5G時代のIoTのタイヤ

タイヤのセンサーからのリアルタイムな情報で、自動車の安全性とサービスを向上

William J. Holstein
9 September 2020

タイヤメーカーでは既に、オール電化や完全に自動運転の自動車などの新たなモビリティ形態に合わせて最適化した新しいタイヤの開発をしていますが、タイヤにセンサーを組み込むことで、運転時の挙動とタイヤや路面の状態に関する情報を一段と充実させ、ドライバーに付加価値と安全性の両方を提供することができます。  

クレルモン市は「フランスのアクロン(米国オハイオ州の都市、タイヤ開発の聖地)」の愛称で親しまれており、Pascal Zammit氏はそこでタイヤの未来を築こうとしています。

世界最大のタイヤメーカーとして知られるミシュランで、コネクテッド・モビリティ部門のバイスプレジデントを務めるZammit氏は、道路を走行する自動車に取り付けられた数百万本ものタイヤと通信できるようにする技術の開発に取り組んでいます。同社は、2023年までにRFID(radio frequency identification) 通信技術の利用を拡大して、これから製造する数百万本ものタイヤをすべてIoT(モノのインターネット)にする計画です。それにより最終的には、タイヤの状態や重要な情報をドライバーに通知できるようになります。

同社は既に、子会社であるViaMichelin社のサービスを通じてルート案内を提供しているため、タイヤのスローリークを感知した時にドライバーに警告することができますが、そこに新たなデータを組み込むことで、たとえば、ドライバーに運転前に新しいタイヤに交換する必要があるかどうかを確認する機能などを備えた予知保全サービスを導入することも計画しています。

「将来的には、運転中のドライバーの挙動とタイヤや路面の状態を、当社で把握できるようになると思います」とZammit氏は述べています。

運転データ

2020年2月にフランクフルトにて開催されたTireTech Internationalにて、タイヤから非接触でRFIDを読み取るデモを行うミシュランのコネクテッド・モビリティ・チーム (画像 © ミシュラン)  

地球の裏側にある米国バージニア州のブラックスバーグでは、Center for Tire Research(CenTiRe)の研究チームがさらに壮大な計画を立てています。タイヤメーカーと2つの大学(バージニア工科大学とオハイオ州アクロン大学)から成るグローバルな共同事業体であるCenTiReでは、主に実験室内でタイヤの研究を行っています。CenTiReの創設者であるSaied Taheri氏によると、同社の研究チームは、広範囲に及ぶデータを収集するためにタイヤに組み込むタイプのセンサーを利用しているとのことです。例えば、走行中にタイヤが接触している路面はアスファルトなのか、コンクリートなのか、積雪や凍結はあるか、ハイドロプレーニング現象またはスリップの危険はあるかなど、こうした情報をドライバーやエリア内の他の自動車に提供することで、安全な走行を続けることができます。道路の状態や渋滞に関する情報が、車同士の通信だけでなく、橋やトンネルとの通信によっても得られるようになるのです。  

このタイヤ・インテリジェンス革命は、4Gと比べて最大100倍の速度で通信が可能とされる第5世代移動通信システム(5G)に対応したIoTの出現によって実現します。タイヤ業界のイノベーターは、センサーを搭載したタイヤが、車とドライバー、車と車、車とインフラの間の通信において中心的な役割を果たすことになったときに備えて、準備を進めています。

タイヤの空気圧や温度を検知するセンサーがついたタイヤは既に存在しますが、加速度計などを含む、さらに多くの機能の開発が進められています。こうしたセンサーは走行中のタイヤの摩擦をとらえることができます。タイヤメーカーでは、タイヤの側面からもう一方の側面まで届く幅20センチ(8インチ)程の「パッチ式」センサーが考案しています。それぞれのパッチには64個ものセンサーを配置でき、ハンドルを切ったときの路面との接触により、健全性や安全に関する問題を検知すると即座に「エコシステム」全体に通知します。

早すぎる変化

このような変化が急速に進んでいるため、スマートタイヤに関する規制や、そのテクノロジーを自社の車両に組み込もうとする自動車メーカーに対する規制の枠組みをつくる、政府の機能が追いつかない可能性もあります。

道路、自動車、ドライバーが完全に相互につながるシステムの構想を実現するためには、まず政府と関係者が、システムのコンポーネントに障害が発生した場合に責任の所在を明らかにする、通信規約や法的枠組みに合意しておく必要があります。また規制当局は、タイヤから送られてくるデータの所有者や管理者が、ドライバー、自動車メーカー(OEM)、タイヤメーカーのいずれになるのかということも決めなければならないかもしれません。

自動車メーカー側も、技術の開発に年月を費やした複雑なシステムに、この新しいテクノロジーを統合するには時間が必要だと示唆しています。多くの場合、統合には5年ほどの計画が必要になるでしょう。しかし、「5年後には、このテクノロジーの大部分が時代遅れのものとなっているでしょう。その頃には、新たなセンサーや新しい形態の通信が出てきているでしょう」と、CenTiReのTaheri氏は言います。

こうした軋轢は、急速に発展するテクノロジーと、それを管理し具体化する人間の能力の競走の一例です

また、ミシュラン社は、データを所有するのはオーナー(またはユーザー)であるという立ち位置を明確にしています。「ユーザーのデータを尊重することは基本であり、共有するデータやそれを使用するサードパーティーのサービスプロバイダーを、オーナー(またはユーザー)が自由に選択できることを当社の信念としています」と、Zammit氏は述べます。

100倍

5Gで予想される通信速度は4Gの100倍です。5Gの通信速度がタイヤ・インテリジェンス革命を実現します

今月(2020年9月)、同社は実現可能な未来像の一例としてデモを行い、ブリュッセルの欧州当局に車載データを利用した予知保全サービスについて発表する予定です。ミシュランは、完全に標準化された、セキュアで、ハッキング対策が徹底されたシステムの構想を練っています。これは、未来の自動車を開発しようする企業が考慮しなければならない、もう一つの重要な課題です。

こうした取り組みは、自動運転車を開発して実用化する際に、タイヤが最終的に重要な役割を果たす可能性を意味します。CenTiReのTaheri氏によると、研究チームは既に、数千マイルも離れた所からタイヤが穴や地割れのある路面に接しているかどうかを確認して、自動車の高度なシャーシ制御システムや安定制御システムに情報をフィードバックすることで、自動車を自動的に減速させたり、道路の状態に適応させたりすることができる、とのことです。  

自社製品がモバイル通信プラットフォームに移行しつつあるOEM(自動車)メーカー側からすると、懸念点は、センサーの一つが故障したり、自動車の安定性を制御するシステムの一つに情報が正しく送信されなかったりした場合、どうなるかということです。また、タイヤからの情報の流れが急に停止した場合、ドライバーの安全を損なわずに従来の安全システムを自動的に作動させるには、どのように自動車のシステムを設計すれば良いのでしょうか。

「それは、チームでも答えを見つけ出せていない難しい問題です。まだフェイルセーフ(障害が発生した場合でも安全が維持できるような設計)ではないのです」と、Taheri氏は答えます。

しかし、新しいテクノロジーに伴う多くの問題のように、これも、時間が解決する問題にすぎないのです。

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