく花として見る目をもたなくては、タンポポの真価を得ることはできないのです」